自助努力や創意工夫を国民に促す政治であるか否か。自助努力や創意工夫を怠った場合、国全体が衰退への道を歩むことになるのは歴史を見れば一目瞭然です。

アベノミクスの3本目の矢、いわゆる成長戦略の中のひとつに、農産品の輸出促進が掲げられています。現在約4500億円の農産品輸出額を、2020年に1兆円に伸ばすというものです。日本の2009年度の総輸出額は約54兆円ですので、全体からみればまだまだ少ない数字ですが、それだけに伸ばす余地がたくさんあるということです。

TPP(環太平洋経済連携協定)への交渉参加が決まったことで、日本の農業の未来を危惧する声も少なくありませんが、TPPに参加するか否かにかかわらず、現在の日本の農業が抜本的な改革を必要としていることは明白です。

現在、農業の担い手は平均年齢66歳以上。その多くは後継ぎがいないと言われているので、このまま推移すれば平均年齢はますます上がることになります。また、耕作放棄地は埼玉県とほぼ同じ約40万ヘクタールもあります。

一方で、農業に新規参入したいと思っても、分厚い壁が立ちはだかっています。「農地法」がそれで、団体が農地を所有する場合、農業生産法人の設立が義務づけられています。それを満たす要件は、役員の過半数が原則として農業に年150日以上従事することと、議決権株式の4分の3以上を農業関係者が持つこと。あまりに高いハードルだと言わざるをえません。従来の家族経営を脅かさないための法律だと思いますが、それが日本の農業全体の活力を殺いでいることは明らかです。

農業の自由化に際し、農業関係者から聞こえてくる言葉は悲観的なものばかりですが、果たしてそうでしょうか。

すでに自由競争を余儀なくされた農産品目が、その後、自助努力によって競争力をつけたという事実を見逃してはいけません。

たとえば、牛肉やオレンジなどです。牛肉は1991年に自由化されましたが、国内生産量はほぼ50万トン台をキープしています。また、安価なオレンジが輸入されたことによって日本のミカンが壊滅的な打撃を受けたということもありません。自由化以前の議論では、外国産のものが入ってきたら日本産の牛肉やみかんは壊滅すると大騒ぎしていました。

他にも、サクランボは今や高級品となっていますが、これは自由化を受けて創意工夫をした結果なのです。

それまでのバラマキによる保護だけでは、決してそのような結果は生まれなかったでしょう。

農業生産法人「新鮮組」の代表である岡本重明さんは、愛知県田原市で農業ビジネスを営んでいますが、岡本氏の試みは日本の農業に希望を与えてくれていると思います。彼は『田中八策』という本も書かれています(タナカハッサクではなく、デンチュウハッサクと読みます)。「補助金に頼らずとも安定経営ができる農業」を標榜し、30年以上も農協と闘っています。日本の農業は世界で勝てるという信念のもと、タイや中国でコメやレタスを生産し、農協を通さずに世界に輸出しています。

その岡本氏が、「政府は補助金を出すだけで農家に自助努力させることをしなかった。農家も、お金をくれる議員を国会に送り込んできた。その結果、日本の農業は衰退した」と明言しています。

農業に限らず、ここぞと覚悟を決めたときの日本人の底力は並ではありません。戦後復興や震災後の復興を見ても、明らかでしょう。

要は、自助努力や創意工夫を国民に促す政治であるか否か。自助努力や創意工夫を怠った場合、国全体が衰退への道を歩むことになるのは歴史を見れば一目瞭然です。

(この記事は「中田宏のオピニオン」より転載しました。)

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