BLOG

最終報告書で別の『クロ現』疑惑に触れない「不十分」と「不自然」と「不可解」

2015年04月29日 14時59分 JST | 更新 2015年04月29日 14時59分 JST

「いわゆる『やらせ』は行っていない」というNHK

A氏を裏付けのないままブローカーと断定的に伝えたことは適切でなかったが、B氏が多重債務者であり、本当に出家を考えていたことは事実であると思われる。また記者は、多重債務者のB氏から「A氏に相談に行く」と聞かされ、相談の撮影を考えたのであり、「役」の入れ替えを提案されたというA氏の主張は受け入れられない。A氏は、相談やインタビューで語った内容について、記者から具体的な指示などはなかったとしている。こうした点を考慮すると、記者が意図的または故意に、架空の相談の場面を作り上げ、A氏とB氏に演技をさせたとは言えず、「事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』は行っていない」と判断する。

出典:NHK「クローズアップ現代」報道に関する調査報告書

 28日にNHKが公表した「最終報告書」は、"やらせ"を否定した。

 NHKの調査委員会が『クローズアップ現代』の宗教法人詐欺の"やらせ疑惑"について調査した末の結論だ。

 だが、これについて一読した私の感想は、

調査報告書として「非常に不十分」

というものだ。

 まず、第一に、真っ向から意見が対立しているA氏、B氏、N記者の言い分がなぜ違うのか、という点にはまったく迫っていない。

「ブローカー」として番組に登場したA氏と、「多重債務者」として登場したB氏や取材したN記者とは、大きく主張が異なっている。

A氏は「自分はブローカーではない」「N氏にブローカーを演じるように依頼された」と主張し、B氏とN記者はそうした事実はなかったと主張している。

A氏は、週刊誌の取材に対して証言し、その後に記者会見を開いたり、BPO(放送倫理・番組向上機構)に、人権侵害の申し立てを行うなどしている。

どうしてこういう事態になったのか、この「最終報告書」を読んでも、さっぱりわからない。

 

 また、「やらせ」という言葉にしても、「相談やインタビューで語った内容について、記者から具体的な指示などはなかったとしている。こうした点を考慮すると、記者が意図的または故意に、架空の相談の場面を作り上げ、A氏とB氏に演技をさせたとは言えず、「事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』は行っていない」と、

"やらせ"という行為を、非常に狭く解釈している。

これは意図的なのだろうか?

「具体的な指示」がなければ、それは「やらせ」とは呼ばないかのようだが、実際には「やらせ」は関係性において「あうんの呼吸」で行われることもありうる。

さらに、全体的に、N記者の言い分に沿った形で検証が行われている。

A氏の主張は「合理性を欠いている」と退けている。

だが、仮につじつまが合わない部分があるとしても、一部でも真実である可能性はないのか、などという検証的な眼で調査を行っていないように思われる。

 また、もっと大きな問題は、

一部週刊誌で最近、報道された、N記者がかかわる「もうひとつの『クロ現』の疑惑」にまったく言及していない、

ことである。

これは、昨年、N記者が取材にかかわった覚せい剤や脱法ドラッグ(危険ドラッグ)を扱った回の『クローズアップ現代』で、N記者が「脱法ドラッグに詳しい人物」として、取材してその証言を使った人物が「ジャーナリスト」だった、という問題だ。

『FLASH』によると、NHKのある職員が「"ヤラセ"は他にもあります」という告発情報を寄せてきたのがきっかけで、この"脱法ドラッグに詳しい人物"なる人間が、実は「N記者の知人のフリージャーナリスト」

である、という。

出典:ヤフーニュース個人(水島宏明)

私の元には、その「ジャーナリスト」についての内部告発が、NHK関係者からも寄せられている。

テレビ報道にも関係している人物だという情報提供もあった。

そうであれば、広い意味でNHKの身内ではないのか。

もしも自分たちの関係スタッフを、匿名にして「~に詳しい人物」として、都合よく証言させたというならば、重大な「放送倫理違反」である。

当日の『クローズアップ現代』には制作に協力した制作会社のクレジットは出ていなかった。

身元を明らかにして提供された情報なので、この情報には一定の信ぴょう性があると思われる。しかし、確認するまでの時間がないので、ここではそういう情報提供があったことだけを伝えておくにとどめる。

いずれにしても週刊誌報道が出てから、NHKの調査委員会がこの「ジャーナリスト」という人物がどういう素性で、N記者との関係を調べていれば、『クローズアップ現代』をめぐる疑惑は、もっともっと調べるべき対象が多いことがわかったはずだ。

 もし、この報道や提供情報が事実だとすれば、このジャーナリストがテレビ報道番組で「裏社会」をめぐる問題について取材や放送の経験がある人間かなどもわかるはずだ。

こういう人物をこういう形で使いながら、それを明らかにせずに、「脱法ドラッグに詳しい人物」として素性を明かさずに放送したN記者および『クローズアップ現代』の行動ははたして適切だったのか、問われるべきだ。

また、今回の検証対象になった『宗教法人詐欺』の回でも、同じ「裏社会に詳しい人物」として、この「ジャーナリスト」が出ていないのか、同様の手口が使われていないか、検証されるべきである。

実際、今回の最終報告書でも、N記者が別の『NHKスペシャル』などでB氏を登場させていたことが確認されている。(しかもNHKはこのことを大きく問題視していないが、おそるべき感覚の鈍さだと思う。)

でも、この「ジャーナリスト」について委員会が調査もすることなく、「最終報告書」は出された。

つまり、NHKの調査委員会はこの問題にはまったく触れることなく、幕引きをしたのだ。

これは、どうみても「不可解」だし「不自然」でもある。

これは、過去の民放の不適切な放送のケースと比べても、明らかにずさんな検証だと言える。

たとえば、2011年に東海テレビの『ぴ-かんテレビ』で起きた「セシウムさん」事件での調査検証では、問題のテロップを作成したテロップ制作者の周囲との人間関係などが徹底的に調査され、番組制作費の変遷、個々のスタッフの仕事量、経営計画までが検証の対象とされた。

「全員が絶対的に多いですよ。仕事量は」

出典:東海テレビ「ぴーかんテレビ」検証報告書

などと、プロデューサーの証言などをヒアリングして公開している。

こうした民放テレビ局の姿勢と比べても、今回のNHKの調査報告は中途半端としか言いようがない。

「過剰な演出」だというにしても、N記者がなぜそれを行ったのか。なぜ上司にも偽った報告をして、今回の行為をしてしまったのか。報告書にはまったく書かれていない。

 今回、NHKは関係者の処分も発表した。

問題のN記者は、停職3カ月。

上記の、別の回の『クロ現』疑惑は調査委員会の調査対象ではなかったので、余罪としてはカウントされていないらしい。

そして、籾井勝人会長は、「処分」ではなく、役員報酬の「自主返納」20%を2カ月。

籾井氏のクビは結果的につながった、といえる。

なぜこんな拙速としか言いようのない「最終報告書」を出したのか?

籾井会長への波及を避けるための、拙速な幕引きという「結論ありき」の筋書きだったのではないか。

だとすると、やはり今回の調査そのものが、初めから落としどころが見えていた、という疑惑が残る。

今回の調査そのものが"やらせ"だったという疑いがぬぐえない。

下にも甘く、上にも甘く・・・

発表された再発防止策も新味はなく、これまで不祥事を起こした民放テレビ局による再発防止策よりもはるかに甘い。

これではいずれ、NHKでまた不祥事が発覚するに違いない。

(2015年4月28日「Yahoo!ニュース 個人」より転載)