国家公務員の職務専念義務違反 その1

日本国憲法の下、言論抑圧は国家公務員の本来の職務たりえない。

日本国憲法の下、言論抑圧は国家公務員の本来の職務たりえない。ましてや、自らの利益のための言論抑圧は、明らかな職務専念義務違反である。また、特定の医療法人の便宜を図るための民事介入も、国家公務員の本来の職務ではない。2016年6月19日、筆者は、塩崎恭久厚生労働大臣に対し、健康局結核感染症課課長であった井上肇氏(世界保健機関出向中)に対する懲戒処分を求める申立書を送付した。

井上肇氏の下記行為が、職務専念義務を規定する国家公務員法第101条第1項違反に相当することから、同法第82条第1項各号に基づく処分を求めた。

職務専念義務違反は、逸脱行為をする国家公務員に対する対抗手段として汎用性があると思われるので申立書の内容を紹介する。

第1 井上肇氏の職務上の行為に非ざる民事介入と言論抑圧

(1)民事介入

井上肇氏は、厚生労働省健康局結核感染症課課長として勤務していたが、遅くとも2015年2月16日までに、亀田隆明氏が理事長を務める医療法人鉄蕉会が設置運営する亀田総合病院の感染症科に勤務する医師を、成田赤十字病院において反復継続して医療に従事させることを目的とする契約の締結交渉や斡旋を担当し、結核感染症課課長としての立場を背景に、成田市職員及び成田赤十字病院管理者に対して、亀田総合病院に相当額を超える派遣料を支払うことを強く要求して受け入れさせ、その職権を逸脱して成田赤十字病院と医療法人鉄蕉会の民事関係に介入した。

医師の派遣は、一般的に禁じられており、可能なのは、へき地か、あるいは、医療対策協議会が適当と認めた場合のみであるが、成田赤十字病院はこれに該当しない。

井上肇氏のかかる行為は、特定の医療機関の便宜を図ることを目的とする民事介入であり、そもそも厚生労働省職員としての職務上の行為とは言えないことから、国家公務員としての職務専念義務を規定する国家公務員法第101条第1項に違反するものである。

(2)筆者の言論活動抑圧と懲戒解雇

亀田総合病院は、国の地域医療再生臨時特例交付金の補助事業として、2013年度より3年間の計画で、安房医療圏の医療人材確保を図るため、「亀田総合病院地域医療学講座」事業を実施することになった。

筆者は、2013年秋、亀田総合病院院長亀田信介氏の強い依頼により、亀田総合病院地域医療学講座を担当することになった。前提を捨てて、オリジナリティのある画期的な事業を展開してほしいと依頼された。以後、筆者は、本講座のプログラムディレクターとして、地域包括ケアについての映像と書籍、規格作成に心血をそそいできた。

ところが、2015年5月、突然、千葉県医療整備課課長高岡志帆氏らは、虚偽の通告により、正当な予算要求を阻止しようとした。事業の継続が危ぶまれたので、筆者は、メールマガジンで、高岡志帆氏を含む千葉県職員の違法な対応を批判する言論活動を行った。(「亀田総合病院地域医療学講座の苦難と千葉県の医療行政」http://medg.jp/mt/?p=3953http://medg.jp/mt/?p=3955http://medg.jp/mt/?p=3957「千葉県行政における虚偽の役割」http://medg.jp/mt/?p=5898

すると、2015年6月22日、亀田総合病院院長亀田信介氏から、「厚生労働省関係から連絡があった。千葉県ではなく厚生労働省の関係者である。厚生労働省全体が前回のメールマガジンの記事に対して怒っており、感情的になっていると言われた。記事を書くのを止めさせるように言われた。亀田総合病院にガバナンスがないと言われた。行政の批判を今後も書かせるようなことがあると、亀田の責任とみなす、そうなれば補助金が配分されなくなると言われた」と告げられ、「以後、千葉県の批判を止めてもらえないだろうか」と要請された。

苦しい経営が続く亀田総合病院の経営者としては仕方のない反応である。一方で、筆者は、亀田総合病院入職以前も以後も、言論人として活動してきた。これを亀田総合病院の経営者も認めてきた。経営者が、筆者の言論を利用してきた側面もあった。言論人としては、理不尽な言論抑圧に屈するわけにはいかなかった。

