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湖南大学の学生諸君との討論会

2016年04月20日 16時51分 JST | 更新 2017年04月20日 18時12分 JST

湖南省訪問と題した前回のエッセイで、湖南大学の学生諸君との討論会にふれましたが紙幅がなくてその内容に立ち入れなかったので、ここでその内容をやや詳しく紹介したいと思います。

これを読まれると、学生諸君の能力の水準がわかると思います。

湖南大学は1926年に創立、今年90周年を迎える中国南部の名門公立大学です。

学生数は約3万人。本科生約21000人、研究生約14000人、教職員4300人。長沙市岳麓山のふもと154万m2の広大なキャンパスに展開する総合大学です。

段躍中先生の要請で、学長、副学長主催の学生諸君のための討論会が実現しました。ちなみに討論会に先立って私の客座(員)教授任命式も挙行されました。

討論会は午後3時から5時頃まで約2時間。

階段教室を埋める約200人の学生諸君が参加してくれました。まず私が冒頭で問題提起をし、その後は討論を行う形です。

せっかくの機会なので、私は問題提起は中国語でしたいと要望し、つづく質疑は日本語もしくは英語でお願いしました。講演のタイトルは「日・中経済と日中関係」です。

まず中国の近代史を振り返り、阿片戦争から辛亥革命、日中戦争、戦後の発展から習近平政権の新常態経済まで、日本については、日清戦争から日中戦争、太平洋戦争、戦後の復興・発展からアベノミクスまで振り返り、両国の直面する経済改革の課題を指摘し、日中両国の協力のメリットを述べるという約30分の講演でした。

中国語の勉強を始めてまだ2年の私にとっては一大挑戦でしたが、学生諸君からすべて分かったと言ってもらったのは望外の喜びでした。

この講演をふまえて、学生諸君から次々と質問があったので、そのいくつかを紹介しましょう。

「島田先生は1997年から2006年まで政府の税調委員をしておられましたが、安倍政権では2014年の消費税引き上げにつづき、2017年4月に再引き上げを予定している。

しかし経済は低迷しており、再引き上げは不況を誘引するおそれがある。国の内外に慎重論が高まっている中で安倍首相はリーマンショック級の衝撃でもなければ、引き上げをすると言明しているがそれは本気なのか?」(日本語)。

私は、消費税引き上げの大局的意義を説明し、政治判断は消費者の対応をどう読むかによる、とコメントしました。

「日本の失われた20年と言われる長期デフレの要因として、島田先生は1980年代中盤以降のアメリカの円切り上げ要求を受けて輸出減少を恐れた日本政府が景気拡大策を取り続けてバブルが膨張したので、引き締めが遅れた分、強烈なバブル潰し政策がとられたことを挙げているが、原因は、産業構造、高齢化から教育まで多岐にわたるのではないか」(日本語)

私は、質問を評価しつつ、中国など低賃金諸国との競合、経済減速による需給バランスの変化を付け加えました。

「中国からの留学生が多いのに日本からの留学生が少ない。日本人の中国理解を進めるには日本からの留学生をふやす必要があるのではないか」

「最近の日本企業は元気がない。電化製品もスマホも韓国に負けている。日本産業をどう展望するか?」(英語)

私は、日中の賃金格差が半世紀の間に30倍も変化し、産業構造も大きく変わったという歴史的変化を説明し、留学生の興味も、得意な製品も大きく変わることを理解すれば、これからの展望も描けると説明。

「日本は急速に高齢化しているが、財政も膨大な赤字となっている日本は、これらの問題をどう克服していくのか?」(日本語)

私は、人口構造が若かった時代にできた社会保障など分配構造を抜本的に変える必要があるが、選挙による民主政治ではそうした政策を取るのが困難。中国もやがて同じ問題に直面するが、選挙をしない国なので、やり易いかもしれない、とコメント。

「政府と企業の関係は国有企業から民間企業まで多様な形態があるが、民間企業が主体の日本では補助金など事実上、国家の支援もある。国の企業への関わりはこれからどう変化していくのか?」(英語)

私は、日本は戦後でも国策の影響が強かったが時代があるが、次第に民営企業の時代になった。中国もやがて民営企業主導の時代が来るのでは、とコメント。

以上はごく一部の紹介ですが、私の講演の意味をしっかりとらえ、日本への強い問題意識をもって、3カ国語を駆使して、鋭い質問をしてくる学生の優秀さに強い印象を受けました。

場面を替えて、今の日本の大学で、例えば韓国の教授を迎えて学生がこのような質問ができるとは想像できません。

私はアジア諸国の大学との学生討論会をこれまで25年間主催してきていますが、20年前の中国では想像もつかない長足の進歩が人づくりの面でも実現していることにショックを受けました。彼らが10年、20年、30年後の中国を担うのです。

人口減少でこれから小さくなる日本が人材面で大きな遅れをとるなら、日本の将来は一体どうなるのでしょうか。想像したくない現実です。

今回の湖南省訪問で一番学んだのはそうした現実をしっかり見据え、新たな覚悟でお互いに切磋琢磨していく必要を痛感したことでした。