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「脱EU」が「脱英国」を引き起こす

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理性で考えれば英国がユーロから離脱することは英国経済の衰退リスクが高まるとしても、高齢者の郷愁、移民から職を奪われる恐怖、EU官僚とくにドイツが主導するさまざまなEUの政策や規制が英国の国民主権を脅かしていることへの不満などで、英国はBREXIT(EU離脱)を選択しました。しかし、それは同時に、新たなBREXITのはじまりを意味します。

それは海外企業の「英国離れ」であり、海外企業の「資本逃避」が起こってくるのではないでしょうか。おそらく、EU離脱に票を投じた人々が感情の高ぶりのなかで、そのリスクを忘れていたのではないかと思われます。

英国がいくら交渉しようとしても、EU側が交渉に乗るとは思えません。もし英国に譲歩すればEUの総崩れになりかねません。つまり、2年先には、英国からの対EU輸出には関税がかかってきます。つまり対EUへの輸出拠点、EUの入り口としてのポジションを失うのです。

報道などでは、英語が使えるために日本企業の多くが英国にEU拠点をおいており、英国のEU離脱は日本にとっても打撃だと伝えているところがありますが、日本が被る損失はさほど大きくないと考えられます。

たとえば自動車産業では、トヨタ、日産、ホンダのいずれもが英国に製造拠点を持っています。しかし、EU圏での拠点はなにも英国だけではありません。たとえばトヨタのヨーロッパでの2015年の生産実績では、トップは英国ではなくフランスです。

フランスが22万8千台、チェコが21万9千台、英国は19万台で第三位です。EU向けに関税がかかれば、英国は英国向けだけの生産に限られてくるので、工場は縮小されていくのでしょう。

では日本からの投資先としての英国はどうでしょうか。

2015年の投資先として、地域的にはトップは北米で、アジアと欧州が続きます。欧州の主要国の日本からの直接投資残高で見ると、確かに英国は伸びていましたが英国よりも多いのはオランダです。

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英国への直接投資残高は対EUのおよそ3割を占め多いようですが、対世界で見れば7%に過ぎず、それで日本経済が揺らぐとはとうてい思えません。

それよりも大変なのは英国です。なにも投資しているのは日本だけではありません。英国は世界から投資を吸収して成り立っている国です。英国は米国についで直接投資残高が多いのです。だからロンドンが世界の金融センターのポジションを得ています。

もし英国から投資が逃避しはじめたら、英国はたんなるヨーロッパの片隅の成熟した小さな国になってしまいかねないのです。

さて英国は国民主権を民主主義の手続きによって取り戻しました。確かにEUにいることは「ドイツ帝国」の属国として甘んじていると感じていた人が多かったのかもしれません。

小林よしのりさんがおっしゃるように、EU離脱は再び国民主権を取り戻し、独立を勝ち取ったということになります。しかし「ドイツの属国になれば、奴隷の平和が保てるが、独立すれば、厳しい現実にしばらく耐えねばならない」のです。

おそらく英国はそもそもが海洋国家で、大陸のEUに加盟することのほうが不自然でした。英国はアジアを含めた新たな経済圏形成にむけて舵を切ることになるのかもしれませんが、そういった大きな舵取りができるリーダーが果たして登場してくるのかどうかに、英国の将来はかかっているのではないでしょうか。

(2016年6月29日「大西宏のマーケティング・エッセンス」より転載)