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新しいIT戦略でリテラシー教育を説く誤り

2013年06月03日 16時56分 JST | 更新 2013年08月02日 18時12分 JST

新しいIT戦略『世界最先端IT国家創造宣言』の素案が公表され、パブリックコメントにかけられている。興味深い施策が並んでいるが、違和感を持つ項目もあった。その一つがリテラシー教育である。素案には次のように書かれている。

ITの活用により、子供から高齢者まで、そのメリットを享受して豊かに生活を送ることができるよう、情報モラルや情報セキュリティに関する知識を含め、国民全体のITリテラシーの向上を図る。このため、子供から学生、社会人、高齢者に至るまで、そのリテラシーの現状も把握しつつ、年代層別に、ITに関する知識を身につけるための取り組みを推進する。

ちょっと待ってほしい。スマートフォンやタブレットはITリテラシーがなければ利用できない機器なのだろうか。書き順などを覚えさせるために、幼稚園児にタブレットを与える試みが、広く行われているのはなぜだろう。コミュニケーションツールとしてタブレットを普及させようと、高齢者団体が動いているのはなぜだろう。電車に乗るときほとんどがSuicaを利用しているが、講習も受けずに利用できているのはなぜだろう。

最近普及しているのは、特別なリテラシーを必要とせず、直感で操作・利用できるIT機器・サービスばかりである。「国民全体のITリテラシーの向上を図る」という目標の、なんと前時代的なことか。もちろん、情報モラルや情報セキュリティに関する知識は重要であり、教育していく必要がある。しかし、それと「年代層別に、ITに関する知識を身につけるための取り組みを推進する」のは別の話である。

IT基本戦略が初めて公表されたのは2000年だが、当時の社会環境ではITリテラシーの向上は必要不可欠だった。政府は数百億円規模の交付金を地方に交付し、IT講習会を実施した。『平成14年版情報通信白書』によると、2001年度までに、全国で約550万人程度の成人を対象にしたそうだ。しかし、今、再びIT講習会を実施するのは、税金の無駄である。

わが国では高齢化の進展とともにITの利用者も必然的に高齢化しつつある。したがって、高齢者が利用できるようにアクセシビリティとユーザビリティに配慮してITを提供していくことこそ基本戦略にすべきだ。特別なITリテラシーを必要としない製品・サービスが世界市場で成功し、国家競争力を強化するという側面もある。ITリテラシーよりもアクセシビリティとユーザビリティを重視すべきというコメントを、仲間と準備中である。