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テレビの選挙報道への圧力にBPOは緊急声明を出すべき!

2014年12月12日 19時28分 JST | 更新 2015年02月10日 19時12分 JST
ASSOCIATED PRESS
Japan's Prime Minister and President of ruling Liberal Democratic Party Shinzo Abe delivers a speech in support for his party's candidate during a lower house election campaign in Tokyo, Sunday, Dec. 7, 2014. Japan's ruling party may be headed toward an even larger-than-anticipated victory in the Dec. 14 national elections, according to major media polls published Thursday, Dec. 4. (AP Photo/Shizuo Kambayashi)

総選挙の直前になって、自民党がNHKや民放キー局に対して「要望書」を出した問題での効果がじわじわとボディーブローのように効いてきた印象だ。

朝日新聞の報道によると、前回の総選挙に比べると選挙に関する報道は3分の1に過ぎないという。

衆院選、テレビ番組3分の1に 高視聴率見込めず異変(朝日新聞)

衆院選を取り上げるテレビ番組が激減し、解散から1週間の放送時間でみると、前回の2012年と比べ約3分の1になっていることが分かった。高視聴率が見込めないことが大きな理由だが、自民党がテレビ各局に文書で「公平」な報道を求めたことで、放送に慎重になっている面もある。「テレポリティクス」(テレビ政治)に異変が起きているようだ。

テレビ番組の内容を調査、分析するエム・データ社(東京都港区)によると、衆院が解散した11月21日から27日にかけて、NHKと在京民放5社のニュース、情報番組、バラエティー番組が選挙関連の放送をしたのは計26時間16分。自民党が圧勝した前回は74時間14分で、今回は約3分の1になった。05年は約90時間、09年が約50時間なので、今回の少なさは際立っている。

特に減ったのは民放の情報番組(ワイドショー)だ。朝の番組で見ると、前回はフジテレビ系の「とくダネ!」やTBS系の「朝ズバッ!」などが、生活に身近な政策課題を点検する企画や選挙区ルポを放送していた。9人が死亡した笹子トンネル事故や歌舞伎役者の中村勘三郎さん死去などの大ニュースがあった中でも、選挙報道に存在感があった。

出典:朝日新聞デジタル

この記事の印象は、日頃、テレビ番組の批評を仕事にしている私の実感とも重なり合う。

たとえば、フジテレビ「とくダネ!」は前回の総選挙ではニュース番組にも劣らない政策報道を2週間近くやり遂げ、優れたテレビ番組に贈られるギャラクシー賞の奨励賞にも選ばれている。

とくダネ!シリーズ「総選挙スペシャル ニッポンの選択」

出典:放送批評懇談会 第50回ギャラクシー奨励賞

テレビ業界でこれほど高く評価されながら、今回「とくダネ!」はこうした選挙シリーズをまったく行っていない。

それに加えて、テレビ朝日の「朝まで生テレビ!」でも放送前日になって不自然なコメンテーターの出演中止があった。

この"事件"については先日、記事を書いた。

自民"牽制"による効果? テレビ朝日はひるんだのか!?

出典:ヤフーニュース 個人

こうしたなか、現役のジャーナリストやジャーナリズムを研究する学者などが「要望書」に抗議する記者会見を開いた。この会見には私自身も出席した。テレビ報道がどんどんゆがめられてしまう、という危機感を強くもったからだ。

選挙報道:自民党要望書でジャーナリストら緊急メッセージ(毎日新聞)

◇「放送を通じ、堂々と政策を議論すべきだ」

自民党が、NHKや在京民放テレビ局に街頭インタビューの集め方など細部にわたって選挙報道の公平中立を求める要望書を渡していた問題で、ジャーナリストや研究者らが11日、国会内で会合を開いた。会合では政権与党が「圧力」ともとれる要望書を放送局に送ったことに対して厳しい批判が上がり、「放送を通じ、堂々と政策を議論すべきだ」とする緊急メッセージを発表した。

発起人は、ジャーナリストの坂本衛氏やTBSのニュース番組に出演している岸井成格(しげただ)・毎日新聞特別編集委員ら7人。会合では、テレビ局側から要望書に対する抗議の声が上がらないことを危惧する意見も相次いだ。

