高橋まつりさんの死から1年 全文掲載から見える記者たちの思い

新聞各社の朝刊は高橋幸美さんが公表した手記を1面トップなどで大きく扱っている。この手記からは母親の大きな慟哭が伝わってくる。それはどんなニュースよりも心に響く。

まつりの命日を迎えました。

この言葉で続く文章は、ぜひ読んで欲しい。

去年の12月25日、クリスマス・イルミネーションできらきらしている東京の街を走って、警察署へ向かいました。嘘(うそ)であってほしいと思いながら......。前日までは大好きな娘が暮らしている、大好きな東京でした。

あの日から私の時は止まり、未来も希望も失われてしまいました。息をするのも苦しい毎日でした。朝目覚めたら全て夢であってほしいと、いまも思い続けています。

出典:毎日新聞公式サイト

命日となった今日、新聞各社の朝刊は母親の高橋幸美さんが公表した手記を1面トップなどで大きく扱っている。

この手記からは母親の大きな慟哭が伝わってくる。

それはどんなニュースよりも心に響く。

朝日新聞も一面のトップで手記のニュースを掲載した。

働く人全ての意識変えて 電通過労自殺、母が命日に手記(朝日新聞)

愛する娘の死をきっかけに長時間労働の是正に向けた社会的関心が高まっていることに触れ、日本人の働き方を変えていくために、働く人一人ひとりの意識を変えてほしいと訴えている。

出典:朝日新聞デジタル

毎日新聞も事件の背景を解説しながら手記そのものを読ませようとする記事だ。

「働く人全ての意識変わって」母が手記(毎日新聞)

高橋さんは昨年4月に入社し、同12月25日朝、東京都内の社宅マンションから飛び降りた。幸美さんは手記で「あの日から私の時は止まり、未来も希望も失われてしまいました」と吐露。「会社を辞めるようにもっと強く言えば良かった。母親なのにどうして娘を助けられなかったのか」と自責の念も記した。

出典:毎日新聞公式サイト

まつりさんが亡くなってから1年絶った朝、日本テレビは朝6時15分からの『NNNニュースサンデー』で手記について報道した。

電通社員で、過労自殺した高橋まつりさんの母親が、まつりさんの命日である12月25日に手記を寄せた。手記には、「仕事のために不幸になったり、命を落とすことはあってはなりません」「日本の働く人全ての人の意識が変わって欲しい」とつづられている。

出典:日テレNEWS24

日本テレビは昼のニュースでもこのニュースを報道した。異例の取り扱いといっても良い。それだけに記者の「思い」が想像された。

フジテレビも同様にニュースにしたが、どちらも1分程度と民放での扱いは小さい。TBSとテレビ朝日は朝ニュースでは扱わなかった。

(TBSは昼ニュースでは短く扱った。)

対照的に大きな扱いだったのがNHKだ。

NHKは朝7時からの『おはよう日本』の2番目の項目で3分あまりにわたってこの手記を紹介した。

そして、NEWS WEB でも以下のように全文を掲載している。

過労自殺した高橋まつりさんの母親の手記 全文

まつりは、あの日どんなに辛かったか。人生の最後の数か月がどんなに苦しかったか。まつりはずっと頑張ってきました。就職活動のエントリーシートの自己PRの欄に、「逆境に対するストレスに強い」と書いていました。自分が困難な境遇にあっても絶望せずあきらめないで生きてきたからです。

出典:NHK NEWS WEB

NHKはネット上で全文を読めるようにしている。また毎日新聞も全文をネットに掲載、朝日新聞も同様に配慮した。

記者たちも心を動かされたのだろう。

それだけ、母親の幸美さんが綴った思いを多くの人たちに届けたいという記者たちの強い意志を感じさせた。

クリスマスの日、若者たちは恋人や友人たちと楽しく過ごしていることだろう。

そうした時間も人生では大切だろう。でも、ちょっとだけ立ち止まって、ちょうど1年前に失われた命について思いをはせてほしい。

この手記には最初から最後まで読むだけの価値がある。

母親・幸美さんの手記は最後の部分ではこのような文章がある。

けっしてみせかけではなく、本当の改革、本当の労働環境の改革を実行してもらいたいと思います。形のうえで制度をつくっても、人間の心が変わらなければ改革は実行できません。

母親が強調した「人間の心」という言葉。

それは記者や経営者だけでなく、この事件に無関係だと考えているあなたにも向けられている。

(2016年12月25日「Yahoo!ニュース個人(水島宏明)」より転載)

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