三菱自動車に潜伏していた地雷

三菱自動車は、今までと違う仕事のしかた、ものごとの決めかたや価値観、つまり異文化を持った人びとを取り入れることが改革の早道です。

三菱自動車が、燃費をよく見せかけるために不正操作を行い、データを改ざんしていたことを発表しました。しかも、不正は日産の指摘で判明したといいます。

2000年に「リコール隠し」が発覚し、またその後、車両の欠陥による事故が相次いで4人が死傷する問題を起こし、企業消滅の危機に襲われた三菱自動車でしたが、ようやく立ち直り始めていたさなか、また再び社内に隠れて残っていた地雷を踏んでしまったのです。

三菱自動車の再建問題が取りざたされていた2004年に、おそらく最も難しい課題は、モラルハザードを起こす企業文化や体質だと書いたことがあります。今回の不正発覚は、その病巣が社内に残っていたことになります。

いくらコンプライアンスだといって組織やルールをつくっても、それだけで企業文化や体質が変わるというものでもありません。



さらに、文化や体質は、そこに欠陥があるといっても、直接的に変えようとしても無駄だと感じます。研修や体質改善運動などから得られる成果は小さく、「喉もと過ぎれば元に戻る」世界です。「食」でいえば、関東でいくら「うすくち醤油」をPRしても無駄というのに近いですね。



会社の文化や体質を変えるためには、業務が変わり、日々の仕事で新しい体験する、そこから学ぶということが絶対条件です。逆ではありません。



文化や体質を変えれば、仕事が変わるという考え方には無理があり幻想にしかすぎません、その逆です。新しい仕事のしかたや新しい体験を通して、文化や体質は変わっていきます。



この点でも、三菱自動車は、今までと違う仕事のしかた、ものごとの決めかたや価値観、つまり異文化を持った人びとを取り入れることが改革の早道です。



そういった、改革の道筋が見えてきたときにはじめて、社会は、ほんとうに「やる気」だという評価をしてくれる筈です。

企業文化や体質が変わっていなかった。だから、おそらく目のまえの業績なり取引をなんとかしたい、不都合な真実が発覚すれば、その責任を負いたくないといったことで不正操作が行われたのでしょう。

「性能実験部」の2007年から2012年当時の部長が指示したということらしいのですが、常識的に考えて、ひとりでできることではなく、すくなくとも関係者は知っていたはずです。

三菱自動車の再建は、三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJの御三家が優先株を引き受けて資金援助し、外部と言っても、やはり同じグループの三菱商事から社長を招聘したのですが、それには身内の限界があったということかもしれません。

記者会見で、語られた相川社長の言葉も、風土や体質といういわば化物と戦うことへの無力感が滲んでいます。残念ながら、リーダーシップを発揮出来なかったということでしょう。

――三菱自動車の体質は何も変わっていない。こういう体質はもう抜けないのでは?



相川:そういう見方があるのは重々承知している。(リコール隠しが発覚した)2000年以降、少しずつ、石垣を積み重ねるように改善をしてきたが、やはり、全社員にコンプライアンス意識を徹底することの難しさを私自身感じている。非常に無念でもあり、忸怩たる思いだ。

ホームページで三菱自動車の「コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方」を見ましたが、いやはや血が通っていないというか、ハートが感じられないというか、理念や哲学がまったく感じられないことがそれを象徴しているかのようです。

信じられないのは、三菱自動車にあまりにも危機意識がなさすぎたことです。

2014年に韓国の現代自動車の燃費偽装が発覚し、また昨年はフォルクスワーゲンによる排ガス規制を逃れるための不正が相次いで発覚し、いずれもが大きな打撃を被って、自動車産業が揺れました。

週刊ビジネスは、不正が表沙汰になる前から、技術者は海外メーカーの不正操作に気がついていて、赤信号みんなで渡れば怖くないといった緩みやモラルハザードが業界全体に起こっていたのかもしれないとしています。

しかし、発覚する前に、もし他社の不正に気がついたなら、そんなときにこそ、いわば「前科」を背負った三菱自動車で同じ問題が起こればもはや企業存続も危うく、三菱自動車としてはどうあるべきかという議論や確認を行うべきだったのです。

しかも、もし技術陣が他社の不正に事前に気づいたときにトップに情報が伝わっていなかったとすれば、ガバナンスやリスク管理どころではありません。

さて、これで三菱自動車は存亡を問われる危機に再び見舞われますが、もう売却しか切り札は残されていないかもしれません。

それよりは、国交省は、ほかの自動車メーカーにもこういった事案がないか調査するよう指示し、5月18日までの報告を求めているようですが、もし、他のメーカーでも不正が行われていたら日本の自動車産業は大変な影響を受けます。

日本の産業は家電がデジタル化の波に乗れず、部品や素材といった、産業の重要な鍵を握ってはいるものの、市場規模の小さい分野に追いやられてしまいました。

日本の自動車産業は世界市場でリーダーとして残っている数少ない存在で、また裾野の広い産業です。その産業そのものが揺らぐ不正はないと信じたいものです。

(2016年04月21日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)

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