緊急メッセージは、放送局に対しても「政治的な圧力を恐れる自主規制によって、必要な議論や批判を避けてはならない」と奮起を促している。

要望書は先月20日、自民党の萩生田光一・筆頭副幹事長と福井照報道局長の連名で各放送局に渡された。【望月麻紀】

出典:毎日新聞

こうした席には現役のテレビ局社員は顔を出すことはできない。

知っているテレビ局の幹部や記者からは萎縮し、本来あるべき政策報道などをやりにくいといテレビ現場の雰囲気は聞いている。

こうしたなか、記者会見に来た記者たちからの質問にもあったし、会見した私たちの間にもあったのが「報道の自由についての重大問題ならば、なぜ新聞協会や日本民間放送連盟などの関係団体は抗議声明を出さないのだろうか?」という疑問だ。

新聞協会や民放連でこの「要望書」についてアクションを起こそうという声はほとんど聞こえてこない。

なぜ、「要望書」がこれほどテレビの報道現場を萎縮させてしまうのか。

くわしくは、連載を書いたのでそちらを読んでほしい。

選挙のニュースはなぜつまらない? ── 水島宏明氏に聞く(1)

出典:The Page

無味乾燥な「機械的な公平」報道 ── 水島宏明氏に聞く(2)

出典:The Page

制作者は楽しくない「わりきりニュース」 ── 水島宏明氏に聞く(3)

出典:The Page

自民党の要望書でテレビの現場はますます「無難に」「わりきる」報道へ ── 水島宏明氏に聞く(4)

出典:The Page

「わりきり報道」で一番損害を被るのは国民 ── 水島宏明氏に聞く(5完)

出典:The Page

さて、そうしたなかで、現役のテレビ局の経営者や幹部、記者らが「言いにくい」なかで、テレビ局が報道機関としての役割をしっかりと果たすことができるうように、声明を出せる機関が新聞協会や民放連のほかにもある。

BPO「放送倫理・番組向上機構」だ。

この組織はテレビによる人権侵害やテレビ局の放送倫理の違反などがあった時に「自律的に」「第三者機関として」審査し、テレビ局に対して、勧告や意見を示して、テレビ業界が「自分たちの力で」是正することができる、と示す目的で存在する。

これは、政治や行政による干渉をふせぐためだ。政治などから圧力を受けたり、その時々の政権など、政治の意向にただ従ったりせず、きちんと権力批判や権力のチェック役も果たせるように、とそういう仕組みを作り上げている。

BPOのホームページにも「自律」「独立した第三者」という言葉がやたらと出てくる。

BPOの目指すものは?

BPOと放送局が緊張感を持って協力、視聴者の信頼を

BPOは、視聴者の意見や苦情を真摯に聞き、独立した第三者の立場から放送倫理上の問題に対して的確に判断することが、活動基本として明確に決められています。 民主主義を支える言論・表現の自由と視聴者の人権の双方を見据えたBPOの指摘、それを受けた放送局の番組向上への自主的な取り組み――大量の情報がさまざまなメディアを通じて流通する今日、BPOと放送局が緊張感を持って協力し、自律を積み重ねることこそが、放送に対する視聴者の信頼を高めると、私は確信しています。

出典:BPO ホームページでのBPO理事長あいさつ

BPOは、その基本的な役割は個々のテレビ放送に人権侵害や放送倫理違反などの問題の疑いがある場合に「個別のケースごとに」審議する。

そうすることで放送局の政治権力や行政からの「自律」を守る。

とはいえ、「一般的に」、注意喚起を促すこともできないわけではない。

最近では、BPOに3つある委員会のうちの放送人権委員会の委員長が「顔なしインタビュー等への要望」を出した。

安易なボカシ、モザイク、顔なし映像はテレビ媒体の信頼低下を追認していないか

出典:BPO ホームページ

これに関しては、あまりに取材現場の実情を理解していない空論なので、私はネット上で反対論を展開した。

BPO委員長「現場オンチ」さらけ出し 顔なしインタビューへの要望は"見当違い"×"勘違い"

出典:ヤフーニュース個人

しかし、今回の記事はこの問題そのものの話ではないので、見出しを引用するにとどめる。大事なことはBPOの3つの委員会の委員長はこうしたテレビ放送に関する一般的な意見も表明して各テレビ局に注意を促すこともできる、ということだ。

テレビ局の報道や制作現場から見た時に的外れな議論を展開するぐらいなら、ここぞという時こそ、BPOの各委員長は「委員長談話」を発表してほしい。

今がまさにここぞという時だ。

テレビ報道の自律性が脅かされているのだ。

BPOの理事長名でもいい。

あるいは3つの委員長の共同でもいい。

または各委員長単独でもいい。

こういう時にこそ、BPOの見識をみせてほしい。

(2014年12月12日「Yahoo!個人」より転載)