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すかいらーく再上場 / MBOの成功とは何をさすのか?

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8月28日、すかいらーくが上場承認となりました。上場予定日は10月9日です。MBOで上場廃止になった2006年9月以来、8年ぶりの市場復帰となります。基準期の売上高は3,324億円、営業利益225億円は、外食の売上ではゼンショーHDに次いで2位となります。

すかいらーくは上場廃止後、11年に米投資会社ベインキャピタルの傘下に入り、経営再建を進めており、上場にあたっては筆頭株主のベインキャピタルが6481万7100株、他の株主が163万5500株を売り出します。

主幹事は野村証券。公募は国内で413万8000株、売り出しは国内で4314万7600株、海外で2330万5000株をメドに実施する予定で、オーバーアロットメント(以下OA)は709万2800株となります。

MBOの際に巨額ののれん代を抱えたことから、会計基準は減損が発生しなければ償却の必要がない国際会計基準(IFRS)を採用しており、IFRSを採用する企業としては初の新規上場になります。

すかいらーくの想定発行価格は1,450円で、株式時価総額は約2,816億円(OA除く)となり、外食では日本マクドナルドHDの約3,452億円(28日)に迫る水準となる見込みであり、サイゼリヤやロイヤルHDなどを上回る規模となります。

【すかいらーくの再上場までの経緯について】

・野村プリンシパル・ファイナンス主導のMBO

すかいらーくは、1970年に1号店を出店し、積極的な出店によって成長しましたが、不採算店舗も多く発生したため2000年代に業績が悪化し、再建をはかるため、2006年に野村プリンシパル・ファイナンス(以下NPF)などから出資を受けMBOを実施しました。

NPFが約1,000億円と英CVCキャピタル(以下、CVC)600億円を出資、みずほ銀行から、2200億円の融資を受け、すかいらーくを非公開化したものです。

TOB価格は2,500円で、当時の6ヶ月間平均終値(1,962円)を27.4%上回る水準でした。自社株を差し引いた発行済株式総数を全て取得した場合、2,719億円の規模となりました。

NPFとCVCおよび、みずほ銀行の最大調達可能資金合計額は3,800億円でしたが、2,719億円との差分の1,081億円は既存の純有利子負債約820億円の借り換えと非公開化の手数料と思われます。

すかいらーくの当時の企業価値(EV)は、最大資金調達を行った場合、概ねファンドとみずほの融資額となるため、EVは3,800億円でした。すかいらーくの当時の予想EBITDAは約400億円ですから、EV / EVITDA = 9.5倍。当時でも9.5倍は結構なハードルでした。

また当時の横川社長の再建計画は原材料価格の高騰で暗礁に乗り上げ、サントリーに増資案を持ちかけたもののNPFが同氏の解任を模索し、労働組合も投資会社に同調し、同氏の解任条件であった融資銀行団の同意も取り付け、横川竟社長の解任と谷真常務執行役員の社長就任が決議されたことは当時大きな話題となりました。

それでもなかなか経営は軌道に乗らず、2008年12月にNPFは追加出資500億円を行い、なかなか出口の見えない案件となっていました。

・ベインキャピタルによるセカンダリーバイアウト

そしてNPFによる当初の投資から5年後の2011年秋に負債込み2,600億円で米国投資ファンドのベインキャピタルがすかいらーくを買収しました。そして今般の再上場となります。

【すかいらーくの事業経緯】

すかいらーくのMBO以降の中心は、まさにブランドの業態転換でした。現在すかいらーく傘下には、ガストを中核にバーミヤン、ジョナサン、夢庵、グラッチェガーデンズ、フェスタガーデンなどのブッフェレストランと20以上のブランドがあります。

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業態転換の中心は「すかいらーく」の完全閉店、ガストへのシフト、バーミヤンの成長と停滞に対するてこ入れでした。

創業期からの中核ブランドであった「すかいらーく」は、多様な業態の登場や核家族化、景気低迷による中価格帯ファミリーレストランへのニーズ減退から、1990年代半ばから急速に店舗数を減らし、2009年に完全閉店とし、それに代わるブランドとして、低価格帯を狙ったガストで、メニューの絞り込みやドリンクバーの設置で効率化を図り、低価格を実現します。
他には中華専門のバーミヤンや、続いてできた和食専門の夢庵を2000年代前半まで積極的に出店しましたが、現状はやはりガストの売上、収益が中心となっているようです。

