辺野古訴訟~和解の落とし穴~

和解の内容は、県にとって決して楽観視できるものではない。

3月4日、辺野古埋め立ての承認の取り消しをめぐる裁判で、和解が成立した。

この和解は、1月29日の福岡高裁那覇支部で行われた同裁判の第3回弁論後に、

多見谷寿郎裁判長が勧告していたものである。

沖縄県が公開した「和解勧告」は、国の姿勢を厳しく批判し

「沖縄を含めてオールジャパンで最善の解決を合意して、米国に協力を求めるべきである」と述べていた。

さらに、設計変更などをめぐる様々な手続き問題が国と県の間に生じ、

「延々と法廷闘争が続くことが予想され(中略)知事の広範な裁量が認められて(国が)敗訴するリスクは高い」と指摘していた。

国の強硬で乱暴な手法を批判し、

丁寧な協議と段階を踏んだ訴訟へと進むことを提案したものと言える。

そのため、今回の和解成立によって、県の立場が強化されたと受け取る人が多い

だが、和解の内容は、県にとって決して楽観視できるものではない

双方が合意した「和解条項9」には、

最終的な訴訟で「判決確定後は、直ちに、同判決に従い、同主文およびそれを導く理由の趣旨に沿った手続きを実施するとともに、その後も同趣旨に従って(中略)誠実に対応することを相互に確約する

とある。

承認取り消し問題で、一連の協議や手続きを経て訴訟に至り、県が敗訴した場合には、

判決に従うだけでなく、その後もその趣旨に従って対応しなければならないのである。

翁長知事らは、和解協議後に予想される訴訟で敗訴しても、

様々な抵抗手段を使って辺野古移設を阻止するとしている。

だが、記者会見では、「判決の趣旨に従いつつ」国に抵抗することの矛盾を突いた記者もいた。

「和解条項」を素直に読めば、

敗訴すれば県は抵抗手段の大半を失いかねないような「言質を取られた」と言える。

国は「承認取り消し」を取り消すことさえできれば、

「埋め立ての正当性が得られた」「埋め立て工事への県の抵抗は違法である」と主張するであろう。

県が埋め立て承認をめぐる訴訟で勝訴するチャンスはあるのだろうか。

今後の協議から訴訟に至る過程で、

翁長知事サイドは「承認手続きに瑕疵があった」ことを証明しなければならない。

しかし、手続きの瑕疵を証明するのは難しいと見る見解が多い。

この裁判は、手続きの問題を争点にしてきたが、

「普天間基地の辺野古移設」の根本問題は、辺野古移設が「唯一の選択肢」かどうかである

沖縄県が辺野古移設を止めたければ、

「唯一の選択肢」という国の立場を徹底して論破しなければならない。

だが、翁長陣営は、辺野古移設が「唯一の選択肢」という国の主張を根底からくつがえす意思と論理を持ち合わせていない

県職員の中には、基地問題に精通した人材が少なくないと言われるが、

「政治主導」の翁長知事体制では、彼らの知見と経験は活かされていないようだ。

まるで、官僚全体を活用せず、独り相撲を演じて自滅した民主党政権のように。

国は「唯一の選択肢」を強調するが、その具体的根拠は示していない。

多見谷裁判長は、和解勧告の「オールジャパンで最善の解決を合意して、米国に協力を求めるべき」という一節に、

「唯一の選択肢」かどうかを再検討したらどうか、という提案を込めたとも解釈できる。

だが、県は、大きなチャンスを逃しつつあるようだ。

今後、協議から最終的な判決に至るまで、1年程度の時間が必要と見られる。

その間、工事は停止しているので、

たとえ国が勝訴し、埋め立て承認が適法とされても、

辺野古に新施設が建設され、普天間基地が返還される時期は遅れることになる。

だが、国にとっては、それは単なる「遅れ」に過ぎず、

辺野古移設への道筋がつけられれば良い。

安倍政権は、辺野古訴訟で和解に合意してソフト路線に転換したかのようなイメージを作り出した。

それを梃に、6月の沖縄県議会選挙、7月の参議院選挙で自民系が勝利すれば、

民意を背景にした「オール沖縄」の基盤は一気に弱体化する。

最終的に想定される訴訟で国が勝訴すれば、翁長体制はとどめを刺される

追い詰められた翁長知事はどのような作戦をくり出すのであろうか。

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