出口の入口:『日本の未来を考えよう』第2回 GPIFが損失を出しても公的年金保険制度が破綻しない理由

「年金制度が破綻する!」「将来、年金がもらえなくなる!」と若干過剰な反応を見せる人たちが少なからず現れますが、それは誤りです。理由は2つ...

GPIFが損失を出しても公的年金保険制度が破綻しない理由

8月末に、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2四半期連続で巨額(5.2兆円)の運用評価損を出したことが報道されました。GPIFは国民から集めた公的年金の積立金で債券や株式を買って運用し、少しでも積立金を増やそうと活動をしている国の機関です。

こうしたニュースを前にすると、「年金制度が破綻する!」「将来、年金がもらえなくなる!」と若干過剰な反応を見せる人たちが少なからず現れますが、それは誤りです。理由は2つあります。

理由①公的年金全体の資金の流れを見ると積立金のウェイトは小さい

厚生労働省のHPを見ると、公的年金全体の資金の流れは上図のようになっています。すなわち市民に支払う年金給付額(54.2兆円)の大半は、社会保険料(35.1兆円)と国庫等の負担(12.2 兆円)で賄われているのです。積立金は補助的な役割にすぎません。

また、この図だけを見ても、「年金制度が破綻しないこと」や、「若い世代の方でも将来かならず年金がもらえること」を読み解くことができます。

なぜなら、仮に公的年金の積立金が枯渇したとしても、①保険料を上げるか、②国庫等の負担を増やすか、③年金給付を下げる(たとえば一定の資産を持つ人には年金を支給しないなど)、の3つの選択肢を組み合わせることによって、年金制度はいかようにも調整できるからです。

年金制度には「負担が給付」の大原則が貫かれています。「負担が給付」とは、政府が行うどのような政策(市民にとっては給付)であれ、その財源は市民の負担、すなわち社会保険料や税金以外にありえないという原則です。これは万国共通の真理であり、ファクトです。つまり、給付を増やそうと思えば負担を増やすしかなく、逆に負担を減らそうと思えば給付を下げるしかないのです。

理由②GPIFの運用資産はまだ129.7兆円ある

第2の理由は、資産運用である限り市場の変動に伴うマイナスが出ることは避けられません。GPIFの運用資産額は2016年6月末の時点でまだ129.7兆円あります。日本の国家予算96.7兆円よりも多いのです。

これだけ規模が大きくなると「池の中のクジラ」のようなものですから、なかなか機動的な運用を行うことが難しくなります。しかも、GPIFは諸外国の年金基金などとは異なり、株式のインハウス運用(自ら直接投資を行うこと)が禁止されているなど、制約が非常に多いです。いわば手足、クジラならヒレが縛られている状態。そうすると余計に市場変動の波をモロに浴びることになります。

一般に、資産運用のパフォーマンスは、ほぼポートフォリオ(金融資産の組み合わせ)で決まると言われています。GPIFは2014年にポートフォリオを大きく組み替えました。それまでの国内債券が60%を占める、いわば「ローリスク・ローリターン型」から、国内外の株式がそれぞれ25%(合計50%)を占める「ハイリスク・ハイリターン型」へと転換したのです。

「5兆円台の運用評価損」とメディアが喧伝するとみなさんはびっくりされるかもしれません。しかしそれは、国家予算よりも多い額を運用しているGPIFの規模と、現在採用している、内外の株式比率を高めたポートフォリオを考えれば、ごく普通の、起こって当たり前の現象だと考えるべきです。もしこの運用評価損を少なくしたいのであれば、

①運用規制をなくして小回りがきくようにする。

もしくは、

②ポートフォリオ自体をもう一度見直す、

以外に方法はありません。

なお、GPIFは運用の内訳を詳細に開示しています。ぜひ一度、GPIFのHPをご覧になってみてください。

資産運用ではもうひとつ大切な点があります。それは市場の動きに一喜一憂しないことです。GPIFの前身を含め、わが国の年金基金が自主運用をはじめた2001年度からの累積収益は40.1兆円に上っています。つまり、通期ではプラスを維持しているのです。

ただし、ポートフォリオを組み替えた2014年10月から今年6月末の時点で見ると、累積収益はマイナス1兆円ほどになっていますので、今の時点ではポートフォリオの組み替えが裏目に出た格好となっています。

「負担と給付」のバランスが必要な日本

以上、わが国の公的年金保険制度が破綻しない理由を簡単に紹介しましたが、そうかといって安心していいわけではありません。なぜなら一番の問題は、日本が「負担が給付」の大原則を無視した国家運営をしているからです。

詳しくは本書『日本の未来を考えよう』にさまざまなデータを挙げているのでご確認いただきたいのですが、簡単に言えば日本は「小負担・中福祉」の国です。社会保険料負担率と租税負担率を合算した国民負担率はOECDの平均を下回る一方で、社会保障給付費はOECDの平均を上回っています。

こう書くとまるで理想郷のような国ですが、「負担より給付が多い」状態ではサステイナブルな(持続可能な)社会とはとても言えません。日本の財政について国際機関がいろいろ口出ししてくるのも、世界から見て明らかに日本の財政制度が「不健全」だからです。

ではなぜ「小負担・中福祉」でこれまでやってこられたのでしょう。それは高度成長と借金に依存してきたからです。

戦後の日本は実質7%成長が30年以上も続きました。7%の成長が10年続けば経済規模が倍になります(72のルール:72÷成長率(または利子率)=スケールが倍になるまでかかる年数)。すなわち税収も倍増が見込めたわけです。しかし、日本の高度成長は止まりました。政府はそのことを直視せず、これまで赤字国債の増発でその場をしのいできたというのが実情です。年金制度を支えている国庫負担金の財源にも、実際には赤字国債が含まれています。

若い世代がもっと声を上げるべき

赤字国債はいわば子や孫の世代に負わせる借金です。未来の子供たち名義のクレジットカードを勝手に作って現役世代の生活費にあてているようなもの。このような事態が果たして許されることなのでしょうか。

民主主義の基本原則は「代表なくして課税なし」。つまり未来の税収は未来の世代が使うべきものであって、僕たちが使っていいはずがないのです。

みなさんも財政再建という言葉を聞いたことがあるはずです。財政再建とは負担と給付のバランスをとる行為に他なりません。つまり、給付を減らすか負担を増やすかのどちらかしかないのです。この両者はトレードオフの関係で、いいとこ取りはできません。いずれの場合も市民の痛みが伴いますが、次世代にツケを回さないためにはいますぐ行動を起こす必要があります。それこそ年金制度以前に日本が破綻しかねません。

それに日本は世界一高齢化が進んでいます。僕は今年68歳になりましたが、僕がいま銀行に行って長期の借金をお願いしても、どこの銀行も応じてくれないでしょう。借金をしていいのは将来のある若者だけです。日本のような超高齢社会が借金を増やしていいわけがありません。

またわが国では高齢化にともなって年金給付や医療費への支出の割合が年々増加し、その他の教育予算や子育て予算などが圧迫されています。前回の記事で紹介した待機児童問題などはその典型でしょう。若い世代からすれば、勝手に借金が作られ、予算は高齢者中心に使われるダブルパンチを浴びせられた状況に置かれているのです。

年金制度を健全に運用するためにも、そして若い世代が安心して子どもを産み、日本の明るい未来を考えるためにも、高齢者重視から若者重視への政策のシフトが欠かせません。そのためにも、若い皆さんはもっと選挙に行って投票率をあげるべきなのです。

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