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この表は、ファーストフード等も含めた外食業界のうち、株式時価総額500億円以上の発行体を各直近決算の売上高、営業利益率と8月29日終値の株式時価総額の3軸でプロットしたグラフです。円の大きさと記載の数字は株式時価総額です。

売上はゼンショーHDが一番大きいですが、株式時価総額では日本マクドナルドHDが一番大きく、一方でカレーの壱番屋は売上高営業利益率が唯一2ケタになり、効率的な経営を行っていることがわかります。その中で、すかいらーくはIFRSの影響も大きいとは思われますが、比較的利益率の高い事業を行っており、マクドナルドの最近の迷走ぶりを勘案すると、今後の両社の業績如何では、すかいらーくが、株式時価総額で業界一位になる可能性も大いにあり得ると考えられます。

【今回の再上場の特徴】

・IFRS適用でのれん償却がなくなり、年間100億円超の費用計上が不要

内閣府令の連結財務諸表規則では、「金商法の規定により提出される連結財務諸表は(中略)一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとする」とされており、この基準に照らし合わせた結果、日本では、従来からの日本基準、米国で上場していたり、米国預託証券(ADR)を発行している発行体が採用している米国基準、そして、2005年よりEU域内市場での統一基準として採用され、世界120カ国以上で採用されている国際財務報告基準(以下、IFRS)が認められています。

要は日本の上場会社の連結財務諸表は3つの会計基準が混在していることになり、財務諸表を見る場合にはどの会計基準を適用しているかを確認する必要があります。

今回すかいらーくでは新規上場企業として、初めてのIFRS適用企業ということですが、既に各方面から指摘されている通り、IFRSは日本の会計基準とIFRSとではのれんの定義が異なり、日本の会計基準では償却していたのれんをIFRSでは償却しません。

日本の現行の会計基準では、M&Aにおける取得価額と買収した会社の貸借対照表の時価純資産との差額をのれんと認識し、買い手の貸借対照表に無形固定資産として資産計上し、計上されたのれんは、20年以内に均等償却されます。現にIFRS適用前の旧すかいらーくの財務諸表では2009年度から2011年度に渡り、毎年約106億円程度ののれんの償却が行われていました。そして、今回IFRS適用後は、基準移行日の日本基準帳簿価額の1,463億円が引き継がれており、その後は償却されていません。

本来、IFRSでは取得価額と買収した会社の貸借対照表の時価純資産との差額、いわゆる日本の会計基準でいうのれんを、さらに顧客データ、ブランド価値、ソフトウェアなどの無形資産に配分し、最後に残った部分をのれんとするわけですが、これも、重要な会計方針の企業結合の注記を見る限りでは、前述の通り、日本基準帳簿価額の1,463億円全額をのれんとしている様です。

IFRS適用により、すかいらーくは毎年106億円超の費用計上せずに済むわけですが、一方で当然ながら、IFRSでは毎年減損テストが義務づけられており。買収した会社の業績が悪化すれば、計上しているのれんを減損することになるため、多額の減損リスクを背負うことになります。全額ではないにしろ、すかいらーくは最大1,463億円の減損の可能性があるわけですね。

・ベインキャピタル・パートナーズ・LLC(以下、LLC)の成功報酬はファンドと利益相反するのでは?

すかいらーくはLLCとの間に毎年7億円を支払うマネジメント契約を締結しており、今回の上場によりその契約は終了しますが、上場の成功報酬として上場時に20億円、そして2015年5月29日に20億円の合計40億円を支払うことになっており、今期にその40億円を全額費用計上する予定です。

すかいらーくは米ベインキャピタルがGPとなる香港のファンド2本が95%超の株主であり、LLCはそのファンドの実質的なマネジメント会社となるため、LLCはすかいらーくの関連当事者となります。上場審査では関連当事者との取引は、取引の重要度により解消、若しくは開示の必要があり、今回この契約やそれ以外の取引が開示されています。

