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「冷凍マグロ丼」「炊きたて風ご飯」で食欲がそそられますか ~相次ぐ飲食店の偽装表示メニューに思う

2013年11月30日 23時20分 JST | 更新 2014年01月30日 19時12分 JST

阪急阪神グループの高級ホテルなどに端を発したメニュー偽装表示問題が大きな問題になっています。当事者の発表では、食のプロが自らの無知さを認めるような「誤表示」などと言っていますが、そんなことはあり得ないでしょう。私は、事実をわかった上で"よく見せよう"とした偽装表示だと考えます。

 

偽装表示が行われた外食店のほとんどが高額な食材を安価なもので代替していました。私は仕事柄、外食の機会が多いのですが、確かに、「~産」「~直送」「無農薬」等と記載されたメニューを発見すると、つい注文したくなります。メニューはお店の重要なセールスポイントであり、最近では、メニュー名を考えるメニューデザイナーが存在するくらいです。客側にとっても注文決定時の大きな要素であり、客と店の"契約"内容と言えるほど重要な内容だと私は捉えています。

飲食店の食材表示やメニューを規制する公的なルールは事実上、存在しません。日本農林規格(JAS)法による表示基準では産地や種別を偽るといったことを禁じる規定がありますが、対象となるのは容器包装された製品だけで、飲食店のメニュー表示は対象外となっているのが現状です。

 

そこで、今回の騒動を受けて「消費者庁が食品表示法に外食店のメニュー表示規制を盛り込む方向で検討している」とも報じられています。

 

また、今月行われた読売新聞の世論調査では「外食のメニューについても、法律で表示のルールを定めるべきだと思いますか、そうは思いませんか」との質問がありましたが、結果は「定めるべきだ76%」「そうは思わない18%」「回答なし6%」との結果となっていました。

 

私は政府による規制強化の検討にも、この世論調査の結果にも違和感を覚えます。

もちろん、産地や種別を偽装するような行為は許されることではありません。今回発覚した事例は「バナメイエビ」を使ったメニューを「芝エビ」と表記したり、外国産牛肉を「国産牛」と表示していたというものです。国産だと信じて高い料金を払っていた客にとって明らかな裏切り行為ですが、命が危険にさらされたわけではありません。アレルギー食材等の表示は健康被害(時に死に至ることも)を防ぐために必要ですが、健康被害と関係のない産地などまで法律で細かに規制しなければならないのかは疑問です。

 

私の見解は、飲食店のメニューに対して法規制は不必要だということです。先に述べたように、メニューは顧客にとって、注文決定時の要因の一つでありつつ、その一方で楽しみでもあります。少し極端な例ですが、不当表示を撲滅するために規制をかけ、「鶏の唐揚げ」、「オムレツ」、「焼きそば」等という退屈な料理名だけになってしまえば、外食メニューは食欲もそそられない味気ないものになってしまいます。

「若鳥のから揚げ」とか「比内地鶏のから揚げ」と表示する以上は、店側はその信頼に答える必要があるわけです。表示方法を法律で規制したとても、本当に比内地鶏なのかどうかをいちいちチェックする検査官を全国の飲食店に巡回させるわけにはいかないわけで、必ず法の網目をくぐろうとする業者は出ます。本物かどうか、価値あるものかどうかを消費者が見極める目を持たなければならないし、嘘の表示を続けていれば、その経営体質は従業員や納品業者から世間に伝わっていきます。

受け取り方次第ですが、外食産業には"正確ではないメニュー"が溢れているのかもしれません。例えば、「アツアツの炊きたてご飯」。客には保温されたアツアツ状態で提供されますが、炊きたてかどうかは判別できません。炊けてから何時間までが「炊きたて」なのかという定義などしようがないでしょう。

 

「鮮魚」はどうでしょうか。その日獲ったのが鮮魚か、前の晩に獲っても市場に上がってきたのが朝ならば鮮魚か、さっきまで水槽で泳いでいたのが鮮魚か、冷蔵庫で2日経っていても冷凍でなければ鮮魚か、などなど。

 

私自身は、安い居酒屋で飲んでいる時のつまみが、生のマグロか冷凍のマグロかはまったく気にしていません。今回の問題の本質は、人生の晴れの日に利用するような高い料金設定をしている"一流"と言われるホテルが嘘の表示をしていたことではないでしょうか。それら嘘の表示をしているようなホテルや高級レストランには、浮ついた"一流"評価から転落してもらうだけの話です。逆に、安くて旨いつまみを出してくれる居酒屋は私にとって別の意味で一流です。

 

商売とは経営者と客との信頼関係の上に成り立つものです。以前、お世話になったある経営者から「『儲ける』という字は信じる者と書く」と教わりました。信頼を構築して、商品やサービスの信者になってもらった結果が「儲け」なのだという教訓です。正しい食材名を表示し、客の信頼を獲得する商売が恒常的な利益につながります。客を欺いて利益を得ようとしても、いつまでも通用するはずはありません。

観光地にあるような"龍馬が愛したコロッケ""に「そんなはずはない」とクレームをつけ、居酒屋の"やみつきキャベツ"という表示に「違法だ」と騒ぎ、"安倍さんが丹精込めて栽培したトマト"に「丹精の意味を説明しろ」と問い詰めるような馬鹿げた社会にしたくありません。

 

ナポリ発祥じゃなくてもスパゲティー"ナポリタン"はあってもいいし、想像力を掻き立てながら「シェフのきまぐれパスタ」を待つのもよし。それは、信頼があるからこそ成り立つのであり、この機会に改めて飲食店経営者にはまっとうな商売を実践して欲しいと思います。

 

食材にもメニューにも正直さと創意工夫が込められた美味しい料理を心から楽しみにしいています。

(この記事は、11月29日の「中田宏のオピニオン」に掲載された記事の転載です)

「世界に衝撃を与えた食品関連のスキャンダル」