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流通小売事業ポートフォリオ評価 イオン、ヨーカドー等のGMSは今後投下資本の回収が必要なステージへ

2015年01月28日 15時39分 JST | 更新 2015年01月28日 15時39分 JST

※記事内に登場する図表は、スライドショーでご覧ください。

流通小売事業ポートフォリオ評価

さて、今回、流通小売の第三四半期業績が出てきましたので、いろいろと分析をしてみたいと思います。

その中で、セブン&アイのとりあえずは好調、イオンの不調が大きく伝えられているわけですが、今回各事業のポートフォリオ評価を行ってみたいと思います。


バリュエーション・財務諸表


【図1】〜【図6】

※出所:SPEEDA よりデータ抽出、弊社で加工作成 (以降、全ての図表も同様)

株式時価総額1000億円以上の流通小売13社をピックアップしてみました。

セブン&アイが株式時価総額3兆8000億円、売上今期売上見込6兆1300億円、営業利益見込3560億円と突出しており、まさに一強状態です。

一方で利益率ベースでは、ローソン、ファミリーマート等、コンビニ専業が強いのですが、これにはFC事業等も含まれており、加盟店料やロイヤリティなども売上に計上されるため、この利益率が「商い」の利益率とは違うことに注意が必要です。

【図7】

その中で注目したいのは、一人当たりの営業利益ですね。ローソンのみ1000万円を超しますが、山陽地区中心のスーパーイズミも非常に効率化が進んでいます。一方でイオンの一人当たりの営業利益が156万円とかなり小さく、今期業績で苦労しているのも、ここに多少の原因があると思われます。


上位5社3Q業績


さて、今期第三四半期までの業績で、好調が伝えられるセブン・アンド・アイ、苦境のイオンですが、この2社も含めて上位5社の今期業績をラップアップしてみましょう。色が薄くなっているところは、今期3Q累計業績です。

・セブン&アイホールディングス

【図8】〜【図10】

好調が伝えられているセブン&アイですが、コンビニ事業とスーパーストア事業は従来、売上高が同程度でしたが、利益額・利益率に圧倒的な差があります。また季節変動要因もあるとは思いますが、百貨店、フードサービスはここまで赤字です。コンビニの次に利益を上げているのは、金融関連で、これは、コンビニのATM手数料を中心としているのですが、きわめて利益率が高い事業となっています。

・イオン

【図11】〜【図13】

非常に苦戦が伝えられているイオンはやはり、根幹事業のGMS収益が今期赤字となっており、第四四半期でGMSを黒字にするのは、現実的にはかなり難しい気もします。但し、これは今期から始まったことではなく、過去3期においても、利益額、利益率共に大きく減少させていました。それ以外のセグメントでも、軒並み利益額、利益率共に減少しており、イオン業績不振の深刻さが分かります。

・ローソン

【図14】【図15】

ローソンはセグメント二つですが、実質コンビニ事業が中心です。業績は利益額、利益率共に堅調ですが、冒頭に書いた通り、この利益率の高さはFC加盟店からの新規加盟店料、ロイヤリティなどが売上計上されており、その分はほぼ利益となるので、この2桁の利益率となるわけで、実際の「商い」で気の利益率ではないことに注意してください。

・三越伊勢丹ホールディングス

【図16】〜【図18】

この発行体は3月決算なので、第二四半期までの開示です。ほとんどが百貨店事業なのですが、消費税引き上げの反動が大きく、利益額ではかなり苦戦している状況でしょうか?あとはクレジット・友の会の利益率が高いです。

・ファミリーマート

【図19】【図20】

ここはセグメントなしです。利益率が下降気味なのが気になります。


事業ポートフォリオ評価


事業ポートフォリオ評価ではROICとWACCを比較する場合が多いと思いますが、今回も前回の電鉄ポートフォリオ評価でも使用した野村證券の金融工学センターが 「企業価値向上の事業投資戦略」で提唱している、エコノミックプロフィット法(EP法)を使ってみたいと思います。

エコノミックプロフィット法

EP とは事業活動から得られた利益から,投下資産にかかる資本コスト相当額を差し引いた経済価値である.つまり投資した資本に対して,一定期間(短期間)でどれだけのリターンを生み出したかを事後的に計測する.企業が将来の創出する EP を現在価値に割り引いたものの総和を求める方法である.

出所:「企業価値向上の事業投資戦略」より


EP法

EP = NOPAT - WACC × 投下資本

  = ( NOPAT / 投下資本 - WACC ) × 投下資本

EPの場合は、ROIC(NOPAT投下資本率)、資本コスト(WACC)、投下資本の3つに分解され、EPをプラスにするためには、()内をプラスにすることが必須ですが、その条件にはWACCを上回るROICが期待出来る事業に資本投下することが必要であり、ROICを高めるか、WACCを引き下げる施策の検討が必要になります。

ROICを改善させるためには、分子の営業利益を増加させるか分母の投下資本を削減するかであり、運転資金圧縮や遊休資産のへの対応が検討されますが、一方で資本コストを引き下げるための有効策としては、リスクマネジメントや信用リスク格付向上等がありますが、頻繁に変更するのは困難であり、アンコントローラブルの場合も多いため、ROICを向上させる策を講じるのが現実的です。

但し、一般的に指標管理だけで経営管理すると、投資意思決定の際に縮小均衡に陥ることが懸念されるため、それを是正するのが、EP管理ですね。

EPはEPをWACCの高低を比較したあとに投下資本を乗じることで、投下資本削減だけではEPの継続成長は達成出来ない仕組みになっています。

この方法で、上位5社のセグメントを評価してみましょう。

・各社WACC

【図21】【図22】

各社のWACCの5年推移です。リスクプレミアムは過去50年を参考にしました。(出所:プルータスコンサルティング)

