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遺伝子検査と消費者保護

2014年01月14日 23時52分 JST | 更新 2014年03月16日 18時12分 JST

先般、記事「遺伝子検査とオーダーメイド医療:ビッグデータ解析の新たな可能性」を投稿した。その中で、米国企業23andMeが99ドルでの遺伝子検査ビジネスを拡大していたが、米食品医薬品局(FDA)に警告され、昨年11月にサービスを停止したと書いた。ところが、その後、WebRONZAで片瀬ケイさんが「FDAにサービスの継続を求める嘆願書への署名集めが始まった」と報じているのに気付いた。確かに、署名集めのサイトが存在し、そのサイトによれば、1月1日には署名者が9000名を突破したようだ。

片瀬さんは「遺伝子情報を適切、安全に活用していけるようなガイドラインが早急に確立されることを願いたい。」と記事をまとめているが、検査結果には間違いが含まれていることを承知の上で、署名者はサービスの継続を願っている。このような検査には検体を集めるほど精度が上がる性質があるので、遺伝子検査技術の将来的発展を期待して署名しているようだ。

このできごとは「消費者保護とは何か」について考えさせられるものだ。消費者は弱者であり保護は行政の責任であると僕らは考えがちだ。消費者庁の消費者保護・食材偽装対策予算30億円が認められたと産経新聞が報じている。農林水産省が特産品の産地名をブランドとして保護する新たな法案を準備しているという東京新聞の記事もあった。これらに違和感を覚えないのは、保護は行政の責任と思い込んでいるからではないだろうか。

しかし、一方に、自らリスクを背負い込もうとする消費者も存在する。遺伝子検査継続の署名者はそれにあたる。各国政府が警戒しているビットコインに手を出す消費者はリスクを知っているか、それとも政府が保護すべき弱者だろうか。消費者にリスクを説明するために対面契約が義務付けられている事例もある。不動産契約に際して必ず行われる重要事項説明が、その例だ。しかし、このような対面原則はネットビジネスの発展を阻害すると、IT総合戦略本部の規制制度改革分科会で、新経済連盟が問題提起している。

それでは、ネット上に利用規約や重要な説明(総称すれば「約款」)を表示していれば、リスクのあるサービスも提供できるとしたら、何が起こるだろうか。「遺伝子検査は確立された技術ではない」「この不動産には浸水の恐れがある」というように表示するのだ。

「ネット上の利用規約など誰も読まない。ただ、同意をクリックするだけだ」というような、消費者の実態を反映した反論が出るかもしれない。一方で、消費者が約款を読むことを前提としたほうが、新しい、リスクのあるサービスに挑戦できるようになり、経済は活性化されるという事業者よりの意見もあるだろう。

消費者が絶対的保護を求めるのは甘えだと、ぼくは考える。そもそも、事故の確率的発生を甘受しつつ、人々は自動車交通を利用しているではないか。もちろん、強制保険によって損害賠償する制度的歯止めや、自動停止装置の開発のような技術的歯止めによってリスクを減じる社会的な努力は続けられているのだが。同じ文脈で、遺伝子検査技術発展のためにサービスは停止させるべきではなく、検査の利害について啓発に努めるべきだという署名者の意見に僕は同調する。

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