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西武HD IPO 時価総額は私鉄最大の7900億円。バリュエーションは開発案件をどう評価するか。

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さて、先日、西武ホールディングスの再上場が承認されました。1月に西武ホールディングスが上場申請した時もエントリーを書いたのですが、今回改めて直近のデータでリバイスしてみたいと思います。

西武HDは、西武鉄道として、1957年から東証一部に上場していましたが、2004年に発覚した証券取引法違反事件により同年12月に上場廃止処分となりました。その後の外資系ファンドのサーベラスを中心に約1000億円超が出資され、コクド・西武鉄道・プリンスホテル間での事業領域の再構築を行い、今回その出口の集大成となります。

昨年、西武HDの株式総会では、上場時の株価をめぐりサーベラスとの深い対立が表面化したのは、記憶に新しいところです。

さて、西武HDは上場廃止後も有価証券報告書を継続開示しており、かつ今回は公募はなく、売出しだけであるため、金融証券取引法による有価証券届出書の提出は不要となります。よってEDINETでは閲覧出来ません。但し目論見書は必要なので今回の引受証券会社で配布若しくはネットで閲覧することが可能です。

ここでは、東証が開示した新規上場会社概要とⅠの部(東証審査申請資料であり、有価証券届出書から証券情報が割愛されたもの)で見てみましょう。

西武ホールディングス ファイナンス概要およびⅠの部

■ファイナンス額、株式流動性は適正範囲

ロイターの記事では想定発行価格は2300円。ファイナンスは新規上場概要を見ると、国内売出し約4851万株、海外売出し約3234株で合計8085万株です。ファイナンス額は1860億円で株式時価総額は7869億円となり、現在民間鉄道会社で最大の東京急行電鉄の7518億円を抜くことになります。

今回のファイナンスは全て売出しであり、筆頭株主であるサーベラスは約5300万株を売出し、それ以外は米シティグループの子会社、UBS証券、農林中央金庫と日本政策投資銀行で、サーベラスとの合計で発行済み株数の約23.6%を売り出すことになります。

ファイナンスの規模を測る指標として、オファリングレシオ(Offering Ratio)があります。計算は簡単で(公募株+売出し株)/ 本件公募含む発行済株式総数)。要は発行済み株式数のどの位を株式市場に放出(公募・売出)すれば、適正に投資家が株を消化できるかという指標のことです。

ここはバリュエーションとは直接関係ない部分ですが、IPOを成功させるために極めて重要なファクターとなっており、この適正レンジは結果的にIPOの場合、20%プラスマイナス5%が良いディールだといわれています。そういった意味では、今回のファイナンス規模は適正規模だと言っていいでしょう。

■業界構造 どのように安定高収益の鉄道事業に顧客を呼び込むか?

私鉄会社の運行距離は1980年から2005年までの間、地方開業もあったことから、営業距離、事業者数も伸びていましたが、2005年を境に現在は減少傾向となっています。

鉄道事業の収益性は高いですが、路線拡大による収益拡大は容易ではありません。そこで鉄道事業者は多角化を進めており、沿線人口が鉄道事業の収益の鍵となります。展開しているほとんどの事業は収益性が鉄道事業に及ばないですが、沿線人口を増加させることで鉄道事業とのシナジーを見込んでいるということですね。また、駅や駅前など保有している好立地土地資産の活用という側面もあります。

大手私鉄13社の前期の各事業セグメントの売上高とセグメント比率が次の2つのグラフになります。

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売上が一番大きいのは東急で、以下、近鉄と続き、西武HD売上4592億円(連結調整前)で、ちょうど真ん中くらいですね。そして、実は京成以外は、事業全体の中で鉄道事業の売上は半分を超していません。東急の鉄道事業は全体の16%程度です。一方で西武HDは流通部門を持っていません。かつてセゾングループが西武百貨店、ファミリーマート、西友、ロフト等を持っていましたが、そもそも西武鉄道グループではありませんでした。

そういった意味では、流通部門を持っていない私鉄は極めて珍しいですね。似たようなセグメント形態に阪急阪神HDがあります。流通部門が8%程度ですが、これは阪急百貨店や阪神百貨店などのエイチ・ツー・オーリテイリングが同社の連結対象外となっているためですね。

また西武HDはとしまえんや西武ライオンズ、阪急阪神HDは宝塚歌劇団、阪神タイガースを保有しており、エンターテイメント、スポーツ系に力を入れているところも似ているかもしれません。

一方で、株式時価総額、営業利益率はかなりの差がつきます。

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株式時価総額は東急の7518億円から西鉄の1524億円まで広がります。次の3軸グラフは時価総額、売上高、営業利益率の3カ年の推移です。円の大きさは株式時価総額を表します。(UZABASE SPEEDAで作成)

総じてどこも、業績堅調ではありますが、東急と近鉄がほぼ同じ構図であり、東武、小田急、阪急阪神HDはここ3年で大きく利益率を上げてきています。特に阪急阪神HDが突出していますね。

各私鉄の予想PER、PBR(第三四半期ベース)、予想EBITDA倍率です。

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予想PERは京急が49.9倍と突出しており、平均が22.5倍。京急を除くと20.0倍になります。

PBRは平均1.6倍。通常のバリュエーションでは予想PERを使うことがほとんどですが、保有資産で収益を稼ぐ事業、鉄道、賃貸用不動産会社、銀行等はPBRも重要な指標で、アナリストなどはPBRをベースに評価しているようです。

