「よそもの」が集落に関わるということ:限界集落における継続的な地域活性化 2016(文責:木村汐里)

2014年度から研究室で取り組んでいる、限界集落の地域活性化のための活動について、約1年半ぶりに報告したいと思います。

今回の記事は、首都大渡邉研、博士前期課程1年の木村汐里さんによる、新潟県魚沼市における集落活性化事業についてのレポート(前回記事の続編)です。お楽しみください!(渡邉英徳)

初めまして、首都大学東京大学院渡邉英徳研究室修士1年、木村汐里です。今日は渡邉先生に変わって、2014年度から研究室で取り組んでいる、限界集落の地域活性化のための活動について、約1年半ぶりに報告したいと思います。

突然ですがみなさん。新潟県魚沼市にある横根という集落をご存じでしょうか?前回のレポートを読まれた方はご存知かもしれませんが、とっても美味しいお米が採れる、美しい山間の集落です。

現在は57世帯122人しか住んでおらず、小学生以下の子供は9人、高齢化率50%以上という、いわゆる限界集落と呼ばれる地域になっています。それこそ一昨年、私達が集落にはじめて出会ったころには、ネットで検索しても写真一つ出てこなかったような、どこにでもあるような本当に小さな集落です。

そんな横根集落と研究室との関わりももう3年目に入ろうとしています。活動の目標を

  • 横根集落の人自身の地域に対する関心・愛着を高めること(内的向上)
  • 横根集落を外の人に知ってもらうこと(外的向上)

と掲げ、これまでの研究室で蓄積してきたノウハウを生かし、住民参加のワークショップと場づくりを重ねて来ました。

以降の記事ではまず、初年度の成果物であるスマートフォンアプリを紹介します。さらに、1年目の結果を踏まえて「住民自身の集落に対する関心を高めること」をテーマに実践した、2年目の活動について報告します。

集落の美しい風景を伝えるスマートフォンアプリ「よこねアーカイブ」

このアプリでは、住民の方々から寄せられた思い出の写真、集落の現在の風景、そして民俗文化を撮影した映像を地図上のアイコンをクリックすることで閲覧することができます。さらに現地では、GPSおよびAR(Augmented Reality、拡張現実)技術を使い、コンテンツをスマートフォンカメラの視野に重ねあわせて表示することもできます。

撮影場所と撮影年を紙地図上で特定し、パソコンを使ってデータをつくります

昨年の報告にある通り、このアプリは、ワークショップを通じて横根の人と私たちで制作しました。集落の人にとっては、あまりなじみのない「スマートフォンアプリ」です。しかし、地域の人が自ら資料を集め制作したこともあり、デジタル技術に対するハードルを超えて、私達の活動に興味を持ってくださるきっかけとなりました。

なんと横根地区の区長さんは、これを機にスマホデビューを果たしたとのことです!

2015年度の活動

このアプリを糸口にしながら、今年度は夏休み期間を含め、計4回の現地活動を行いました。

  • 住民自身の集落に対する関心を高めること

を第一目標に置き、人々が自身の住む地域をあらためて考える「機会」と、幅広い世代の住民どうしが語りあう「場」をつくることを重視しました。

◇街を考えるきっかけ -地域への気づき-

まずは8月14日、お盆休み中に行われているお祭りに8人のメンバーが参加しました。地域の人が帰省してきた人を含め、毎年大勢の人が参加するお祭りです。出来上がった「よこねアーカイブ」を紹介しながら、とある質問を住民のみなさんに投げかけてみました。

  • 『あなたが好きなところは横根のどこですか?』

いきなり出されたド直球な質問に、みなさん、はじめは悩まれているようでした。しかし「なんかなー」と考えはじめ、気づくとあれやこれやと、沢山の応えが出てきます。孫や娘、はたまたお婿さんまでも巻き込んで、総勢60名の皆さんが恥ずかしがりながらも、笑顔で地域への愛を語ってくださいました。

次に、集落の将来を担う小学生に、街の未来を考えてもらう授業も行いました。

  • 『よこねをせかいにはっしんしよう」』

このテーマに沿って、「自分が20歳になった時の集落の姿」を自由に表現してもらいます。夢中で描いてくれた子どもたちの元気な絵には、まちに電車や高層ビルなどができあがっている夢の姿と、今後もずっとこうあってほしいという集落への愛とが溢れていました。

夢中になって書いた後には"これは○○の絵だよー!"とたくさん教えてくれました

◇街を改めて知る -地域愛着とシビックプライドの醸成-

それらの成果物を引っ提げ、12月には私たち主催のクリスマスパーティーを行いました。パーティーの中で、前述したお祭りで収録した「あなたが横根で好きなところはどこですか?」というインタビューに応えていただいた動画と、子どもたちが描いた絵の、二つの成果物を見てもらいました。

