Google検索に見る「アベノミクス」

安倍内閣には、法律で決められた消費税増税を実施し、景気対策を行わないことしか選択肢はないはずですが、それは激しい党内や官僚からの抵抗が待っています。この局面を乗り切るリーダーシップが発揮できるかどうかの正念場が安倍内閣には、じわじわと迫ってきている来ているのではないでしょうか。

先日、モルガン・スタンレーMUFG証券の北野一さんが面白いことをおっしゃっていました。アベノミスクという大号令で円安、株高、景気回復が起こったのか、行き過ぎた円高、安すぎた株価を市場が修正しようと動き始め、また景気の回復が始まろうとした瞬間に、アベノミクスという大号令がかかったのか冷静に見てみないといけないということでした。

しかし、どちらにせよ現実にはアベノミクスは世の中のマインドを変えたことには間違いないと思います。アベノミクスによる異次元の金融緩和で世界のマネーが日本株買いに走り株価を大きく押し上げたことも事実でしょう。それによって高級品を中心に消費マインドもかなり改善されました。おそらく経営マインドにも好影響がでたと思います。

その後に為替も株価も一進一退を繰り返し膠着状態に入ってきています。デフレ退治の効果ですが、生鮮食品を除いた総合で前の年に比べて0.7%上昇し2ヵ月連続のプラスとなりました。

しかし、中味を見ると、アベノミクスの効果で、デフレから脱却しはじめたということをおっしゃる人もいますが、ほとんどが電気料金の値上げやガソリン価格の高騰によるものです。

エネルギーや食料(酒類を除く)を除いた消費者物価(コアコア指数)はマイナス幅は縮小されてきているとはいえまだマイナス状態です。

ビジネスの現場の人たちの実感としては、電気料金などのエネルギー、原材料、物流コストがあがったけれどなかなか価格に転嫁できず厳しい状態が続いているという感じではないでしょうか。 7月の国内企業物価指数は102.1となり前年比でプラス2.2%でした。企業物価はあがったけれどそれにみあって消費者物価があがってきていません。価格の転嫁ができていないのです。

異次元の金融緩和でデフレ脱却というシナリオも、まだまだ効果はこれから出てくるという説もありますが、現実はそれほど楽観視出来る状態ではないように感じます。やはり民間努力によって経済が自律的に回復することしか正解はないのではないでしょうか。

製造業以外の設備投資がようやく伸び始めたことなど明るい材料もあって、徐々に経済が立ち直りつつあることは喜ばしいことです。 ただアベノミクス効果が一般には波及してこず、むしろ電気代、ガソリン代、また食料品価格が高騰し始めたことで、世の中には、アベノミクスがいったいなにだったのかという疑問も生まれてきているように感じます。

ちょっと変化球になりますが、アベノミクスがどれだけ関心を呼んだかをGoogleの検索数で見てみることにします。

7月に発表されたGoogleの2013年1月1日から6月30日までの間の検索ワードでの「急上昇ワード」のランキングのトップは「アベノミクス」でした。それだけ関心と期待を喚起したのしょう。人々のマインドを変えるマジックとしての効果は十分にあったことがうかがえます。 ではその経過をニュース検索で見てみましょう。今年2月初めまで、「アベノミクス」は検索ワードの人気度で急上昇していました。一旦落ちるのですが、また6月上旬にかけて上昇しています。ところがその後の急落ぶりが目立ちます。

ちなみに日経でタイトルと本文に「アベノミクス」を含む記事を検索してみましたが、やはり6月がピークで196本、それが7月には175本に減り、直近の8月は103本となって日経で取り上げられることも減ってきています。

6月中にいったいなにが起こったのでしょうか。振り返ってみてください。6月14日にアベノミクス3本目の矢である成長戦略『日本再興戦略』を閣議決定されています。 ほんとうなら、ここでさらにアベノミクスの人気度がさらにギアが入ってもよかったはずです。逆でした。失望感が広がったのでしょう。

産業競争力会議の民間議員を務めた楽天の三木谷社長が成長戦略に80点の評価をされたように、なにも打ち出さなかったわけではなく、特区構想などもありました。しかし、先ほどのグーグルのキーワードの人気度の推移から推し測ると、人々が求めていたハードルはもっと高かったのでしょう。 成長戦略にこそ「異次元」を期待していたのではないでしょうか。

サプライズもなく、従来から言われていたことがやっと部分的に採用されたという印象に終わり、新鮮さも感じられず、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」となってしまったのです。その瞬間にアベノミクスのイリュージョンは消えてしまったのでしょう。人によっては、霞ヶ関の高笑いが聞こえてきたかもしれません。

そこに消費税というキーワードを足してみましょう。4月から6月にかけては、「消費税」よりも「アベノミクス」が上回っていたのが、アベノミクスの人気度が落ちるのと交代するように「消費税」が急上昇し、ワニの口のように広がりはじめています。

消費税増税にマスコミも釘付け状態になり始めています。これが曲者です。

金融緩和によってデフレ脱却と日本の景気回復が起こると主張していた人たちが、なかなか効果が目に見えてあわられてこないために、実業の世界ではそれはないだろうという1%ずつの段階的な増税を主張し始めました。湿布はいっぺんに剥がさないと、真綿で首を締められるようになるものです。

それよりも質が悪いのは、それまでなりを潜めていた古い自民党体質の人たちが声高に予算の積み増しを求め始め、また各省庁が青天井の未曾有の予算を組み始めたのです。 安倍内閣はジレンマに陥るのでしょうか。難しい局面を迎えます。

消費税を上げなければ国際的な信用を日本は失います。思い起こしていただきたいのは株高をつくったのは、海外のマネーだったということです。海外のマネーが消費税を上げられない政府の力量を見た時にどうなるかです。

金融緩和で長期金利上昇のリスクを抱えていても、低金利が持続しているのは日本の経済への信頼が主要な要因だと思いますが、それも崩れかねません。「アベノリスク」が一挙に高まってきます。

消費税増税による景気への影響をおそれ、自民党の族議員や省庁の求める大型予算を組めば、それは約束が違うと世論の反発が避けられず、どんなしっぺ返しが返ってくるかわかりません。下手をすると安倍内閣は失速します。

安倍内閣には、法律で決められた消費税増税を実施し、景気対策を行わないことしか選択肢はないはずですが、それは激しい党内や官僚からの抵抗が待っています。この局面を乗り切るリーダーシップが発揮できるかどうかの正念場が安倍内閣には、じわじわと迫ってきている来ているのではないでしょうか。

ドラマ「半沢直樹」ではないですが、安倍内閣がスカっとする決着をつけないと、安倍内閣も賞味期限切れをむかえてしまう、そんな局面が来ているのだと思います。それを最もよくおわかりなのが安倍総理だとは思いますが。

(※この記事は、2013年9月2日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」から転載しました)

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