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事業ポートフォリオ改善に向けた大きな一歩 ~ セブン&アイ、一部百貨店をH2Oへ譲渡で思うこと

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本日の日経の報道で、セブン&アイ・ホールディングスは百貨店事業を大幅に縮小し、関西が地盤のエイチ・ツー・オー リテイリング(H2O)と資本業務提携すると発表した。相互に57億円程度の株式を持ち合い、セブン&アイは H2Oの発行済み株式の3%、H2O はセブン&アイ株式の0.1~0.2%程度を取得するとみられるとのこと。セブン&アイ傘下のそごう・西武が運営するそごう神戸店(神戸市)など3店をH2O に譲渡するとのことらしい。

セブン&アイ、百貨店縮小 H2Oに関西3店舗譲渡 資本業務提携で株式持ち合い

本件は、H20がどうだというよりも、セブン&アイが、従来からの不採算の百貨店事業モデルをいよいよ切り離しにかかったとの印象が強い。いわゆる事業ポートフォリオの改善である。

縮小する百貨店業界


先ずは最近の百貨店業界を見てみる。

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2015年の百貨店の市場規模は6兆1,742億円(前年比0.2%減)となった。2003年から2013年の年平均成長率(CAGR)は-2.6%であり、特に金融危機後の2009年には前年比-10.8%と大幅に縮小し、百貨店市場は減少の一途を辿っている。

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また、売上が減少する一方、店舗面積は減少幅が小さい。理由として、百貨店は売上が落ちてくると改装・増床を繰り返す傾向があり、閉店する百貨店の店舗面積を改装・増床する百貨店の店舗面積がカバーしているためである。しかし、売上が伸びずに売場面積を拡大することは、売場面積当たりの商品販売額や従業員数一人当たりの売上高の低下になるため、営業効率も下がり続けることになる。

但し、2013年には1997年以来、16年ぶりに前年比プラスとなっており、アベノミクス効果や2014年4月からの増税に対する駆け込み需要が追い風となったが、近年ではインバウンド需要も急速に萎み、課題が多くなっている。

■2007年に婦人服が食料品に売上トップを明け渡す


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百貨店の商品別売上高で減少が顕著な項目は最も売上を上げていた婦人服で、1998-2013年の15年間で婦人服市場の約40%の売上が失われている。また、婦人服は2007年に百貨店の売上トップを食料品に明け渡し、2008年以降も食料品が減少幅を小さく抑えている一方で、婦人服は減少の勢いが止まらない。

構成比に目を移すと、衣料品と食料品で大きな違いをみせる。衣料品の売上高が減少しているため、2013年の構成比も2003年比-5.4%減少している。一方、衣料品の減少により2013年の食料品の構成比は相対的に比率が高まっており、2003年比3.8%増加している。

衣料品の売上高が大幅に減少している主な要因として、ファストファッションの台頭やネット通販の専門サイト(ZOZOTOWNなど)の利用率拡大などが挙げられ、百貨店で衣料品を購入する顧客は減少している。

一方、食料品の構成比が高まっている理由として、共働きの増加や「デパ地下」と呼ばれる食料品売場の魅力の増加が挙げられ、商材としてのグルメ商品・スイーツなど品揃えの充実や、北海道物産展などの物産催事である。

■セブン&アイの前期業績ハイライト


セブン&アイはこの第二四半期までで、60%減益ということだが、暦年比較を行うために通期実績で比較したい。

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・コンビニ 増収増益

1651店舗の積極的な出店を推進した結果、当連結会計年度末時点の店舗数は46都道府県で18,572店舗'前期末比1,081店舗増.既存店売上伸び率は平成24年8月以来43ヶ月連続でプラス。

・スーパーストア 増収減益

イトーヨーカ堂は、当連結会計年度末時点で182店舗(前期末比1店舗増)。店舗閉鎖や人員配置の事業構造改革の実行。店舗面は、有力テナントの誘致や、デリカの強化及び生鮮食品の対面販売推進を目的とした売場改装

