「東京オリンピック1964アーカイブ」を制作中

朝日新聞フォトアーカイブは,1964年大会当時に撮影された,4000枚以上の記録写真を収蔵しています.「東京オリンピック1964アーカイブ」は,それらの写真をGoogle Earthの三次元地形や建物モデルに重ね,当時の状況を実感を持って伝えるプロジェクトです.

渡邉英徳です.今回の記事では,現在鋭意制作中の「東京オリンピック1964アーカイブ」について説明しますが,まずは近況から.

今年に入ってから対談が増えています.デジタルアーカイブやデータジャーナリズムについて,MITメディアラボ副所長の石井裕先生(記事12),ニューヨーク・タイムズのグラフィックエディタ,アマンダ・コックスさんと対談しました.アマンダさんとの対談記事は近日中に公開される予定です.そしてWIADの山本郁也さんとの対談記事も公開されています.

また,平成25年度埼玉県小規模事業経営支援事業費補助金の地域経済活性化推進事業費による事業「越谷デジタルマップ」も公開されました.過去に制作してきた「多元的デジタルアーカイブズ・シリーズ」の手法を,地域情報発信に応用したものです.地元紙の埼玉新聞にも記事が掲載されています.この事業はスタートしたばかりですが,地元のボランティアの方々や,越谷総合技術高校の生徒たちも参画し,将来に向けて長いスパンで取り組んでいくものになります.ご愛顧いただければ幸いです.

そして「ヒロシマ・アーカイブ」の制作ワークショップを,地元の広島女学院高等学校にて6月22日に開催します.昨年の「国際平和シンポジウム2013(広島国際会議場)」でも述べたように,私たちはアーカイブズプロジェクトを進める上で,地元の若者たちが参画する「記憶のコミュニティ」形成を重視してきました.今回のワークショップでは,被爆者のかたがた,広島女学院高校の生徒たち,そして首都大学東京の大学院生たちがコラボレーションします.一般のかたも参加可能です.中国新聞ヒロシマ平和メディアセンターの記事をご参照の上,ぜひお申込みください.

さて,ヒロシマ・アーカイブを含む「多元的デジタルアーカイブズ・シリーズ」が,私たちの代表的な仕事です.その流れを汲んだ,1964年の東京オリンピックに焦点を当てたプロジェクトがスタートしています.「東京オリンピック1964アーカイブ」は,朝日新聞フォトアーカイブと共同で取り組んでいるもの.

朝日新聞フォトアーカイブは,1964年大会当時に撮影された,4000枚以上の記録写真を収蔵しています.「東京オリンピック1964アーカイブ」は,それらの写真をGoogle Earthの三次元地形や建物モデルに重ね,当時の状況を実感を持って伝えるプロジェクトです.現在,20枚ほどをマッピング完了しています.4000枚到達までは長い道程ですが,2020年まで時間はたっぷりあります.なんとかなりそうです.

以下,スクリーンショットを掲載します(写真はすべて朝日新聞フォトアーカイブから提供されたもの).

さて,制作作業をスタートしてすぐに分かったことがあります.これらの写真は報道機関がアーカイブしているものだけあって,一枚一枚,実に「キマった」写真です.紙面掲載のためによりすぐられた写真たちは,とても強いメッセージを帯び,時代の息遣いを伝えてきます.この強さは,いわゆるスナップ写真とは別格のものです.朝日新聞フォトアーカイブとの連携からスタートしたことは,私たちにとって幸いでした.何より,写真をGoogle Earthの三次元地形に合わせていく地道な作業が,本当に楽しい!

そうした反面,"ヤバ景"フォトグラファーの大山顕さんが「一枚一枚は「へー!」って思うんだけど、全部を見ていくと、まるで「写真集」みたいになっちゃってる」と指摘されているような面もあります.また「東京」オリンピックのデジタルアーカイブを「東京」都立の大学の研究室がつくるという,これまでにはなかった状況もあります.いわば外様だった長崎や広島,沖縄の事例とは異なり,私たちはインサイダーです.お手盛りにならないよう,過去の事例で生まれた「多元的な資料を掲載する」ことの意義を,強く意識する必要があります.今後は「多様な視点から捉えた1964年大会の姿」を浮かび上がらせるために,さまざまな機関に声を掛け,資料提供元をさらに増やしていこうと考えています.

加えて,当時の聖火ランナーや選手の証言を収集する活動も展開する予定です.その際に,近況報告で述べた越谷や広島の事例のように,東京の若者たち,中学生や高校生に主体的に参加してもらいたいと考えています.著書「データを紡いで社会につなぐ」で書いたように,過去から未来に記憶を受け継ぎ,活かしていくのは若者たちだからです.過去のできごとを知る当事者と若者たち,そして技術を持つ私たちがミッションを共有して「記憶のコミュニティ」を形成します.1964年大会にまつわる記憶を2020年大会に活かす=過去のできごとを未来に活かすためには,こうしたコミュニティを駆動する社会的枠組みが必要になってくるはずです.

先の長いこのプロジェクトですが,年内に第一弾をウェブ公開予定です.お楽しみに!

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