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「消費税増税」について

2014年04月06日 23時40分 JST | 更新 2014年06月06日 18時12分 JST

ハフィントンポストの中の人から「消費税増税」について何か書いてくれといわれたので何か書こうと思っているうちに4月になってしまった。「しまった」というのは、今年のエープリルフールネタは消費税関係だろうなあとぼんやり考えていたからで、要はタイミングを逃してしまったわけだ。まあハフィントンポストで嘘ネタをかますというのもアレなので、それでよかったということかもしれないが。

そもそもマクロ経済学は専門外なので、ど真ん中の話は適任の方が他にたくさんいらっしゃるだろう。そういう前提での話だが、今のところ、概ね事前に予想されたことが起きている、ということになるだろうか。駆け込み需要であちこちに行列ができたようだし、システム対応に失敗してトラブルになったところもあった。反動減についてはまだわからないが、当面の間はなにがしかあるのだろう。前回の税率引き上げの際は反動減から不況へと進んだ。今回どうなるかは今後の政策次第、というわけだ。

【消費税8%】駆け込み 売上高3割増」(Sankei Biz 2014年4月1日)

消費税8% 混乱の初日 システム障害 いなげや休業」(東京新聞2014年4月2日)

消費増税、反動減の行方は数カ月が正念場=麻生財務相」(ロイター2014年4月1日)

中小事業者の方が懸念しておられた消費税転嫁についても、それほど違和感のある状況ではない。一部に価格据え置きとみえるものもあるが、かなりの部分は転嫁されているようにみえる。「転嫁Gメン」なる人たちがいるそうだ。とはいえ、そうした人にできることは限られている。問題のあるケースというのは表からは見えにくいところでおきるのだろうから、転嫁できずに困っている人たちも少なからずいるのだろう。

消費増税:町工場悲鳴「転嫁Gメンに通報すれば仕事失う」」(毎日新聞2014年3月30日)

逆方向の便乗値上げについては前に書いたことがあるが、こちら方向にはGメンじゃなくて「便乗値上げ相談窓口」なるものがあるらしい(この対応の違いは政権の関心の方向をよくあらわしている)。こちらは輪をかけてたいした仕事をしてないっぽい状況のようだが、まあせいぜいこんなものだろうという妙な「納得感」があるのも事実だ。

「ならば便乗値上げも禁止したらいい」(H-Yamaguchi.net 2013年4月27日)

便乗値上げ相談、初日は48件 消費者庁窓口」(朝日新聞2014年4月2日)

同庁は具体的な事例を二つ明らかにした。一つはコーヒースタンドのコーヒーが内税200円から220円になったのは「値上がりしすぎではないか」というもので、複数の相談が寄せられたという。「本体価格の値上げは、合理的な理由があれば一概に便乗とはいえない」との見解を伝え、値上げ理由を業者に聞いてみるよう助言したという。

ともあれ、全体として消費税率の引き上げは、各所の人たちの奮闘があってのことではあろうが、比較的平穏に行われたようにみえる。一時に比べて景気が全体としてはいい方向に向かっているように見えるので、あれこれ意見はあるけどまあそれはそれで、というのが目下のところの印象だ。いずれにせよ少し待てば結果が出てくるんだから、今さら素人がこの問題で経済政策論争に参加する気はあまりない。いわゆる「第一の矢」はいいとして、政府の仕事であるはずの、見当違いの方向に飛んでいったっぽい「第二の矢」とかそもそもまだ手元にあるらしい「第三の矢」とかをさっさとどうにかしてくれといいたいだけだ。「第一の矢」も、追加を求める声はあちこちから聞こえてきている。正直何をどうするかはどうでもいいから、どこぞで起きてるらしい景気回復が社会の隅々に、もっと露骨にいえば自分のところに、一刻も早くやってきてほしいのだな。

この後は、予定通りなら2年後に再度の税率引き上げがくる。となればまた駆け込み需要が起きるのだろうか。だったらいっそ毎年少しずつ引き上げていけばずっと駆け込み需要が続くんじゃないか、みたいなネタが前にあったので、それを元に、税率をもっと頻繁に、それこそ毎日変えていくことになった、というのが温めていたエイプリルフールネタだった。税率は品目ごとに変えて、「今日は魚と卵が消費税安いよ!」とか、「2時間だけの消費税タイムセール!」みたいにするという話だ。

残念ながらこのネタはお蔵入りとなったわけだが、「待てよ」と少し考えてみた、というのが、いわば長い前置きの後のつけたしのような本題。

駆け込み需要の話を聞くたびに、いつもちょっと不思議な気分になる。なんで買いだめというといつもトイレットペーパーなんだろうとかあんなに買い込んであの人来る日も来る日もインスタントラーメン食べ続ける気だろうかとか、そういうネタ的な部分もあるが、最も根本的なのは「そこまでしてどれだけ得するのか」「コスト割れしてるんじゃないか」みたいな部分だ。

