【奇妙な燃費新税、エコカー普及にブレーキ】~燃費最高レベルでなくても減税?~

メーカーのエコカー技術開発のスピードを鈍らせるような税制は、軽減税率同様、"筋悪"である。

一体政府はエコカーを普及させたいのか、させたくないのか?2017年度から自動車を買う時、燃費性能に応じて払う"燃費新税"の仕組みが決まったのだが、これがまたよくわからない代物なのだ。

もともと消費税が10%に引き上げられることによる販売減を緩和するために考えられたもの。そもそも自動車には数々の税金がかけられており、ユーザーの負担は重かったこともあり、まず自動車取得税の廃止を決めたのだ。それで年間の税収規模が200億円縮小した、と政府は言うがもともと取り過ぎだっただけだ。

写真: 「新型プリウス」 (C) 安倍宏行

さて、与党が決めた制度案で問題なのは"燃費新税"だ。原稿の"エコカー減税"は、20年度の燃費目標を20%以上上回る車を非課税としている。大体新車販売の4割弱が現行非課税となっている。しかし、新税は条件を緩め、同目標を10%上回る車まで対象とした。これで5割以上の車に対象が広がることになる。

減税対象の車が広がっていいじゃないか、と思う向きもあるかもしれないが、それは中長期的視点を欠いた議論である。エコカーの対象を広げるということは、メーカーにしてみるとHV(ハイブリッド車)やPHV(プラグイン・ハイブリッド車)、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)などガソリン車とは比較にならない、超エコカーの開発意欲を減退させることに繋がるのだ。

かの米・カリフォルニア州の世界一厳しい燃費規制が、世界中の自動車メーカーをしてエコカー開発に走らせてきた歴史を見れば、燃費規制や税制がいかに車の開発に影響を与えるかおわかりだろう。VWもこの加州の規制を逃れるために苦し紛れにディーゼル車の排ガス不正に走ったほどだ。

話を戻すと、日本のメーカーはエコカーの開発で世界のトップを走っている。EVにしろFCVにしろ、既に商業化は済んでいる。後はいかに販売台数を増やしコストを下げるかと、インフラ整備をどう加速させるかにかかっている。その時期にメーカーのエコカー技術開発のスピードを鈍らせるような税制は、軽減税率同様、"筋悪"である。税収の増減ばかり気にして、世界のエコカー市場で日本車メーカーがデファクトを取れるように後押しするのが政府の役割だろう。

国内でEVやPHVが爆発的に普及しないのも、減税措置が不十分なことに加え、充電スタンドなどのインフラ普及の為の規制緩和や政策誘導なども不十分なことが上げられる。ユーザーは、走行距離が短いこと(実際は1充電280キロくらい走り、日常の足としては問題ないのだが)と充電スポットが少ないことを懸念しているのだ。それを解消してやれば、需要は増えるはずだ。

また筆者がかねてから主張している通り、震災時に蓄電池として大いにその威力を発揮するEVやPHV、FCVを増やさない手はない。街全体のエネルギー需給をITで管理し、太陽光などの再エネで充電したエコカーを各家庭の非常用電源とすれば、災害に強いエコ・コンパクトシティーとなる。

震災直後あれほど議論が盛り上がったのに、実際に街単位でそうした取り組みをしたところはほとんど聞かない。東京オリンピックまで5年を切った。少なくとも東京の都心だけでもいい。エコカーが走り回る、そんな姿を海外から来た人々に見せたいと思いませんか?

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