最後は予想EBITDA倍率です。平均13.3倍。京急はPERが飛び抜けていますが、PBR、EBITDA倍率は許容範囲なので、やはり基本的には鉄道はPBR等の資産性指標を見たほうがいいでしょう。

■西武HDのバリュエーションは高めだが許容範囲内

それで、西武HDですが、今回のローンチ時に今期の業績上方修正を行うと同時に、2015/3期の業績予想も発表しています。一つずつ見ていきましょう。

平成 26 年 3 月期および平成 27 年 3 月期の業績予想について

今期2014/3期の業績予想は売上高4724億円、営業利益441億円、EBITDA841億円、当期純利益215億円となっています。EPSは62.86円で発行済株式総数は3億4212万4820株。

更に2015/3期業績予想は売上高4882億円、営業利益483億円、EBITDA895億円、当期純利益273億円、EPSは79.91円です。

このデータを先ほどの3つの指標に当てはめていきましょう。

想定発行価格は2300円ですから、
予想PERは
2014/3期ベースで想定発行価格2300円 ÷ EPS62.86円 = 予想PER36.6倍
2015/3期ベースで想定発行価格2300円 ÷ EPS79.91円 = 予想PER28.8倍
株式時価総額は想定発行価格2300円 × 株数 3億4212万4820株 = 7869億円となります。

PBR
2014/3期ベース
前期株主資本(純資産-少数株主持分)2405億円 + 今期予想当期純利益215億円 = 今期予想株主資本2620億円
2620億円 ÷ 3億4212万4820株 = BPS 766円
想定発行価格2300円 ÷ BPS 766円 = PBR 3.0倍
2015/3期ベース
今期予想株主資本2605億円 + 2015/3期予想純利益273億円 = 2015/3期予想株主資本2878億円
2878億円 ÷ 3億4212万4820株 = BPS 841円
想定発行価格2300円 ÷ BPS 841円 = 2.7倍

予想EBITDA倍率
株式時価総額7869億円 + ネット有利子負債7690億円(2Q)= 企業価値1兆5559億円
2014/3期ベース 
企業価値1兆5559億円 ÷ 今期予想EBITDA 841億円 = EV/EBITDA倍率 18.5倍
2015/3期ベース
企業価値1兆5559億円 ÷ 2015/3期予想EBITDA895億円 = EV/EBITDA倍率17.4倍
先ほどのグラフに西武HDを追加するとこうなります。

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■結局は旧赤坂プリンスホテル跡地の紀尾井町プロジェクト、また品川の保有資産をどう判断するか

このバリュエーションをどう判断するか?
私は今年の1月にエントリーを書いた時は業績上方修正前の今期業績のみを前提にアップサイドで株式時価総額6000億円程度とのコメントを書きました。

西武HDは従来より継続開示を行っているため、情報の非対称性や業績予想の精度を割り引く、いわゆるIPOディスカウントはありません。ですから、想定発行価格はフェアバリューとの認識です。

予想PER、PBR、EV/EBITDA倍率、全ておいて電鉄トップクラスのマルチプルとなりますが、特にPBRでは突出しており、いかに西武の含み益に対する期待値が高いがわかります。

そこで、昨年のダイヤモンドの記事が参考になります。
サーベラスが勝手にはじいた 西武再上場の想定株価の不可解

今回の想定発行価格は奇しくもこのエントリーのアップサイドの価格とほぼ同じになります。

外からは非中核案件と開発案件はわからないのですが、これから始まる1000億円を投資する旧赤坂プリンスホテル跡地の紀尾井町プロジェクト、また品川の保有資産を勘案するということなのでしょう。日経の報道では、西武の東京23区での土地保有面積は東急や小田急電鉄の約5倍とのことです。

当然セグメントごとの収益力を見ながら加重平均するというのが望ましいので、一応確認しますが、サーベラスは当時「鉄道事業のマルチプルが低すぎる」と言っていたようですが、各私鉄の鉄道事業セグメントの売上に対する割合はどこも30%程度であるため、むしろ、鉄道以外のセグメントの収益をみる必要があると思われます。下のグラフは西武HDの前期の各セグメント別の売上とEBITDAです。

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確かに鉄道事業のEBITDAが大きいのですが、売上が鉄道事業とほぼ同じホテル・レジャーセグメントを調べてみると、ホテル・レジャー専業3社(帝国ホテル、藤田観光、リゾートトラスト)のPBRは2.22倍、予想EBITDA倍率は13.5倍でした。また、総合デベロッパー3社(三菱地所、三井不動産、住友不動産)のPBRは2.6倍、予想EBITDA倍率は22.0倍です。

ですから、今後の未開発案件が、どのくらいの期間で収益化していくかによっては、この高めの予想EBITDA倍率を加味してもいいかもしれません。そうは言っても、一方で不動産事業(駅ナカ事業)や利益の出ていない建設事業などもあるので、そこを考慮することも必要ではあります。

また流通比率が低く、事業構造が似ている阪急阪神HDのPBRは1.1倍、予想EBITDA倍率は11.7倍でした。

いずれにしろ、株式市場、今後の業績の伸び、東京オリンピック等含め再上場するタイミングとしては、今年しかないでしょう。今後の西武HDに期待です。

(2014年3月23日「Hiroの 『グローバルで負けないリスクテイク出来る日本』」より転載)