今まで目の当たりにすることのなかった、住民各人が語る地域への思いや、子どもたちの将来を彩る、まっすぐで力強い絵に描かれた集落の姿。そうしたものに後押しされて、思い出話からまちの将来の姿まで、自然と話に花が咲いていきます。

また、この会では成果物の発表だけでなく、徐々に減りつつあった、さまざまな世代をつなぐ交流の場となるための、以下の仕掛けも用意しました。

  • 「子供達からのクリスマスオーナメントのプレゼント」
  • 「若いお母さん世代のパーティーの料理」

これらの仕掛けが功を奏して、パーティーには多くの方が参加し、2歳の子供からご年配の方までが交流する場が生まれました。

一生懸命プレゼントを作る集落の小学生たち

2年目で感じた変化

今年度の活動を振り返って、横根集落と私たちとの関係が、確実に変化しつつあることを実感しています。

当初、集落の人達にとって「東京から来たよくわからない学生たち」だったかもしれない私たちは、活動を重ねるうちに「まいとし来てくれるあの子たち」に変わってきたようです。その結果、積極的に関わってくださる方々の世代も厚みをまし、活動の幅が広がりました。集落の人との距離が、幾分と近くなりました。

手探りを重ねながら少しずつ積み重ねてきた活動によって、「こんなとこなんもねえからなー。なんにもすることないぞー」と、ネガティブなことばかり口にされていたかたも、「次はいつくるんだ?」「意外といいところでしょう?」と、照れながらも嬉しそうに、話しかけてくださるようになりました。

さらには「もっとこんなことできたらいいんだけど」「もっとこうしていきたいんだよ」といった、集落に対する新たな願いや目標も、語られるようになってきました。

私たちが集落に関わる意味

県の委託事業に選定されなければ、出会う事が無かった私たちと横根集落。私たちはいわば、横根集落に突然現れた「異分子」かもしれません。そんな関係のなかに、いま、小さな化学反応がおきかけています。

活動を通して、集落に潜在していた「地域愛着」と「シビックプライド」が少しづつ高まった結果、集落の人々自身が「地域のために何かしたい」と考えはじめ、行動に移しつつあります。

いま「地方創生」は社会のトレンドです。全国さまざまな地域で様々な活動が行われています。しかし、そうした活動が、「人任せ」の、一過性のイベント・トレンドで終わってしまっては、本来の目的である「継続的な地域活性化」にはつながらないと思います。

地域活性化には、

  • 「誰かがやってくれる」のではなく「住民自身が取り組む」

ことが、何より重要なのではないでしょうか。

私たちは、2年にわたる横根集落における活動を通して、地域の人々「自身」が意欲を持ち、より主体的に取り組むことが「継続的な地域活性化」の条件ではないかと考えるようになりました。とはいえそれは、将来について悲観的になりがちな、いわゆる限界集落ではとても難しいことかもしれません。

「地域おこし協力隊」として横根に在住している大野久美子さんは、もともとゆかりのない私たちがお互いを理解し、つながっていくための橋となる、かけがえの無い存在です。そんな大野さんはこう仰っています。

『一年だけでなく、継続して横根に来訪し続けている事、横根は良いところだとみんな思っているのに言えない気持ちを、「集落の人」ではない学生や私が代弁している事などが、気持ちを変えるきっかけになった大きな要素だと思います。』

外からやってきた「よそもの」だから感じること、伝えられることを大事にしながら、潜在している答えを引き出し、一緒に生み出していくことが大切なのかもしれません。外部から「こうあるべきだ」というイメージを押し付けるのではなく、内部から自然に生まれる「こうありたい」に寄り添い、育てていくことが重要な点ではないかと、私たちは考えています。

先日、私たちの横根集落における活動から生まれたプランが、日本全国!地方創生ビジネスプランコンテスト「カンガルー」(西濃運輸主催)において、審査員特別賞を受賞しました。実際に何度も集落に足を運び、密にコミュニケーションし、地域に溶け込んだ私たちの提案であることを、高く評価していただきました。

4月以降は、このプランで着目した集落の主要な産業「お米」をテーマに据え、横根集落における活動を続けて行きます。

以上、横根集落での活動報告でした!(木村汐里)

謝辞:今年度も新潟県魚沼市の佐藤さん、地域おこし協力隊の大野さんはじめ、沢山の方々のご協力により活動を実践できました。本当にありがとうございます。