・百貨店 増収減益

23 店舗(前期末比1 店舗減)を運営。商品面では自主企画商品ならびに自主編集売場の取り組み強化及びオムニチャネルを活用した価値ある商品の拡充による差別化を実行し、店舗面は池袋本店の基幹店の営業力を一層強化。

・金融 増収増益

ATM設置台数は前期末比1,449 台増の22,388 台まで拡大。「クラブ・オン/ミレニアムカード セゾン」の取扱高はショッピングを中心に前年を上回って推移。

ご覧のとおり、収益のほとんどがコンビニ事業であり、百貨店はじり貧の状態である。

事業ポートフォリオ評価


ポートフォリオ評価には、野村證券金融工学研究センターが提唱している、エコノミックプロフィット法(EP法)を使う。

Economic Profit 法 (EP法)

EPとは事業活動から得られた利益から,投下資産にかかる資本コスト相当額を差し引いた経済価値である.つまり投資した資本に対して,一定期間(短期間)でどれだけのリターンを生み出したかを事後的に計測する.企業が将来の創出する EP を現在価値に割り引いたものの総和を求める方法である.

EPの場合は、ROIC(NOPAT投下資本率)、資本コスト(WACC)、投下資本の3つに分解され、EPをプラスにするためには、()内をプラスにすることが必須だが、その条件にはWACCを上回るROICが期待出来る事業に資本投下することが必要であり、ROICを高めるか、WACCを引き下げる施策の検討が必要になる。

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ROICを改善させるためには、分子の営業利益を増加させるか分母の投下資本を削減するかであり、運転資金圧縮や遊休資産のへの対応が検討されるが、一方で資本コストを引き下げるための有効策としては、リスクマネジメントや信用リスク格付向上等があるものの、頻繁に変更するのは困難であり、アンコントローラブルの場合も多いため、ROICを向上させる策を講じるのが現実的となる。

但し、一般的に指標管理だけで経営管理すると、投資意思決定の際に縮小均衡に陥ることが懸念されるため、それを是正するのが、EP管理である。

EPはEPをWACCの高低を比較したあとに投下資本を乗じることで、投下資本削減だけではEPの継続成長は達成出来ない仕組みになっている。

これでセブン&アイの各セグメントをグラフ化すると以下の様になる。

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コンビニ事業は毎期、2000億円ずつ、投下資本を増加させていたが、前期投資を抑えEPOCが大きく改善した。

金融関連は実はコンビニよりも投下資本が大きく、ATM手数料では、なかなか資本回収が進んでいない状態である。金融関連は基本的に事業会社のWACCを吸収出来るほど、金利収益を確保するのは困難と考えている。

スーパーストアは、割と精緻に投下資本のコントロール(出店・閉店)を行っている印象だが、営業利益1%台では、EPをプラスにするのは困難である。

百貨店も投下資本のコントロールは行っているが、高級品の不振等あり、もう少し営業利益率が必要である。

結局はほぼコンビニの収益にすべてを依存している状況となっている。

今回この中の、百貨店の不採算店舗を譲渡することで、投下資本の一部を回収することは賢明な判断と言える。

但し、このグラフを見ればわかる通り、むしろ問題なのは、百貨店よりもイトーヨーカ堂が大半を占めるスーパーストアのEPがマイナスで事業価値を棄損させており、投下資本の回収が喫緊の課題となる。また金融事業は金利手数料を収益源とするが、基本的に薄利でインフラが大規模であるため、事業会社の資本コストの高さでは事業価値をプラスにすることは困難である。

これはリーマンショックの時に金融を持っていた事業会社が一斉に、その金融会社を金融専門会社に売却したことでもわかる。セブン&アイとしては今後、金融事業でどの位顧客の囲い込みが出来るかが判断の軸になるだろう。

いずれにしろ、セブン&アイが百貨店を切り離しにかかったことで、次はスパーストアをどう投下資本回収を図るかに注目していきたい。

(2016年10月7日「田中博文オフィシャルブログ」より転載)