デフレ脱却どころか、物価が下がりはじめているかもしれない

今年はアベノミクスが、アベノジレンマに変わる一年になりそうだと1月に書いたのですが、肝心の「デフレ脱却」がどうも怪しくなってきています。

今年はアベノミクスが、アベノジレンマに変わる一年になりそうだと1月に書いたのですが、肝心の「デフレ脱却」がどうも怪しくなってきています。円安で輸入物価があがったために消費者物価も上昇する局面もあったのですが、4月の消費税アップ後の需要低迷を受けて、再び消費者物価が下落し始めているかもしれないのです。

総務省データでは、生鮮食料品を除く総合指数で、5月3.4%、6月3.3%、7月3.3%、8月3.1%とプラスが続いていますが、日銀の試算によると消費税アップによる押し上げ分が2.0%なので、5月以降は1.4%~1.1%を推移してきたことになります。目標にはまだ遠いとしても、デフレからは脱却しつつあるかのように見えます。

しかし、東大日次物価指数で見るとまた異なる風景が見えてきます。東大日次物価指数はスーパーの日用品や食料品のPOSデータから統計をとっているので、比較はできないとしても最新のトレンドを見ることはできます。その東大日次物価指数では、消費税増税後の6月後半あたりからマイナスに転じ、直近ではマイナス0.5%前後を推移しはじめてきているのです。しかも、価格があがっている品目を見ると、卵や牛乳、乳製品などの畜産品が目立ちますが、こちらは輸入飼料の値上がりによるものでしょう。

そういった品目以外は、おそらく、商品が売れないために特売が増え、物価を押し下げ始めているのだと思われます。デフレ脱却の正体見たり枯れ尾花で、結局は円安で高騰した輸入物価で見せかけの物価上昇があっただけという疑いがいよいよ色濃くなってきたようです。

結局は異次元の金融緩和政策も、為替や株価など金融市場は動かせたけれど、市場のメカニズムは変えることができなかったのです。消費が伸びず、売れなければ供給過剰となり、価格は下落するというあたりまえの話です。

原油価格が下落したにもかかわらず、高値を維持していたガソリン価格も、ついに我慢できなくなったのか、価格が下落し始めています。

円安で輸出が増えるという珍説には目が点になってしまったのですが、いや世の中は想定外のマジックがあるかもしれないと推移を見ていたところ、やはり輸出は伸びなかったのです。

所得が伸びる、また新たな需要を生み出す製品やサービスが増えて、消費が伸びない限り、物価は停滞するか、下落するのが自然です。それは誰にもわかることです。

アベノミクスってなんだったんだろうと感じさせることが相次いでいるわけですが、やはり需要を支えるためには、所得を伸ばすか、新しい需要を創造する産業を育てていくしかありません。

そうなると日本の産業の生産性を上げ、新しい需要創造に向けたチャレンジが活発になっていくことが、日本にとってはもっとも重要課題で、成長戦略に集中的に取り組むことになってきます。

物価をターゲットにするというのは、無理があり、時間はかかっても成長戦略をめぐって与野党間で激闘し、知恵比べをやって見てはどうかと思います。

長いデフレ時代にも日本経済は停滞こそすれ、破綻はしなかったわけで、インフレが起こらなくとも、いまさらジタバタするよりは、やるべきことをやれば、まだまだ日本にも成長の機会はあるはずです。

(2014年10月7日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)

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