「言論を抑えるというのはひどく危険なことである。権限を持っていて、それを不適切に行使すれば非難されるのは当たり前だ」と主張し、いずれ社会に発信すると告げた。

2015年7月、筆者は、言論抑圧の仕掛け人が井上肇氏であるとの情報を得たため、2015年8月17日、内部調査及び厳正な対処を求める塩崎恭久厚生労働大臣あての文書の非公式な原案(本件書面)を作成して厚生労働省高官に送付し、提出方法ならびに窓口について相談した。

その後、本件書面は、厚生労働省内部から高岡志帆氏のもとにわたり、高岡志帆氏は、2015年9月2日午前11時34分、医療法人鉄蕉会理事長亀田隆明氏に対し、「すでにお耳に入っているかもしれませんが、別添情報提供させていただきます。補足のご説明でお電話いたします」として本件書面をメールに添付して送付した。

筆者は、亀田総合病院で同日あわただしい動きがあったことや、亀田隆明氏が、筆者を9月中に懲戒解雇すると語っていたとの情報を得た。高岡志帆氏の電話は懲戒解雇を促すものだった蓋然性が高い。

時を置かず、亀田隆明氏は、高岡志帆氏を含む千葉県職員の対応を批判する内容の言論活動を行ったこと、厚生労働省職員による言論抑圧について調査と厳正対処を求める厚生労働大臣あての本件書面を提出したことを懲戒処分原因事実とする懲戒処分手続を開始した。亀田隆明氏は、懲戒委員会が開かれた平成27年9月25日、解雇予告の正当な手続も踏まずに、筆者を即日懲戒解雇した。

亀田信介氏の発言と全体の経緯から、井上肇氏が筆者の言論活動を抑圧するために、医療法人鉄蕉会の経営者を脅し、経営者をして、筆者を懲戒解雇せしめたものと思われる。井上肇氏のかかる行為は、民間医療機関の人事への介入であり、そもそも厚生労働省職員としての職務上の行為とは言えないことから、国家公務員としての職務専念義務を規定する国家公務員法第101条第1項に違反するものである。

(3)まちづくり活動のハブとしてのNPO法人ソシノフの破壊

筆者らは、2012年4月以来、亀田グループを中心に、安房地域を活性化するためのまちづくり活動「安房10万人計画」を推進してきた。公益性を担保するために、まちづくり活動のハブとしてNPO法人ソシノフを設立した。

2015年7月13日、亀田隆明氏は、ソシノフ代表理事に対し、「地域医療学講座がもめて、そこでソシノフの名前が出たことで、国も県もソシノフに拒否反応を示している。補助金が変に使われたのではないかと疑っている。1円もソシノフにいっていないとしても、このようになってしまった以上、鉄蕉会としても、亀田隆明個人としても、今後ソシノフのメンバーに加わることはできない」と通告し、医療法人鉄蕉会理事長亀田隆明氏、学校法人鉄蕉館理事長亀田省吾氏、時間をおいて、社会福祉法人太陽会理事長亀田信介氏がソシノフから脱退した。

亀田隆明氏の発言内容から、井上肇氏が、亀田隆明氏に対し、亀田グループとソシノフの関係を断つよう命じたと推測された。井上肇氏が関与したとの情報が、亀田隆明氏周辺の人物からも得られた。亀田兄弟の脱退で、設立時の運営会員3名がソシノフから離れたのみならず、医療法人鉄蕉会、学校法人鉄蕉館、社会福祉法人太陽会のまちづくり活動への協力が得られなくなった。行政の圧力によってまちづくり活動の枠組みが壊された。

地域医療学講座の支出については、足をすくわれる可能性があるので、筆者の一存で金を支出できるような仕組みにはしていなかった。予算制にして、鉄蕉会経営企画部長と経理課長、筆者の三名の同意が揃わないと支出できないようにしていた。

井上肇氏のかかる行為は、民間公益活動の妨害であり、そもそも厚生労働省職員としての職務上の行為とは言えないことから、国家公務員としての職務専念義務を規定する国家公務員法第101条第1項に違反するものである。

(2016年6月30日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)

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