かつ江さんに加勢致し候

鳥取城籠城戦のマスコットキャラクターとして鳥取市教委が公開した「かつ江さん」が、危機に陥っている。批判のメールが寄せられたなどの理由で、急遽公開が中止された由。籠城戦の当時鳥取城にいた吉川経家は毛利家家臣であり、私のご先祖様の敵方にあたるのだが、ゆるキャラ諸氏の行く末に関しては以前から懸念を抱いてきた私としては、この事態を座視するわけにはいかない。
鳥取市教委提供

鳥取城籠城戦のマスコットキャラクターとして鳥取市教委が公開した「かつ江さん」が、危機に陥っている。批判のメールが寄せられたなどの理由で、急遽公開が中止された由。

「鳥取城キャラ・かつ江さん公開中止 「悲劇をネタ」の声」

(朝日新聞2014年7月10日)

籠城戦の当時鳥取城にいた吉川経家は毛利家家臣であり、私のご先祖様の敵方にあたるのだが、ゆるキャラ諸氏の行く末に関しては以前から懸念を抱いてきた私としては、この事態を座視するわけにはいかない。公開中止という「兵糧攻め」に再び苦しむ「かつ江さん」に加勢致すべく、ここに弱小ながら援軍を差し向ける所存にて候。

もともと「かつ江さん」は、2013年12月~2014年2月に全国公募した鳥取城跡マスコットキャラクターの優秀作2つのうちの1つであるらしい。鳥取城といえば秀吉の中国攻めの際の「渇え殺し」、ということで「かつ江さん」になったわけだ。吉川経家は、主君を追い出した山名氏家臣に請われて鳥取城の主となり、飢えに苦しむ城兵や領民たちを救うために自害した。秀吉は助命しようとしたが、断ったとされる。

キャラクターの考案者は鳥取市在住の方で、歴史や城めぐりが趣味だそうだから、当然そうした経緯をふまえたものだろう。つまり、「かつ江さん」は、こうした鳥取城をめぐる悲しい歴史を正しく反映していて、それをわかりやすく伝えようとするものだ。「かつ江さん」が手にしたカエルも、経家の辞世の句からとられたものである由。

武士の 取り伝えたる梓弓 かえるやもとの栖なるらん

上掲の記事では「市教委文化財課の森下俊介課長は「かつえという特定の人物を指すような使われ方をされるなど想定していなかった使用をされる恐れがある」と理由を説明している」としているが、とってつけたような理由にしかみえない。考案者の方はご不満のようだが、当然だと思う。

考案者「かわいそう」 公開中止の鳥取キャラかつ江さん

(朝日新聞2014年7月11日)

批判が相次ぎ公開中止に追い込まれた戦国時代の鳥取城籠城(ろうじょう)戦のマスコットキャラクター「かつ江さん」を考案した男性(40)が10日夜、朝日新聞の取材に応じ、「かつ江さんというキャラがかわいそう」と語った。

この種のキャラクターは、一般になじみにくいものをなじみやすくすることを目的として作られるものだ。確かに「かつ江さん」は、一般的な意味でかわいらしいデザインとはいいがたいが、そういうのはゆるキャラ界ではごくふつうに存在するのであって、だからおかしいというようなものではない。「悲劇をネタにしている」「飢餓をちゃかしている」といった批判は、ゆるキャラというものを理解していないとしかいいようがないし、むしろそれこそ、悲劇を伝えようという真摯な取り組みを貶めるものだ。

それに、ゆるキャラは話題になってなんぼの存在だ。炎上マーケティングを推奨するものではないが、「これいい!」とわざわざ言ってくる人はそうそういないわけで、その意味では、多少の批判があるぐらいの方がよい場合は少なくない。もちろん、教育委員会として公式に採用するキャラクターだから諸方面に配慮すべきというのはわかるが、いくつか批判を受けたぐらいで引っ込めるような覚悟なら、そもそもゆるキャラなど使うべきではない。

「かつ江さん」が幅広い関心を呼んだことは、「かつ江さん」で画像検索してみればすぐわかる。こういうつっこまれ方こそ、ゆるキャラがめざすべき状況といえる。すでにこのキャラクターは「愛されている」のだ。ひとつだけリンクを置いとく。

そもそも「かつ江さん」登場以前に鳥取城籠城戦のことを知っていた人がいったいどのくらいいたか、考えてみるといい。見落としただけかもしれないが、歴史の教科書で見た記憶はない。せっかく今年のNHK大河ドラマは『軍師官兵衛』だったのに、官兵衛が軍師として活躍した秀吉の鳥取城攻めは完全にスルーされた。水攻めの高松城攻めとかぶるからだろう。「鳥取城跡」が存在することすら知らない日本人が大半だった、と独断で断言しておく。

「かつ江さん」のおかげで鳥取城籠城戦のことを知った人は少なくないはずだ。鳥取城跡に行ってみようか、と思う人も出てくるかもしれない。地域振興にこれほどの貢献をした「かつ江さん」に対して、この仕打ちはあまりにひどくないだろうか。

というわけで、「かつ江さん」の公開再開を熱望し、さらなる活躍を祈念するものである。

(2014年7月11日「H-Yamaguchi.net」より転載)

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