出口の入口:『働く君に伝えたい「お金」の教養』第3回(貯める・殖やす・稼ぐ編)

「手取りの15%は貯蓄すべき」「老後資金は3000万円必要」といった言説を鵜吞みにして、よく考えないまま思考停止に陥ってお金を貯めてはいませんでしたか?

『働く君に伝えたい「お金」の教養: 人生を変える5つの特別講義』

「貯める」という呪縛から逃れよう

連載第2回では、お金にまつわるたったひとつの大原則である「財産三分法」――すなわち、自分の財産を「財布」「預金」「投資」の3つに分けるというお話をしました。今回は、第2回でお話しした「財布」(≒「使う」、消費)と切っても切れない関係である「貯蓄」について考えていきましょう。

若い皆さんがお金に対して不安を抱く原因のひとつに、「お金を貯めることへの執着」が挙げられます。

日本では「消費は悪」「貯蓄こそ善」といった空気が蔓延していたため、世界に類を見ない個人貯蓄率が高い国となっていました。皆さんも、「手取りの15%は貯蓄すべき」「老後資金は3000万円必要」といった言説を鵜吞みにして、よく考えないまま思考停止に陥ってお金を貯めてはいませんでしたか?

ここでもやはり、まず前提から疑って考えてみましょう。なぜ、貯蓄することが「正しいこと」になっていたのか。これは、戦後の日本において、政府が復興に使うお金を市民から集めるために「そういう空気」を意図的につくり上げていったからです。具体的には、貯蓄に対して「税制の優遇」というインセンティブを設計し、また、高度成長期には普通預金で3%、定期預金では6%もの金利がついていたため、日本人の「貯める」ことへの意識が劇的に上がったのです。

「預金好きな民族」という言説もありますが、意外とその歴史は新しいのです。そう言えば、これとは逆の「江戸っ子は宵越しの銭は持たぬ」ということわざもありましたね。

僕は、若い皆さんが貯蓄に勤しみ、闇雲にお金を貯め込むことには反対です。そのお金は後ほど説明する「投資」に充てるべきだと思っています。

もちろん、「毎月ちゃんと給与が出るから貯蓄はゼロでいい」ということではありません。人生には予測不可能なアクシデントがつきものです。病気で入院することになった。勤めていた職場が倒産した。家が火事になった――。そんなとき、月給1か月分にも満たない「残金」しか銀行に入っていなかったら借金するしかありませんね。

つまり、皆さんが先ずはすべき「貯蓄」は、万が一のときのセーフティネットのようなもの。そう考えると、何百万、何千万円も用意する必要はないことがわかるでしょう。まずは数年をかけて「手取りの半年分もしくは1年分」を貯めることを目標にしてみてはいかがでしょう。達成したら、その後のお金は「投資」に回していけばいいのです。

自分への投資が最大のリターンを得られるのが人間

さて、上記で「貯蓄に勤しむよりは『投資』に充てるべき」と書いたとおり、20代でもっとも重視すべきは「自分への投資」です。第2回で「投資」は「なくなってもいいお金を、リターンが得られそうなものに投じること」と説明しましたが、皆さんは「なぜリターンがあるかどうかわからないものに、貴重なお金を投じなければならないのか?」と感じられるかもしれませんね。

理由はシンプル。お金を増やしたいと思ったら「入ってくるお金を増やす」か「出ていくお金を減らす」しかないからです。後者は生活を切り詰めて「お金を使わない」ということですから、なんだか暗い話になってしまいがち。それを一生続けていくと思うとウンザリしてしまいますね。だからこそ、大切なのは「入ってくるお金を増やす」こと。そのために、自分に投資するのです。

投資の原則は、「成長しそうなもの」にお金を投じることです。それでは、20代の皆さんにとって、もっとも成長性が高いのは何だかわかりますか? 自分自身です。なぜなら、これから2億円以上とも言われる生涯年収を稼ごうとしているのですから。単純に数字だけで考えても、手元にある50万円を3億円にするためには600倍のリターンを狙う必要がありますが、皆さんの持っている2億円という可能性を3億円にするためには、1.5倍のリターンを狙うだけでいいのです。

しかも、皆さんには若さという武器があるので、伸びしろが大きい。極端なことを言えば、20代で働きながら自分に投資をして、そこで学んだことを仕事に活かした結果、年収が1000万円になるかもしれません。そうすれば、10年で億の稼ぎだって目指せるのです。

では、自分への投資として何をすればいいのでしょう。語学の勉強をしたり資格を取ったりするだけが投資ではありません。自分を賢くし、その結果として「人生の選択肢」が増えるものはすべて投資です。

とはいえ、この変化の大きな時代において将来何が役立つのかなど誰にもわかるわけがありませんから、損得で考えず「好きなこと」に投資するのがいちばんいいでしょう。英語や習字、囲碁、料理、パソコン(スキル)、その他新聞を欠かさず読み続けるのだってひとつの投資なのです。

また、皆さんが一般的に「投資」と聞いて思い浮かべる「金融商品への投資」については、ぜひ本書をお読みください。基本の心得である「①ポートフォリオをつくる ②成長するものに投資する ③長期投資で儲ける」の3点を軸に、20代の方にぴったりの投資法を具体的にお伝えしています。

イス取りゲームのイスが余る時代に

ここまで、お金を殖やしたいと思ったら「入ってくるお金」を殖やすべきだとお伝えしてきました。つまり、大切なのは老後のために今から貯め込むことではなく、老後も「稼ぎ続けること」ができるような人になることなのです。とは言っても、いまは大企業に入ったからといって安心できる時代ではありません。世の中がどう変わるか誰にも分からない、それが皆さんの不安の種にもなっているようです。

しかし、マクロで見ると、じつは若い皆さんのほうがいまの40代、50代の人たちよりも安泰なのです。意外かもしれませんが、データを見ればこれは一目瞭然です。

皆さんの世代の人口が少ないこと、さらに団塊の世代が労働市場から引退していくことから、日本では近い将来「職にあぶれる」可能性はかなり低くなります。イス取りゲームのイスが余る状態にあるのです。政府系機関の見直しによると、2030年には、日本は800万人規模の労働力不足に陥るとも言われています。若い皆さんは貴重な労働力であり、「金の卵」なのです。

この労働力不足を補うため、おそらくこれからの日本では女性の社会進出に加えて、定年制も形を変えていくでしょう。労働力不足の状態は皆さんが高齢になってもさほどは変わらないはずですから、「働けるかぎり働いてほしい」と労働市場から求められる可能性のほうが高いのです。いまの高齢者よりも長く働くことができる、つまり「より長くお金が入ってくる」わけです。

冷静にデータを見れば、「時代が悪い」と嘆く要素はどこにもありません。普段から数字(データ)とファクトをもとに自分のアタマで考えるクセをつけておけば、いたずらに不安になることも、バブルおじさんにだまされることも、メディアに煽られることもなくなるでしょう。

ここまで3回にわたって「働く君に伝えたい『お金』の教養」のエッセンスをお伝えしてきました。少しでも心に響くものがあったのなら、ぜひ本書を手にとっていただければうれしく思います。お金とはなにか、貯蓄とは、ローンとは、借金とは、投資とは......。ひとつずつ知識を積み重ねて思考していけば、お金にも人生にもつまずくことはなくなります。それが、リテラシーがあるという状態なのです。

ぜひ、皆さんにはお金のリテラシーを得ることで1度きりの皆さんの人生を自由に、そして楽しく生きぬいてほしいと願っています。

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