在京キー局 朝の情報番組出演者にみるジェンダー

メディアとジェンダーの問題は、メディアやメディア企業だけの問題ではない。私たちはメディアを通して、私たち自身のジェンダー意識を問われているのだと思う。

駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部2017年度「実践メディアビジネス講座I」で展開しているシリーズ講義「メディア・コンテンツとジェンダー」は、山口のゼミ活動とも連携している。ゼミでは今年度、ゲスト講師のお話しとは別の角度から「メディア・コンテンツとジェンダー」について調べる活動を行っている。

今回は、在京キー局の朝の情報番組の出演者について調べてみた結果を報告する。朝の情報番組は、視聴率も高く、各局とも力を入れている枠だろう。アナウンサーなど、局の「顔」ともいうべき人々が数多く出演しているわけで、この枠でジェンダーバランスがどうなっているかは気になるところではある。

情報番組ではないが、ニュース番組のコメンテーターについては先行研究がある。

鄭■秀・戸田里和・国枝智樹(2010)「ニュース番組における解説機能の役割~キャスター・コメンテーターのディスコース分析を中心に~」『コミュニケーション研究』vol.40:

57-85.

(■は王偏に文)

2008年11月に5局23番組、42時間17分を調査した結果に基づくこの論文はディスコース分析が主題だが、関連して以下のような指摘がなされている。

・登場したコメンテーター数の合計は212名。

・男女比は135対77で男性が1.8倍多い。年齢層では40、50代は、合計で64.0%を占め、最も多かった。次いで30代と60代が27.1%、20代と70代が8.8%。

・男性の平均年齢は53.0歳、女性は44.2歳。

・20代のコメンテーターは全て女性、タレント、歌手、グラビアアイドル、女優、ファッションモデルなどであり、特定の業種に集中。

ニュース番組のコメンテーターというと、多くの場合何らかの専門的知見をもとに、ニュースに対して「批評、解説や意見を加える人、ニュース解説者」(広辞苑)である。女性に比べて男性が多いことは、こうした専門知の持ち主として男性が選ばれやすいこと、言い換えれば、男女の固定的性別役割分担がこの領域に存在することを示唆している。

女性のコメンテーターの平均年齢が低い一因は調査対象となったコメンテーターのうち、20代のコメンテーターが全員女性であり、しかも芸能人など「見た目」が重視される職種であることによるという。彼女らに期待されるものが、年配男性のコメンテーターと異なっているであろうことは想像に難くない。

これに対し、今回対象とした朝の情報番組は、報道の要素も含むが、バラエティ番組的要素が強く、出演者も多様であることが予想される。

対象にした番組は次の通り。在京キー局で平日朝に放映しているものをとった。並びはチャンネル順。

あさイチ(NHK 8:15-9:54)

Oha!4 NEWS LIVE(日本テレビ 4:00-5:20)

ZIP!(日本テレビ 5:50-8:00)

スッキリ!!(日本テレビ 8:00-10:25)

グッド!モーニング(テレビ朝日 4:55-8:00)

あさチャン!(TBS 5:25-8:00)

Newsモーニングサテライト(テレビ東京 5:45-7:05)

めざましテレビ(フジテレビ 5:25-8:00)

出演者は各番組の公式ウェブサイト内の情報によった。合計165名。性別は写真の見た目で判断している。番組によって出演者のカテゴリ分けが異なるので難しいが、独断で次のように分けてみた。

司会

パーソナリティ

アナウンサー

レポーター

天気予報

コメンテーター等

「司会」と「パーソナリティ」は概ね同じ意味のはずだが、それぞれの番組の中で総合司会的な役割を果たす人がいると思われる場合に「司会」とし、コーナーを担当する人など、そうでない人と思われる場合や、「司会」とは扱いが異なると思われる場合を「パーソナリティ」とした。

「アナウンサー」はニュースのコーナーを担当する人で、ほとんどが当該局の職員であるアナウンサーだ。「レポーター」はこの種の番組につきものの屋外等からの中継を担当したり、娯楽系の小コーナーを担当したりする人であり、それ以外に天気予報を担当する気象予報士やコメンテーターその他、何らかの専門性をもった人々がいる。

まずは基礎的な情報。

男性人数 81人

女性人数 84人

女性比率 50.9%

男性平均年齢 40.4歳

女性平均年齢 28.5歳

人数は男女でほぼ拮抗しているが、平均年齢は10歳以上の差がある。年齢は公式サイトなどで公開されている誕生日をもとに計算した。公式情報として誕生日が公開されていない場合は、Wikipediaなどの情報も利用した。生まれ年のみで誕生日が公開されていない出演者については、仮に、1年の真ん中ということで7月1日を誕生日と仮置きしてみた。

次に、職種ごとにみてみる。「司会」がいる6番組のうち、男性の年齢が高いものが2番組、女性の年齢が高いもしくは女性のみのものが3番組であった。ここでは特段男女差を感じるほどではない。