通常は主幹事証券が上場前にこの規模の取引は大株主との恣意的な取引として解消させることがほとんどなので、開示されることはほとんどないのですが、今回は上場過程では契約継続しているため、開示となりました。

当初は2021年までの契約であったものを、この7月に変更契約を交わし、上場時に終了する代わりに成功報酬として40億円を支払うことになった様なので、主幹事の一定の指導はあった様に見受けられます。

ただし、気になるのはベイングループのガバナンスです。

出資金そのものはファンドから出ており、LLCはそのファンドの収益の最大化を図るのが役割なので、LLCそのものが年間7億円、成功報酬40億円を受領することは、すかいらーくの業績、企業価値を引き下げているため、LLCの業績がファンドに反映されない限りLLCはファンドに対して利益相反する構図になり、悩ましいところではあります。彼らもそこが気になっているのか、マネジメントフィーを控除した調整EBITDAという項目を記載、開示しています。本来であれば、やはりファンドからの成功報酬として、LLCに還元されるのが望ましいのでしょうね。

・借入金に対する各種制限条項はキャッシュフロー重視から利益重視へ

MBOはファンドが直接投資のリターンを高めるために、あるヴィークルを作り、そこにファンドマネーと銀行団から多額の融資を受け、レバレッジを効かせて投資を行います。そして買収後、被買収企業と合併させ、被買収企業のキャッシュフローによって、銀行団からの融資を返済していくスキームです。

すかいらーくは直近では2013年6月17日に総額1,707億円のシニアファシリティ契約の更新を行っていますが、その内訳はファシリティA 600億円(返済期間6年 半年ごとに約50億円の返済)、ファシリティB 1,050億円(2019年6月24日 期日一括返済)、ファシリティC 57億円(2014年4月30日に返済済)、リボルビングファシリティ75億円となっています。

当初の大型の融資を組み替えて、長期の分割返済型と期日一括型(期日に再度組み直しがあります)、そして財務制限条項に抵触しないように、バッファーとして使うリボルビング融資枠の3つの融資で全体の融資スキームを組成することは一般的であり、今回も典型的なパターンと思われます。

一方で、今回のファシリティ契約の財務制限条項(以下、コベナンツ)が開示されていることは割と珍しいかもしれません。

業績、決算期ごとにこの財務制限条項の数値が変わっていくわけですが、直近のコベナンツでは、

1.IFRSに基づく各四半期毎のデット・サービス・カバレッジ・レシオ(Debt Service Coverage Ratio / DSCR = 直前12ヶ月の連結フリーキャッシュフロー ÷ 「連結金融費用+(直前12ヶ月の元利金支払総額(除リボルビングファシリティ返済額))」が、1.05を超えないこと

2.各連結事業年度の連結資本的支出が130億円を超えないこと

と記載されています。

DSCRは各銀行融資部のカルチャーにもよるのでしょうが、某メガバンクのシンジケートローン組成時のメインの返済指標となっており、極めて重要な指標です。従来ではこのDSCRは1.0~1.25が許容範囲内とされているので、1.05は割と緩い方なのかもしれません。資本的支出はそのすかいらーくの資産に対する一定の料率の結果なのでしょう。

そして、このコベナンツが上場承認と同時に、以下の様に変更されました。

1.IFRSにて、2連結会計年度連続で連結税引前利益(EBIT)をマイナスにしないこと

2.各会計年度末の連結純資産を直前会計年度末の75%以上とすること

おそらく上場するにあたり、キャッシュフローではなく、利益、資産を見ていくということなのでしょうね。

【バリュエーション】

・バリュエーションは可もなく不可もなく

それでは、バリュエーションを見てみましょう。今季業績見込みは売上高3,378億円(前期比101.6%)、営業利益208億円(同92.5%)、IFRSのため、日本基準に引き直した調整後当期純利益は129億円(同127.7%)です。公募を含む発行済194,208,700株でEPSは66円48銭となり、想定発行価格は1,450円なので、予想PERは21.8倍となります。