リーマンショック以降、株価が冴えない時期が続き、WACCが下降局面だったわけですが、2年前のアベノミクス開始により、株式資本コストが上昇し始め、現在に至ります。但し、イオンのみがWACCを下げており、理由としては、この5年で有利子負債が5000億円増加しているためと考えられます。

・セブン&アイ

【図23】【図24】

  • コンビニ事業は毎期、2000億円ずつ、投下資本を増加させながらも、EPOCが下降気味であり、効率的でなくなって来ている。
  • 金融関連は実はコンビニよりも投下資本が大きく、ATM手数料では、なかなか資本回収が進んでいない状態。金融関連は基本的に事業会社のWACCを吸収出来るほど、金利収益を確保するのは困難と思料。
  • スーパーストアは、割と精緻に投下資本のコントロール(出店・閉店)を行っている印象だが、営業利益1%台では、EPをプラスにするのは困難。
  • 百貨店も投下資本のコントロールは行っているが、高級品の不振等あり、もう少し営業利益率が必要。
  • 結局はほぼコンビニの収益にすべてを依存している状況。

・イオン

【図25】〜【図27】

  • GMSは投下資本を圧縮して効率化を行おうとしているが、利益が追い付いて来ておらず、今期はEPマイナスになる可能性大。さらなる投下資本の回収(閉店・売却)が必須と思料。
  • 総合金融は銀行業務の収益では事業会社のWACCを吸収しにくい環境。収益は上げているものの、その規模感は事業価値を毀損させているため、事業買収による規模化も必要。
  • ディベロッパー業務は、テナントの家賃収益が中心であり、安定的であるが、高収益維持のためには、テナントの入れ替え、来店客誘致策の向上が必要。
  • 戦略的小型店 ミニストップなどのコンビニがあるが、規模が小さく他のコンビニ3社のような利益構造になるには小さすぎる。どこかの買収を真剣に検討すべきと考える。

・ローソン

【図28】【図29】

  • 実質コンビニ単一セグメントだが、WACCが低いにも関わらず、EPOCが下降気味であり、投下資本の入れ替えが必要。

・三越伊勢丹ホールディングス

【図30】【図31】

  • 百貨店の収益業況が一気に悪化しており、今期は更に業績悪化の見込み。今までPLベースでは何とか凌いでいた構図だが、消費性引き上げの影響が、投下資本の大きさ位にも大きく影響を及ぼし、今期の状況如何では、何らかのリストラ(投下資本の回収)が必要と思料
  • 一方で、金融がまだ育っていない環境であり、どこかを買収を検討することも必要。

・ファミリーマート

【図32】

・セブン&アイとイオンのGMS事業の比較

【図33】

2社のGMS事業だけを比較すると、実はセブン&アイは前期にEPがマイナスになっています。これはセブン&アイのWACCが前期3.85%であるのに対し、イオンは2.04%であることが大きいと思われ、そういった意味ではイオンはこの5年の資金調達をコストの低い借入で行い、結果的にWACCを引き下げているので、その意図があったかどうかは分かりませんが、セオリー通りの財務戦略を行ったと言えます。但し、今期のGMS事業を勘案するとEPがマイナスになるのは避けられないと考えています。いずれにしろ、2社のGMS事業は価値を創造出来ていないということになります。

・セブン&アイ、ローソン、ファミリーマートのコンビニ事業の比較

【図34】

このグラフを見れば、いかにセブンイレブンが大きい資本を投下して、その価値を大きく想像しているかが分かります。基本、ほかの2社も同じ事業構造なのですが、その規模とEPOCにおいて、セブンイレブンが圧倒的にローソン、ファミリーマートを凌駕していますね。そしてこのセブンイレブンの強さが、ほとんどそのままセブン&アイの価値、強さになっているということになります。


今後流通小売はどうしていけばいいのか


いずれにしろ、セブン&アイでさえ、コンビニ事業以外はほとんど事業価値を創造していない状況であるわけですが、特にGMS事業をどう展開していくか。

以下は、製造小売の2社をピックアップしました。

【図35】【図36】

ABCマート、しまむら等、消費税引き上げ後の今期も業績堅調であることが分かります。ですから、消費動向すべてが悪いわけではありません。

従来のGMSのビジネスモデルは利幅の大きい衣料品で稼いできたのですが、このような製造小売(SPA)が出てきた結果、彼らはその製品訴求力で独自の出店を行うことが可能になり、ロードサイドに多く進出し、GMSに出店するなら、その商品力を武器に、GMSとの家賃交渉を優位に進める様になりました。結果的に今のGMSは利幅の少ない食料品に頼っている状況です。

一方で、過去、大きい小売テナントを入れることを前提として各地に大量出店して来たモールが、その投下資本の大きさに見合った利益を確保できずに苦しみ始めているというのが、今期の状況と考えています。そして、近い将来、利益が出なくなったGMSはその投下資本を支えきれなくなり、いわゆる事業売却、大量閉店を行い、投下資本の回収を行うステージが来ると考えています。

4、5年前に総合電機が白物家電や半導体で利益が出なくなり、大きく事業ポートフォリオを変更しました。その中でパナソニックがプラズマディスプレイ事業や三洋電機事業を売却して、投下資本を大きく回収し、改めて事業を採算に乗せたのは記憶に新しいところです。今、同じような状況が流通小売業界に起きつつあると考えています。

イオンは今後事業価値創造としてのGMS事業の見直しが必要でしょうし、それはやはり過剰になりつつある投下資本の回収が必須だと思います。商品戦略も重要ですが、ぜひ事業ポートフォリオの見直しにも手を付けていただければと思います。

(2015年1月17日「Hiroの『グローバルで負けないリスクテイク出来る日本へ』」より転載)