TOKYO MXが「ニュース女子」で発表した"居直り"

BPOに関係する放送局のケースを検証してきた立場からすると、このMXの「当社見解」の表明には無視してはいけない「不遜な態度」が見え隠れする。

出張先の熊本にいたら、ある新聞社の記者から電話がかかってきた。

「TOKYO MXが例の『ニュース女子』で見解をホームページ上に発表したんですが、読んでいますか?」

「えっ? だってあの問題はBPOが2つの委員会で審議している問題ですよね? 問題が審議中に見解を発表しないものでは??」

「そうなんですが、その内容が『ニュース女子』を正当化するものなんです。大至急、読んでください」

そんなやりとりがあって、さっそくTOKYO MXのホームページを開いてみた。

TOKYO MX=東京メトロポリタンテレビジョン株式会社の、最初のページの「INFORMATION」という見出しに入り口があった。

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番組「ニュース女子」について 番組「ニュース女子」に関する当社見解を掲載いたしました。(2017/02/27)

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それをクリックしたところにある「当社見解」というページにTOKYO MXの主張が細かく記されている。

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当社では、本番組の放送後、視聴者の方々等から寄せられた指摘等を踏まえ、本番組の内容について調査、

確認を実施した上で、本番組について次のとおり考えるに至っております。

1.番組内で使用した映像・画像の出典根拠は明確でした。

2.番組内で伝えた事象は、番組スタッフによる取材、各新聞社等による記事等の合理的根拠に基づく説明であったと判断しております。

3.上記1.及び2.のとおり、事実関係において捏造、虚偽があったとは認められず、放送法及び放送基準に

沿った制作内容であったと判断しております。

4.本番組は、当社が直接関与しない制作会社で制作された番組を当社で放送するという持込番組に該当しますが、当社は、放送を行った点において放送責任を負う立場にあり、持込番組であっても内容のチェックを行っています。しかしながら、本番組では、違法行為を行う過激な活動家に焦点を当てるがあまり、適法に活動されている方々に関して誤解を生じさせる余地のある表現があったことは否めず、当社として遺憾と考えております。

5.番組の考査体制に関し、より番組内容のチェックレベルを向上させるため、考査手順、考査体制に関し更なる検討を行います。

6.再取材、追加取材をもとに番組を制作し、放送致します。調査及び取材を丁寧に実施するため、数か月の制作期間を経て放送することを予定しています。

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結論としては、今回問題になった「ニュース女子」の番組内容を踏まえて、数ヶ月かけて再取材した番組をつくって放送する、というもの。

おそらく各社の新聞記事の見出しなどは、ここがポイントとして見出しになるはずだ。

だが、BPOに関係する放送局のケースを検証してきた立場からすると、このMXの「当社見解」の表明には無視してはいけない「不遜な態度」が見え隠れする。

それは、BPOが審議をしている真っ最中にもかかわらず、BPOが数ヶ月後に出すであろう「意見」などの決定(裁判でいえば「判決」に相当する)の機先を制している点だ。

簡単にいえば今回の「当社見解」は「私たちの見解はこうです」「私たちは体制の見直しを考えています」「私たちは検証番組をつくって放送します」というものだが、それはBPOもどうせ「社内の考査の体制などを見直せ」「検証番組をつくって放送しろ」と言ってくるに違いないと高をくくって、BPOが決定を出す前に「先に態度表明」をしている。

確かに放送に関しては何ら強制力を持たないBPOは、放送倫理に審議しても「再発防止」などの社会体制の見直しや検証番組の放送などを「意見」したり、「勧告」したりする程度しか機能を持っていない。

それでも民放各社とNHKが出資して運営する機関なので、放送局に対してある種の「権威」を持ってきたわけだが、今回のMXテレビの姿勢は「どうせそんな程度しかやれないでしょ?」という不遜な態度が透けてみえる。

放送関係の人間から見れば、BPOの権威を「真っ向から否定」したようにも読み取れる不遜な文章なのだ。

なかでも筆者が注目したのは以下の部分である。

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2.番組内で伝えた事象は、番組スタッフによる取材、各新聞社等による記事等の合理的根拠に基づく説明であったと判断しております。

3.上記1.及び2.のとおり、事実関係において捏造、虚偽があったとは認められず、放送法及び放送基準に沿った制作内容であったと判断しております。

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「番組内で伝えた事象」を「合理的な根拠に基づく説明」であったとし、事実関係に「捏造」「虚偽」があったとは認められない、としている。これは筆者を含めてMXテレビの「ニュース女子」を疑問視する立場とは真っ向から対立する。

この点は「『ニュース女子』の放送内容は報道機関として問題のないものだった」と、自らを正当化する見解になっていて、正直なところ、こういう見解を発表したことには筆者は驚いた。

筆者もそうだし、BPOの委員たちもおそらく、TOKYO MXも(番組をつくった)DHCシアター=化粧品健康食品大手DHCの子会社との関係上、経営的に「事情」があったのだろうと同情的な見解を持っていたからだ。

それがMX テレビそのものが、番組内容を反省するどころか、「居直り」の姿勢を見せたのだ。

MXと対照的なのが、大阪の毎日放送だ。「事実とは何か」を真摯な姿勢で取材し、丁寧な番組づくりをしているが、その中では今回の「ニュース女子」の問題も登場する。

基地反対運動について取材した同社ドキュメンタリー「映像’17 沖縄 さまよう木霊 ~基地反対運動の素顔~」では、「ニュース女子」で放送された基地反対派の妨害行為によって破壊された救急車の写真が、検証報道の結果、実は沖縄の救急車の写真ではなかったという事実が報道されている。

今回のMXによる「当社見解」の公表の結果、現在、「ニュース女子」を2つの委員会で審議しているBPOがこうした「居直った」テレビ局に対してどういう裁断を下すのか、これまで以上に注目されることになった。

権威というのは、それを相手側が認めてこそ、権威の側がいう発言や決定などに重みを持つ。

「そんなもの認めない!」という相手が登場したとたん、権威の側こそ必死にその存在理由を示す必要が出てくる。

メディアと政権との関係でも、「既存のメディアはウソニュース」などという暴言を吐く人物が政権トップになったとたん、それまで既存メディアが持っていた権威が怪しくなってしまう。世界的にみればそうした潮流の中に私たちはいるのだろう。

ここはBPOの「本気」を見せてほしいと切に願っている。

(2017年2月28日「Yahoo!ニュース個人(水島宏明)」より転載)

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