この水準をどう考えるか。

ファミリーレストラン専業業態のサイゼリヤの予想PERは28.6倍、ロイヤルHDは同38.7倍と比較し劣後しています。すかいらーくは以前上場しており、業績開示されているため、今回IPOディスカウントはなく、想定発行価格の1,450円はフェアバリューとの認識です。

参考までに企業価値(EV)/EVITDAマルチプルを見てみると、すかいらーくの企業価値は株式時価総額2,816億円+有利子負債1,532億円-現金155億円= 4,193億円となり、予想調整後EBITDA 413億円で割ると10.2倍となります。サイゼリヤ5.1倍、ロイヤルHDは9.9倍であり、一定の評価は受けていそうな感じですかね。

参考までにファーストフード業態の日本マクドナルドHDは予想PERで56.8倍、予想EV/EBITDA倍率で13.1倍、ゼンショーHDは予想PER開示しておらず、予想EV/EVITDA倍率は9.6倍でした。

※企業価値=時価総額+(有利子負債-現預金及び同等物-短期性有価証券)+少数株主持分で計算

また、ファイナンスの規模を測る指標として、オファリングレシオ(Offering Ratio)があります。計算は簡単で(公募株+売出し株)/ 本件公募含む発行済株式総数)。要は発行済み株式数のどの位を株式市場に放出(公募・売出)すれば、適正に投資家が株を消化できるかという指標のことです。

今回すかいらーくは公募が4,138,000株、売出しが、66,452,600株であり、公募含む発行済株式の194,208,700株なので、オファリングレシオは36.3%になります。

ここはバリュエーションとは直接関係ない部分ですが、IPOを成功させるために極めて重要なファクターとなっており、この適正レンジはIPOの場合、従来は20%プラスマイナス5%が良いディールだといわれていました。ただしリーマンショック後は、徐々にオファリングレシオが大きくなる傾向にあり、2011年以降はオファリングレシオが30%以上の案件の件数が一番大きくなっています。

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極端に案件が細る中、主幹事証券としても、少しでも手数料収益を稼ぎたいという気持ちが働いているのと、昨年来マーケット環境が好転している中で、アグレッシブに案件をこなして行きたいとの思いがあるのかもしれません。

そういった意味では、今回の規模は従来ではかなり流動性が高く、消化率が不安な規模ではあったのですが、最近のケースでは適正規模なのかもしれません。一方でファンドのエグジット目的を中心としているため、ジャパンディスプレイが大きく公募割れしたり、西武鉄道が公開価格を大きく引き下げる等、いろいろとすんなりとは行かない気もします。

【果たして本来のMBOの成功例と言えるのか】

・MBO以降、ここまでの明確なサクセスストーリーは見えない、と言うのが正直な感想

ベインキャピタルは2011年の買収時に企業価値(負債込み)で2,600億円で買収しており、おそらく今のシニアファシリティと同額の1,700億円程度のレバレッジを効かせていたとすると、ベインキャピタルの直接投資額は900億円になり、それが3年後に株式価値で2,800億円になるわけですから、投資リターンはIRR75%になるので、ベイン側からすれば、それはもう大成功なのかもしれません。一方ですかいらーくはNPFがMBOした時の買取時価総額2,700億円とほぼ同額で再上場することになります。

また、MBOする直前のすかいらーくは2005年12月の売上高3,793億円、営業利益は日本基準で185億円であり、当時ののれん13億円を償却しなければ198億円であり、実は前期、今期の業績予想と比べて、それほど変わりません。しかも今よりも負債は600億円少ない。EPSも調整後EPSと比較すれば、ようやく2005年を上回る水準となるレベルです。

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ベインはNPFから東日本大震災を挟んで買収した結果、かなり安く買うことができ、かつアベノミクスによるマーケット回復と会計処理の変更により、売却する絶好のタイミングが来たとの理解なのでしょう。

個人的には、本来であれば、もっと中からの改善効果なり、ヒットメニュー、ブランドなりが、見える形で再上場して欲しかったと思うわけですが、ファンド自体もビジネスなので、なかなかそうも行かないのが悩ましいところです。再上場後のすかいらーくの躍進を期待したいと思います。

(2014年9月1日「Hiroの『グローバルで負けないリスクテイク出来る日本へ』」より転載)

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