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マクドナルド新社長お手並み拝見

2013年08月29日 00時16分 JST | 更新 2013年10月28日 18時12分 JST

マクドナルドの原田会長兼社長が、日本マクドナルドホールディングの会長専任となり、日本マクドナルドそのものは、カナダ出身のサラ・カサノバ氏が社長就任することが発表されていましたが、誰もが唐突な印象を受けたのではないでしょうか。この人事交代劇があり、昨日はTBSのNews23からのご依頼で取材を受けました。検索されて、このブログにたどり着かれたのでしょう。

それはそうとして、感心したのは米国マクドナルドの手際よさです。あくまで新社長は原田会長の要請であり、原田会長はマクドナルドホールディングの会長に専任という筋書きは、社内、フランチャイズ契約を行っている関係先、株主の混乱、また企業イメージへの影響を最低限に抑える配慮がなされています。マスコミも協力的でした。

しかし日本マクドナルドの株主の上位3社はいずれもが米国マクドナルド本社の100%子会社でほぼ50%を占めていることを考えれば常識的には、本社のシナリオだったと見てとれます。

原田会長の意向であれ、米国本社の決定であれ、なぜ社長交代劇があったのかは明らかだと思います。売上の減少と急激な収益の悪化でしょう。フランチャイズ店を含めた全店売上高と経常利益の対前年比の推移をグラフにしてみましたが、この図をみれば一目瞭然だと思います。

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日本マクドナルドは、直営店をフランチャイズ店に切り替え資本効率をあげる施策、また標準オペレーションのできない小さな古い店舗や不採算店などの整理を進めていたので、焦点は利益であったと思いますが、グラフを見ると、全店売上高の伸びの低下、また不振が利益をも圧迫し始めてきたのではないかとも感じます。

経営学者の加護野さんが、企業が利益ばかりを言い出すと業績が悪化し、利益も減ることが多い、むしろ売上を伸ばしている企業は利益も伸ばしているとおっしゃっていましたが、そのパターンにはまってしまったのかもしれません。

原田会長は、今年3月末にあった日経のインタビューで、仮に13年も既存店売上高がマイナスとなった場合にご自身の進退につながるかという質問にこう答えておられます。

やめる1秒前まで『やめる』なんて言わないよ。ただ今年はどんな結果でも代わることはない。3年連続のマイナスになれば別だが。まあ、それは間違ってもない

不振のマック「驚き提供できなかった」(真相深層) :日本経済新聞 :

しかし、今回の社長交代劇で感じるのは、日米の経営感覚の違いです。原田会長の時間間隔では3年連続のマイナスかどうかでしたが、米国本社はこの間の四半期決算の動きを見ていたのではないかということです。

日本と米国の経済成長率の違いから生まれる経営感覚の違いについては、「ニュースの教科書編集部」のこの記事で指摘されていますが、その通りでしょう。

原田氏は2004年の社長就任以降、業績不振で赤字を垂れ流していた同社を再建し、飽和市場の中で売上げを30%増加させた。日本基準で考えれば卓越した経営者といってよいだろう。だがグローバル基準ではそのようには映らない。

原田氏が就任した2004年から現在までの9年間で、米国のGDPは30%増加している。他の先進国も同様であり、新興国の成長率はもっと高い。マック本社の売上げは同期間で45%増加しているが、上場企業のほとんどは最低でもこの水準の成長を株主から強く求められることになる。

これに対して日本のGDPは同期間で5%も減少している。市場が5%減っていく中で売上げ30%増加は大きな成果かもしれないが、グローバル基準ではまったく評価に値しないのだ。

マック原田社長の事業会社社長退任が象徴する、日本経済の隔絶された環境 | ニュースの教科書 :

しかし、常識的に見て、事業が多角化している企業の持ち株会社のトップと、単一事業ともいえる日本マクドナルドの持ち株会社のトップでは、その重みは異なるとはいえ、原田会長兼社長を日本マクドナルドホールディングの会長職専任としたことは、7年連続の赤字にもがいていた日本マクドナルドをV字回復させ、つい2010年までは日本でのファーストフードの一人勝ちともいえる経営を行ってこられた功績を配慮したものだったのではないかと推測します。

2011年は東北で震災があり、また福島第一原発事故によって原発が止まり節電ムード一色であったために、不振はその影響も大きかったと思いますが、あきらかにマクドナルドに変調が訪れたのは2012年春からでした。なぜ成功の方程式を捨ててしまったのかが不思議で、マクドナルドの動向をウォッチし始めたのですが、ようやく先の日経による原田会長へのインタビューのなかの言葉でその謎が解けました。

1~3月は事業再構築の時期と位置付け、新商品を出さなかったため、ある程度のマイナスは覚悟していた。日本のマクドナルドは世界の中で利益率が低く、米国本社から利益を底上げするようプレッシャーをかけられていた。このためリピーターを増やせるビッグマックの販売を強化して、運営コストのかかる季節限定商品をやめた

業績不振が起こった場合、競合環境の変化や市場変化によるというよりも、経営判断のミスや内部の主導権争いなどによる混乱などで変化に対応できなくなったことが原因であることを先ずは疑うべきだと言われますが、まさに「敵は内にあった」のでしょう。利益を求める強い本社からの圧力がその後の打つ手うつ手の空回りにつながったのではないでしょうか。

利益率を上げることが米国本社からの至上命題だったとすれば、カウンターからメニューをなくしたり、60秒ルールでそれ以上待てば無料券を配布するなどで店舗での滞留を減らし効率化をはかろうとしたことも頷けます。

原田会長が語っていらっしゃった日本マクドナルドの課題はそのとおりでしょう。今も変わっていないと思います。

今は消費者を動かすのが難しい時代だ。今年1月に60秒で商品を提供できなかったら無料券を渡すキャンペーンを実施したが、そのくらいでは動かない。消費者が『いいね』と思うくらいの販促や商品ではダメで、『グレート!』とか『ワオ!』というインパクトを与えないと。夏に大きなプロジェクトを仕掛けようと案を練っている

まだ残念ながらこの夏も月次セールス情報を見る限り不発に終わってしまっています。それが経営交代を促したのではないでしょうか。

原田会長がおっしゃるように消費者が『いいね』と思うくらいの販促や商品ではダメなのです。それは日本マクドナルドに限ったことではありません。消費者の人たちが商品やサービスを選ぶハードルは極めて高くなってきており、いい商品や販促だけではダメな時代で、日本の企業の多くがそのハードルを越えられず、途上国からキャッチアップされてしまいました。

いい商品は、コツコツと積み重ねる努力があれば生みだせます。しかし『グレート!』とか『ワオ!』というインパクトのある商品は、根本的な発想を変えるセンスがなければ生まれてきません。スタジオジブリの『風立ちぬ』のなかのセリフにあるように「センスがあれば技術はついてくる」のです。

さて新任社長のサラ・カサノバさんは、感動や共感を生み出す新しい発想やセンスを見せてくれるのでしょうか。もし勝ち組マクドナルドが復活すれば、日本の経営のあり方にもいい見本として影響がでてきます。期待したいところです。

(※この記事は、2013年8月28日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」から転載しました)