ロウソク火災で子どもが犠牲 繰り返される悲劇を防げ!

貧困ゆえに電気を止められ、ロウソクで暮らしていた一家で火災が起きて、子どもや高齢者が犠牲になる。そんな出来事がまた起きた。

またも悲劇は繰り返された。

小さな記事だったが、読んだ瞬間、思わず「また起きたしまったか…」とうめいてしまった。

貧困ゆえに電気を止められ、ロウソクで暮らしていた一家で火災が起きて、子どもや高齢者が犠牲になるーそんな出来事がまた起きたのだ。

那珂の住宅全焼:3人死亡 ロウソクから出火か 電気止められる/ 栃木(10月28日・毎日新聞)

27日午前5時40分ごろ、那珂市戸崎の無職、叶野(かのう)善信さん(82)方から出火、木造平屋建て住宅と隣の木造2階建て物置延べ約233平方メートルを全焼し、住宅内から3人の遺体が見つかった。那珂署は叶野さんと妻、美津子さん(80)、孫の美希さん(15)とみて身元の確認を急いでいる。県警によると、長女は「最近電気を止められ、ロウソク暮らしだった」と話しており、ロウソクが出火原因の可能性もあるとみて調べている。

同署によると、叶野さんは妻と長女(48)、孫娘2人の計5人暮らし。長女は在宅していたが逃げて無事、もう1人の孫(18)は外出していた。親族や近くの住民によると、叶野さんは仕事に真面目で温厚な性格。実家の養蚕業を継ぎ、近年は農業や造園業を営んでいたという。ただ、最近は体調がすぐれず、外出の機会が減っていたという。

出典:毎日新聞 公式HP(10月28日)

別の新聞を読んでみよう。

東京新聞10月28日 朝刊にはこう書かれている。

茨城、3人死亡住宅火災 ろうそく原因か 電気止まり

そんな見出しの後で、火災の現場で3人の遺体が発見され、叶野善信さん(82)、妻の美津子さん(80)、孫の美希さん(15)と連絡が取れないという記事が書かれている。

数日前から電気が止められ、夜はろうそくで生活していたという。

(中略)長女(48)は別の寝室で寝ていて無事だった。女性会社員の孫(18)は火災字に外出していた。親戚の男性会社員は「一家は叶野さんの年金で暮らしていて、収入は多くなかった」と話した。県警によると、働いていたのは会社員の孫だけだった。

「また」と書いたのには理由がある。

実は”社会の貧困化”に注意してニュースを見ていると、この種の悲劇は時々起きていることがわかる。

私自身の記憶をたどると、古くは1984年。ちょうど私が北海道のテレビ局で働いていた頃に起きた「札幌・白石区ロウソク家庭焼死事件」が強く印象に残っている。シングルマザーのA子さん(当時36歳)が5人の子どもたちと住んでいた市営住宅アパートで起きた焼死火災だ。A子さんはホステスとして働きに出ていて不在。小学校6年の男子、小4の女子、小3の女子、小1の男子と4歳の女子の子ども5人が留守番をしていた。4月10日午後9時頃の火災で小1の男子が死亡。小4の女子もやけどを負った。

A子さん宅では電気料金の滞納で北海道電力が電気を止め、2ヶ月間、夜はロウソクに火を灯して暮らしていた。小学校に通う3人の子どもは長期欠席を続け、学校関係者が訪問してもドアのカギを開けなかったという。

生活困窮の末に孤立した一家だった。

悲劇は、北海道電力が電気を止めたことが直接の引き金になったため、北電がマスコミの批判の矢面に立った。一方で、A子さんの世帯は1時生活保護を受けていたが、廃止されて生活困窮に拍車がかかったため、生活保護行政、つまり札幌市の福祉行政のあり方も批判された。

人々が生活に困って孤立した時に、電力会社はどうすればよいのか。福祉行政はどうすればよいのか。それが問われてきた。

当時の北海道のマスコミ報道は「悲劇を繰り返すな」という論調で、北電は「電気料金の滞納があってもただちに電気を止めることはしない」とした。その後も札幌では生活困窮に陥った人々が孤独死する事件が時々起き、生活困窮のサインを見つけたら、電力業者や水道局員らが福祉行政の担当者と連携して対応する、というような対応が話し合われた。

しかし、その後もこの種の事件は後を絶たなかった。

●2001年2月14日ー

九州の大分県国東町で中学3年生の息子と暮らす41歳のシングルマザーの戸建て住宅が全焼。中3の息子が焼死した。この家では電気料金の滞納で息子はろうそく数本に火をともして高校受験のための勉強をしていた。

●2005年5月12日ー

福岡市前原市本で45歳の自営業者の父親と暮らす小学6年生の女児が焼死。

やはり電気を止められ、ロウソクで生活していた。

こうした数々の出来事が物語っていることは何か?

電気を止めてロウソクでの生活は、現代日本においては生死に直結しかねない、ということだ。

もうひとつは、そうした状況に追いこまれた人たちに対しては社会的な孤立からすくい上げ、極度の生活困窮から抜け出させる方策が必要だということだ。

日本では長いことこうした事件が起きるたびに(電気や水道などの)検針担当者と福祉行政との「連携」などが叫ばれてきた。

一時的にそうした必要性について、地域で話し合いが行われたりはしてきた。

それでもまた起きてしまう。

本来は、生活困窮に陥った人たちがロウソク生活にまで追いこまれないうちに、生活保護などのセーフティーネット(「安全網」)で受け止めてやる仕組みを作るのがより優しい社会になっていくはずだが、実際には今、生活保護を利用する人たちに対しては政府も国民も厳しい目を向けて、なかなかこの制度はいざという時に頼りになるものにはなっていない現実がある。

今回の焼死事件の記事では、最後に市の福祉担当者による、お決まりのコメントが登場する。

孫の美希さんは県内の学校に通っており、学校関係者によると、おとなしく真面目な性格だった。

那珂市社会福祉課は、叶野さん一家から生活などについての相談を受けていないという。市担当者は「もし困っていることがあったなら相談してほしかった。とても歯がゆい」と声を落とした。

出典:毎日新聞 公式HP(10月28日)

事件のたびにお決まりのように地方行政の担当者はこういうフレーズを口にする。

でも、そんなまるで儀式のような決まり文句を言う前にやるべきことがあるはずだ。

子どもがいる家庭で電気料金の滞納があった場合、電気をストップするなら、行政など関係機関に必ず連絡する、とか何らかのネットワークを作るべきだろう。

じわじわと社会の貧困が広がっていくなか、かつて以上に貧困は見えにくい。その渦中にいる当事者も孤立しがちだ。

たまたま、今日午後、東京の中心部で「憲法25条」についての大きな集会やデモが行われていた。

今どき、ロウソクで生活しなければならない子どもがいるなんて、それだけで「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する憲法25条違反だと言ってもいいだろう。

政府も「子どもの貧困」の問題に本腰を入れると宣言している。

だったら、かけ声ばかりでなく本格的な仕組みづくりに動いてほしい。

子どもが犠牲になる事件はもうたくさんだ。

(2015年10月28日「Yahoo! 個人」より転載)

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