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大学入試、親の付き添いはいつから?

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大学入試がらみでちょっと話題になったこの件。

東北大2次試験、バス満員受験生乗れず 同行の親増加で」(朝日新聞2014年2月26日)



東北大などによると、午前10時から外国語の試験を予定していたが、午前9時半ごろになっても、仙台駅では300人ほどの学生らが東北大行きのバスを待っている状況だったという。東北大は試験開始に間に合わないと判断し、開始を30分遅らせた。

市バスを運行する仙台市交通局によると、仙台駅から東北大に向かう臨時バスが大混雑。受験生と同乗する父母が例年よりも目立った。やはり東北大と結ぶ定期運行のバスに父母を誘導したが、そちらも満員になってしまったという。

何やらテレビのワイドショーネタにぴったりだったようで、名前をよく覚えてないが朝の情報番組でキャスターの人が「いまどきの親は」「学生は」ってさんざんにこきおろして楽しそうだった。

お楽しみのところ申し訳ないんだが、少なくとも「いまどき」に限った話じゃないんだよということぐらいはいわせてもらおうと思う。

批判というのは、要するに、「大学入試に親がついてくるなんて自立してない子どもだ」「ついていく親は過保護だ」というような話だろう。「自分は1人で行った」とか「自分たちの頃にはついてくる親なんていなかった」みたいに体験談が付け加わるとさらに勢いがつく。そのうちゆとり世代がどうだとかヘリコプターペアレントってのがあってなとかさまざまに言い出して、ひとしきり言うこと言わないと黙ってくれない。

とはいえ、人間の記憶なんてのはよくできていて、都合よく記憶を変えたり消したり作ったりできる。というわけで、記録にあたってみたわけだ。例によって時間がないので大学で契約してる朝日新聞のデータベースをちょちょいと検索しただけだけど。

で、あったあった。1967年3月3日付東京版夕刊。「入試の季節 青空の下、灰色の親子 国立大一期校でも始る 入試」という記事。東大の2次試験を取材したものだ。大きな写真がついている。東大の構内のベンチに人がたくさん座っている。学生もいるが半分ぐらいは親のようだ。母親が多い。「試験開始直前まで参考書を読む受験生たち。つきそいの母親も心配顔だ」とのキャプションがついている。本文には「試験場の外では、わが子の受験ぶりを心配そうにのぞき込む父兄や先輩の姿が右往左往」とも書かれている。「父兄」っていう書き方が時代を感じさせる。

記事の中に、受験に親がついてくることへの違和感は表れていない。「母親につきそわれてきた"弱虫屋"」との表現はあるが、むしろ季節の風物詩として自然に受け止めているような書きぶりになっている。この年入学した学生たちはちょうど、70年安保闘争の中でも象徴的な東大紛争の時期の東大生にあたる。東大がバリケードで封鎖され、機動隊が突入したあの闘争で戦った東大生たちの中にも、きっと母親に付き添われて受験した者が相当数いただろう。当然、東大だけでなく私立も受けたりしただろうから、私立大学の入試会場も似た光景であったにちがいない。今は60代半ばになっている彼らは、「親に付き添われて受験した世代」なのだ。67年に突然そうなったわけではないだろうから、もっと上の世代でも状況はたいして変わらなかったのではないか。もちろん、1人で受験した人も多いだろうが、そうでない人が少なからずいたということを忘れて「いまどきの学生は」というのはおかしい。

で、ついでにもう1つ。1982年3月4日付東京版夕刊の「欠勤も辞さぬ親心 東大入試、父も応援 国公立大二次試験」という記事。1979年から共通一次入試が始まっているからのその4年めだが、記事はこちらも東大の2次試験。こんなくだりがある。

ひところに比べ、父母の付き添いは減ったというものの、正門前では五十人を超す父母が受験生を見送った。なかには先月二十四日に愛媛県からそろって上京してきたという父母もおり、「息子の大事な試験だから会社はしばらく休みます」という力の入れよう。じっと正門前にたたずんでいた。

「ひところに比べ、父母の付き添いは減った」ということは、以前は多かったということだろう。今度は母親だけでなく父親が来ているケースもあったことがわかる。これも、「こんな親で情けない」といったトーンはない。むしろ「欠勤も辞さぬ親心」というのは前向きな論調だろう。