テレビで、ガソリンスタンド前に車の列ができているのを見たが、あれだけ並んでいれば、ガソリンを入れてもらうまでに相当時間がかかるだろう。税率上げ前に給油することで得する分はせいぜい数百円程度ではないか。そのために長い列に並んで待ってる間にアイドリングで消費するガソリンのコストとか同じ時間働いていれば稼げたはずの収入とか、そういうのを勘案すれば、かなりの人がコスト割れになってるんじゃないかと思う。

まあ、そういうのを非合理的と笑うのは簡単だが、そこで止まってしまっては惜しい。少しでも得したいと思うのは人情だし、実際に少しは得という場合もあるだろう。理屈はともかく現実には機会費用がゼロに近いということはけっこうありそうだ。コスト以外の要因があることも考えられる。そうする人が少なからずいるということは、何らかの意味での「合理性」かあると考えた方がいいかもしれない。

それに、仮に非合理的であったとしても、これを比較的少額のインセンティブ供与で人の行動が変わる事例と考えれば、行動経済学的な意味で面白い。数十円、数百円分のクーポンで人を店まで誘導することはけっこう大変なのに、同程度の税金を節約できるとなれば、人は喜んで店に足を向け、数時間を行列に費やすのだ。

思い起こせば、エコポイントのときにも似たようなことがあった。理屈はそれなりに想像がつくが、実際にそうなるというのは何より面白い。そういう、しっぽが本体を動かすみたいなレバレッジがきくのだとすれば、「今日は消費税安いよ!」は極端だとしても、政府にはいろいろとやれることがあるかもしれない。

税率で人の行動を大きく変えることができるのだとすれば、経済政策の手法として、高頻度の税制変更というオプションの可能性を考えてみるのはどうだろう。税制をそんなに気軽に動かされたらたまったものではない、という意見は当然ある。租税法定主義を持ち出すまでもなく、重要な税制の変更は政治的に大きな問題になるだろうし、消費税のように税率が変わると店頭の値札を張り替えたりPOSシステムをアップデートしたりする必要があるのであればそのコストも莫大だ。

とはいえ、そういうのはあらかじめわかっていればそれなりに対処するのが人間、ということもあるわけで、仮に税率が毎日変わるような制度であったとすれば、社会はそれに対応するシステムを作り上げるんじゃないか、と脳天気に考えてみる。具体的な方法を問われるとボロが出そうなので踏み込まないが、要はそういうときにこそ、現代の高度な情報技術がフルに使われるべきではないかということだ。

大学院にいたころ、日系ペルー人のクラスメイトから聞いたハイパーインフレーションの話も念頭にある。彼は大学にタクシーで通ってたのだそうだが(細かい事情は聞かなかったがそれなりに豊かな家だったのだろう)、朝大学に行くときと帰るときで運賃がちがっていたという。インフレ率は最高で年率8000%ぐらいあったとかいうからさもありなんとは思うが、それを平然とネタとして話すようすには軽くショックを受けた。ちなみに狂乱物価といわれた第一次オイルショック時の日本のインフレ率は23%だったそうで、それと比べると雲泥の差だ。しかしそれでも、ペルーの社会は曲がりなりにも機能し続けた。他にも、超高率のインフレを経験した国は少なくない。

税制を頻繁に変えられたら困るという最大の理由は「どんどん税率を上げられてしまうのではないか」「公平性が保たれないのではないか」といった懸念だろう。もしそういう不安があまりない状況であれば、というわけで、少し考えてみた。

たとえば、公的セクターを始め、民間でも多くの企業が4月から翌年の3月までを会計年度としているせいか、年度末近くなると、消費支出が集中する傾向がある。似たような意味で、年末に近い時期も、消費は増える。こうした「繁忙期」に消費税率を少し上げてみる、というのはどうだろうか。消費は他の時期に流れるだろうから、結果として需要を平準化し、供給側の効率化につながるかもしれない。消費のピークロードプライシング、とでもいえようか。

あるいは逆に、年度末が近づいて、当初予想していたよりも税収が上がりそうだったら、還付の代わりに税率を少し下げる、といった対応がとれるかもしれない。生命保険や投資信託で運用の配当がもらえることがあるが、そういうノリだ。

こうした微調整は、民間の契約ではしばしばみられる。だからといって政府も似たようなことができるともすべきとも強弁するものではないが、可能性を考えてみるのは悪くないのではないか。経済政策のうち、中央銀行が行う金融政策は実際にかなり機動的で、必要に応じて随時微調整が行われる。税制でも似たようなことが行えたら面白いのではないか。

いっそ、エコポイントのように、政府が納税のために使えるポイントを発行して、そこで調整を行うしくみにしたらどうだろう?一時、政府紙幣に関する議論があって、反対論が強かったように記憶しているが、納税のためだけに使えるポイントであれば、抵抗はより少ないかもしれない。地域振興券は紙ベースだったが、ポイントカードにすればより使いやすくなるだろう。

まあ、いずれにせよ、この文章の後半の「本題」部分は根拠のない妄想だ。技術の進歩に応じて、社会のしくみも少し進化させてみてはどうか、という発想ではあるが、思いつきであることにちがいはないので、当然ながらそのまままじめに提案するという趣旨ではない。遅れてきたエイプリルフールネタだとでも思っていただけるとありがたい。

(2014年4月6日「H-Yamaguchi.net」より転載)