翁長知事を悩ます棘~沖縄北部・高江ヘリパッド問題~

政府は沖縄県に対する圧力を強化している3つの新しい事態とは...

9月から10月にかけて、「沖縄基地問題」は新しい局面を迎えている。同時進行する3つの事態がその局面を作り出した。

第一に挙げられるのは、9月16日の辺野古をめぐる訴訟で高裁が国勝訴の判決を言い渡したことである。第二は、自民党の二階新幹事長が沖縄を訪問し、政府、特に菅官房長官とは異なる、党独自のイニシアティブを取り始めたことだ。第三に、沖縄本島北部に位置する広大な米海兵隊北部訓練場の半分の年内返還の方針を、政府が打ち出したことが挙げられる。この3つの新しい事態を通して、政府は沖縄県に対する圧力を強化している。

この記事では、北部訓練場の返還問題とそれに伴う東村高江集落周辺でのヘリコプター着陸帯(通称ヘリパッド)建設問題に焦点を当てる。

10月8日、沖縄を訪問した菅官房長官は、北部演習場の約半分の年内返還を米国政府と交渉すると語り、翁長知事が「歓迎」の意を表した

返還面積が大きく、在沖縄米軍基地の約20%を占めるほどである。そのため、肯定的に受け止める沖縄県民は多い。菅長官の発言を「歓迎」したのは、翁長知事にとっては当然のことであった。

だが、基地負担の軽減の一環である北部訓練場縮小は、同時に基地機能の整理統合を伴う。具体的には、政府は、返還予定地域に存在する7か所のヘリバッドを閉鎖し、返還されない訓練場地域内の6か所に代替施設を建設する。

ところが、代替ヘリパッドが約150人の住む高江集落周辺に集中することから、騒音などを懸念する地元の住民が当初工事に反対した。高江で工事関係者や警察と反対派グループの衝突する映像がさまざまな形で拡散され、県内各地や本土、さらには外国からも抗議活動に参加する人が増える事態になっている。

高江集落周辺では、工事関連車両の通行を阻止するため、基地反対グループが大量の車両を駐車させたり、通行車両の検問を行なったりしてきた。

数百人にのぼる機動隊が抗議グループを排除しようとして激しい衝突が起きているが、結果として、高江集落の住民の生活に支障が出て、地元住民と抗議グループとが対立する状況が生まれ、問題は複雑になっている

北部訓練場の部分返還と高江でのヘリパッド移設工事の問題は、もともと基地反対派「オール沖縄」の急所であった

陣営内には、返還を評価し歓迎する人たちがいる一方で、高江周辺に移設が集中することに反対する人々がいる。さらに、「ヘリパッド」と言いつつ、使用する航空機はヘリコプターよりもオスプレイ(注)が中心となることを懸念し、移設工事に反対する人も少なくない。沖縄では、近年連続して事故を起こしたオスプレイに対する反発は根強く、「オスプレイ」と聞いただけで拒否反応を示す人もいる。

(注:オスプレイはプロペラの角度を変えられる新型輸送機であり、ヘリコプターのように垂直に離着陸でき、普通の固定翼飛行機のように長距離を高速で飛ぶことができる)

2年前の知事選で、「辺野古阻止」とともに「オスプレイ配備撤回」を公約に掲げて当選した翁長氏は、この問題に対する態度を曖昧にしてきた。北部訓練場の部分返還の交渉が発表された直後の記者会見で、記者に「歓迎」発言を追及された知事の回答は煮え切らないものであった。

「オール沖縄」のリーダーたちの多くは、違法行為も辞さないほど激しい高江での工事阻止活動に眉をひそめつつ、できるだけこの問題に関わりたくないようだ。基地の一部返還は歓迎すべきではあるが、強く反発する活動家などを抱える陣営全体を、代替ヘリパッド建設も含めた返還「歓迎」で一本化することは困難だからである

案の定、10月11日夕刻には、翁長知事は記者団にこの返還を「歓迎」したのは「基本的に不適切であった」と述べ、発言を修正した。明らかに、ヘリパッド建設に強く反対する革新系に配慮せざるを得なかったのである。

だが、北部訓練場の部分返還は代替ヘリパッド建設が条件となっており、「同訓練場の返還は歓迎するが、代替ヘリパッド建設を歓迎しているわけではない」という知事の発言は苦し紛れのものであった。

実は、この翁長氏が抱える矛盾は、保革相乗りの「オール沖縄」が内部対立を起こしかねない問題について「あいまい戦略」をとってきたことに由来する。方針選択を迫られる厳しい局面を迎えたとき、陣営内の立場の違いが浮き彫りになる宿命を背負っている

革新系が高江周辺でのヘリパッド建設に反対して知事を突き上げ、翁長氏の発言がぶれるたびに、知事の求心力は弱まり、「オール沖縄」全体のパワーダウンをもたらすであろう。かと言って、オスプレイの運用が前提となる高江ヘリパッド建設を明確に容認すれば、翁長知事自身が掲げてきたオスプレイ配備撤回の方針が崩れる。

内心では訓練場の部分返還を歓迎し、高江のヘリパッド建設を容認しつつ、表向きには工事強行に懸念を表明し続ける演技を続ける。そして、ヘリパッド建設の実質的容認の代償として北部振興予算を獲得することで、県民を納得させる以外に道はないのかもしれない。

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