辺野古移設の本格着工と岐路に立つ翁長知事

保守の復活というべき状況は、辺野古移設に反対する翁長知事や「オール沖縄」の陣営内部に生じている軋轢と表裏の関係にある。

ジュンク堂書店那覇店の売れ筋ランキング(4月3日~5月1日)で、『沖縄を売った男』(竹中明洋著、扶桑社)が5週連続1位となった。

この本は、「沖縄を売った」として痛烈な批判を浴びた仲井眞前知事が、実は沖縄のためにいかに苦闘したかを著しており、仲井眞氏を批判したものではない。

また、仲井眞前知事を支えた5人の元沖縄県庁幹部が共同執筆した『沖縄問題』(高良倉吉編著、中公新書)も1月下旬から2月にかけて同じランキングで4週連続1位となっている。

上記の売れ筋ランキングから読み取れることは、辺野古問題で、本土政府を糾弾し続ける翁長氏や「オール沖縄」への期待がしぼみ、よりリアリズムに立脚した政策を模索する機運が生まれつつあることである。

その兆しは県内の首長選挙にも表れている。4月23日に投開票されたうるま市の市長選挙で、「オール沖縄」候補が大敗し、1月の宮古島、2月の浦添に続く市長選3連敗を喫したのだ。

この保守の復活というべき状況は、辺野古移設に反対する翁長知事や「オール沖縄」の陣営内部に生じている軋轢と表裏の関係にある

4月25日、政府は辺野古埋め立てに直接つながる護岸(堤防)工事を開始し、翁長知事は工事を阻止すべく、工事差し止め訴訟、その裁判中の工事停止の仮処分申し立て、さらには埋め立て承認の撤回などを検討している。

だが、辺野古訴訟で、昨年11月、最高裁は辺野古埋め立ての合法性だけでなく、外交・安全保障の観点からも辺野古移設の必要性を認める判決を下した。

その結果、法律上、圧倒的に不利な状況に置かれている翁長知事は、行政の長という立場から、抵抗手段の乱発は避け、法的妥当性と効果を慎重に見極めながら方針を打ち出したいところだ

だが、工事の進行を目のあたりにしている「オール沖縄」の革新系有識者や活動家たちには、翁長知事の慎重さは、辺野古問題への取り組みの消極さと映る。焦りと苛立ちが渦巻き、翁長知事を激しく突き上げ、断固たる行動を迫っている

方針をめぐる齟齬は知事の側近グループと革新系のグループの間で起きているだけではない。

革新系グループ内ですら、埋め立て承認の撤回や県民投票、知事選の前倒しなど、方針の内容やタイミングについて異なる意見が噴出し、感情的な非難合戦の様相を呈している

知事を含む「オール沖縄」内の具体的な戦略が定まらず、「身内」の論争が表面化することで、陣営内の足並みの乱れは隠しようもない。

同じ「オール沖縄」陣営にあっても、保守系や経済人の中には、革新系とは一線を画そうとする動きも見られる。国と沖縄県の対立が沖縄振興予算に悪影響を及ぼし、沖縄経済を停滞させかねないと危惧するからである

現実に、優遇税制の期間短縮や一括交付金と呼ばれる沖縄に配慮した予算の減額など、国は沖縄県に対し厳しい姿勢を見せており、沖縄経済界や自治体関係者の多くは不安に駆られている。

報道の扱いは小さかったが、3月末に鶴保庸介沖縄担当大臣の沖縄後援会が発足した折、その背景をめぐってさまざまな憶測が流れた。

鶴保大臣を囲む後援会設立総会に、「オール沖縄」を支持してきた有力者などが多数参加したからである。

国と対立する翁長氏には頼らず、政府幹部とのパイプを直接築きたいという経済界の思惑が透けて見えた。

経済界からの不安に応じるかのように、知事の姿勢に変化が見える。3~4月に行われた県幹部の人事異動では、「基地問題」より、「経済・振興」を優先させた

安慶田副知事のスキャンダル辞任を受けて新しく副知事に就任したのは経済学者の富川盛武氏である。

基地問題も併せて担当することになっているが、彼の主な関心は経済にある。経済界の要望に配慮した人事と言えるが、辺野古反対運動の中核を占める革新系の人々からは、知事の本気度を疑問視する声も出ている。

知事としては、「民意」を代表する政治家として辺野古反対派の士気を維持する必要があり、公約のトップに掲げた「辺野古阻止」の旗を降ろすわけにはいかない。

同時に、行政の長という立場からは経済界や県民の生活改善の要望に応える責務も負う。

基地問題と行政、両面でバランスを取りながら明確な戦略が打ち出せるかどうか、翁長氏と陣営の政治的スタミナと知恵が試されている。

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