共通一次試験については、こんな記事があった。1980年1月12日付東京版「受験生"親離れ"付き添いはほとんどなく 国公立大共通一次試験」。発足後2回めとなる共通一次試験の模様を伝える記事だ。本文には付き添いの話は出てこないが、見出しとリード文の中に、付き添いの親がほとんどいなくなったと書かれている。「親離れ」とも。その前年は共通一次最初の年なので、付き添いの親がそこそこいたのかもしれない。そもそも共通一次は2次試験とちがってそれぞれの地元で行われるだろうから、付き添いが少ないのはまあ理解できる。上の82年の記事はこの後だが、2次試験では依然として付き添いがあったということなのだろうか。

記憶をたどってみると、共通一次試験の導入は、いわゆる受験戦争が激しかったとされる時期への反省が大きく取り上げられた時期だったように思う。つまり、親が入試についてくることが違和感なく受け入れられた67年の記事のころは受験戦争が激しかった時期であり、付き添いが減ったとされる80年代の記事は、受験戦争への反省と併せて、親がつきっきりで受験をサポートすることへの違和感が表面化した時期にあたるということになるのではないか。

それがバブル経済でどうなるかというと、こうなる。

「受験生パックますます高級化 ホテルは満杯、個室化志向も強く 千葉 」(1991年01月29日付朝刊)



地方からの受験には親がついてくる場合も。全国から450人近い受験生が集まる千葉市の東京歯科大学では、父母用の待合室を用意するという。ただ保護者同伴は全体には減っており、その分、電話が増えホテルの電話交換業務が忙しくなるという。

JTBでは「高級化志向が年々強まっていて、今年は98%以上の人が旅館などの相部屋はノー。3万円の部屋など、親もお金は気にせずいいところをと言う人が増えている」と話している。

バブル景気でぜいたくになって個室志向、ということは、それまでは個室はあまり一般的ではなかったということだろう。ここでも親の付き添いがあることが書かれているが、減っている、とも。この時期はまだ、「親離れ」の時期だったのかもしれない。それでも、付き添いはあると書かれている。東京歯科大学のように、医学系などの場合は親の病院を継ぐためにといった動機があるだろうから、自然と親の期待が大きくなったりするのかもしれない。今は付き添いへの違和感が比較的低い時期ということになるのだろうか。それをとらえて今の風潮はと批判するのは自由だが、「昔はそんな親や学生はいなかった」というのは明らかにまちがいだ。

大学受験に親が付き添うことも、それをおかしいと思うことも、それぞれ以前からあった。理由はおおむね見当がつく。東大や医学系大学のように親の期待が大きい大学や、地方から遠く離れた都市部の大学を受験する場合などは、付き添いする親が相対的に多く、そうでないケース、たとえば都市部に住む受験生が地元の大学を受ける場合などは付き添わないケースが多い、といったことなのではないか。もちろん個人差は大きい。そしてそのバランスが時によって変わってくるということなのだろう。

もちろんこれは、人によって考え方がちがう問題だ。付き添いたいと思う心も、そんなの変だと思う心も自然なものだろうし、共感するかどうかは別として理解はできる。少なくとも、自分の勝手な思い込みで「受験に親が付き添うなんて変」と決め付け、「最近の子どもはなってない」と邪推し、「それに比べて自分たちはちゃんとしてた」と安心してるような類はとんでもない勘違いだということだ。かの情報番組キャスター氏の世代の受験生の中にも、親に付き添われてくる者は少なからずいたのだ。彼に対しては、少し過去の情報を調べるぐらいはしなさいよ一応プロなんでしょ、と申し上げたい。

ちなみに、冒頭の記事の件自体に関して知る限りでいえば、今年になって急に付き添いの親が急増したという事情でもない限り、試験の主催者である大学側の仕切りの問題だろう。この記事にある通り、(1)天候に恵まれて受験生の出足が遅かった、(2)同じルートにある宮城教育大が今回、試験開始時間を変更したという2つの要因が重なったというのが原因のようだが(受験生の親向けの生協のイベントがあったという情報もあるがそれはあまり影響しなかったということか)、仮にそうだとしても考えうる自体を想定して対応するのが当然なわけで、言い訳にはならない。

ただ、実際にバスのりばに受験生が残っていることを確認して試験開始を遅らせたのは的確な情報把握及び判断であったろう。そこまで含めれば、大学の対応は必ずしもダメダメということではないと思う。「時間に余裕をもって来るように」という指示は受験生に対してなされていたはずで、遅めに来た受験生にもそれなりのリスク負担はあってしかるべきだ。

とはいえあれだね、受験会場に向かうバスがいっぱいになっててこのままだと遅れそうみたいな状況だったら、受験生に「先に乗りな」って言ってあげる親たちがもっといてもいい、とは思うね。ともあれ受験生の皆さんはご苦労さま。

(この記事は、2014年2月28日の「H-Yamaguchi.net」より転載しました)

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