アナウンサーも女性比率45.8%であり、特にどちらかが多いということはないようだが、平均年齢は男性33.7歳、女性26.2歳とはっきり差がある。

女性アナウンサーは、ある程度の年齢になると会社を退職してフリーになる者が少なくないように見受けるので、それと関係があるかもしれないが、多くの民放では女性アナウンサーを半ばタレント的に扱っていることを考えれば、女性アナウンサーに若さを求めるのは会社の姿勢でもあるという印象は否めない。

レポーターの場合はもっとはっきりしていて、女性比率は67.9%、平均年齢は男性31.3歳、女性23.2歳である。レポーターはどちらかといえば専門的知識を要求されない方の役割であり、若い女性が多くを占めているのは、女性出演者に専門的知識を求めないという制作意図と考えてよいだろう。

中でもその要素が特にはっきり出ているのがフジテレビの「めざましテレビ」で、「リポーター」も兼任の男性アナウンサーを除けば女性の人数が男性の2倍、さらにこの他に「イマドキガール」なる女性たちが15名いて、その平均年齢は18.8歳だ。

一転して、コメンテーター等では女性比率は28.6%に下がる。専門知識が要求される分野では男性優位がはっきりしているわけだ。男性平均年齢は50.4歳、女性平均年齢41.2歳と約10歳の差があり、これは上掲の鄭・戸田・国枝(2010)とほぼ符合する結果といえる。

ここに挙げた中で唯一、日本テレビは複数の情報番組を放映しているので、比較してみよう。「Oha!4 NEWS LIVE」(4:00-5:20)、「ZIP!」(5:50-8:00)、「スッキリ!!」(8:00-10:25)だが、この3番組の女性比率は順に58.3%、55.9%、42.3%で、明らかに「スッキリ!!」だけ女性比率が低い。

「スッキリ!!」の放映時間帯は、学校や勤め先に向かう人の多くが家を出た後だから、視聴者層の多くは高齢者か専業主婦層と思われる。

「若い女性」がアピールしない視聴者層ということだろうか。「スッキリ!!」はレポーターを使わず、代わりに多数のコメンテーターが出演している。コメンテーターは年齢層も高く(平均年齢46.9歳)女性比率は低い(17名中7名)。

逆に、「若い女性」を前面に押し出しているのは「ZIP!」だ。18人ものレポーターを起用し、そのうち12人が女性だ(レポーターの平均年齢は男女とも23.0歳)。

出演者全体の平均年齢でみると、「Oha!4 NEWS LIVE」は男性29.2歳、女性26.7歳、「ZIP!」は男性29.1歳、女性24.7歳、「スッキリ!!」は男性48.7歳、女性38.9歳で、「Oha!4 NEWS LIVE」と「ZIP!」は男性の平均年齢がほぼ同じであるにも関わらず女性の平均年齢により大きな差がある。「Oha!4 NEWS LIVE」はレポーターではなくより年齢層が高めの「パーソナリティ」を起用していることによるものだろう。

以上が、ごく簡単ではあるが、在京キー局の朝の情報番組の出演者について調べた結果だ。ある意味予想通りの結果ではあるが、男女の固定的性別役割分担は、朝の情報番組の出演者についても存在するようだ。基本的に、テレビ番組に出演し必要な業務をこなす能力に男女差があるわけではなかろう。ジェンダーバランス的に問題がない状況ということはできまい。

しかし、いうまでもないが、各局のこうした出演者起用は、制作側の意図であると同時に、視聴者の好みを反映したものでもある。つまり、中高年男性に専門的知識を、若い女性に華やかな外見を求めているのは、私たち視聴者自身でもある。

私たちはこれを、「しかたない」「この方がいい」と思うだろうか。もしそうなら、日本の産業界において、一部の例外を除いて女性活躍が遅々として進んでいないことを嘆くことのできる立場にいるだろうか。

テレビは特別、という意見もあるかもしれない。もしそうなら、どこまでが特別なのだろうか。

テレビでは中高年男性が経済を解説し若い女性がキャッキャするのを見たいという意見と、レストランでシェフは男性、給仕は女性であってほしいという意見とは、どこがどの程度ちがうだろうか。

弁護士に相談するなら年配の男性弁護士がいい、というのはどうか。一般企業の経営者と接客時のお茶くみではどうか。

弁護士に依頼するなら「50歳代の男性の弁護士」60.3%、「40歳代の男性の弁護士」54.2%、「40歳代の女性の弁護士」29.0%、「50歳代の女性の弁護士」25.8%

ピーシーネット株式会社 2014年04月04日

女性は女性の上司を望まない、男性以上に強い不信感

Bloomberg 2014年10月22日

メディアとジェンダーの問題は、メディアやメディア企業だけの問題ではない。私たちはメディアを通して、私たち自身のジェンダー意識を問われているのだと思う。

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