【テレビ局の岐路、今ここに】~ネットフリックスを視聴して~

これはHuluの強敵になる。ネットフリックス(Netflix)を視聴して真っ先に感じた感想だ。

これはHuluの強敵になる。ネットフリックス(Netflix)を視聴して真っ先に感じた感想だ。

特に、オリジナル作品が豊富なのがネットフリックスの特色だろう。まずは初めての日本のテレビ局(フジテレビ)との共同製作ドラマ、「アンダーウェア」と「テラスハウス」を視聴した。多くの視聴者をリアルタイム視聴に引き戻したTBSの大人気ドラマ「半沢直樹」は別にして、地上波のテレビドラマは総じて低調だ。かつてのように視聴率20%超えという作品はめったに出ない。

テレビドラマを見なくなって久しい筆者も、テレビドラマを定額制動画配信サービス(SVOD=Subscription Video on Demand)で見るのは少しばかり新鮮だ。まず、CMが入らないから話が途切れることがない。また、マルチデバイス対応だから、家ではPCで、通勤途中ではスマホやタブレットで視聴できる。筆者のようなテレビを見なくなった層をテレビコンテンツに引き戻す効果はありそうだ。

一方で、これは諸刃の剣である。ネットフリックスのオリジナルドラマを日本の視聴者が見ることが出来るようになったからだ。その一つが、「デアデビル(daredevil : 向こう見ず、無鉄砲などの意)」だ。たかがアメリカンコミックの実写版と侮るなかれ。シーズン1(13話)が初日から配信されたが筆者などは一気に全話見てしまった。それくらいクオリティの高いドラマなのだ。単なるヒーローアクションものではない、人間の持つ邪悪な心とそれに相対峙する正義。親子の愛憎、同僚との友情・信頼など、人として誰しもが一度は直面するシーンが複雑に絡み合う。見ていると自分の生き様に匕首を突き付けられたかのように魂を揺さぶられる。大げさかもしれないが、そのくらい完成度の高いドラマである。

製作費もかなりのものだろうが、こんなオリジナルドラマを自前で作られた日には、日本の民放ドラマがとんでもなく貧弱で薄っぺらいものに見えてくる。どこかで見たようなストーリー、学芸会のような素人俳優(俳優とは呼べないかもしれないが)の演技。あまりに残念で泣けてくる。これではやがてネットフリックスのような米・動画配信サービスに主導権を奪われ、日本のテレビ局は下請けに甘んじる時が早晩くるのではないか。杞憂であって欲しいが、そんな不安を抱かせるのに十分なくらいネットフリックスのオリジナル作品群は強烈だ。

何もオリジナル作品はドラマばかりではない。ドキュメンタリーも骨太だ。その一つ、「ホットガールズウォンテッド (Hot Girls Wanted)」を見た。世界中で大人気のネットポルノ女優の私生活を追った作品だ。ネットポルノ製作のメッカ、フロリダのとある個人経営エージェントに密着した作品だ。

全米から次から次へと応募してくる高校卒業したてのギャルや、現役女子大生らハイティーン達。ずぶの素人が、いとも簡単にネットポルノの女優を目指す。彼女たちの動機は自由と金。すれてない彼女たちに世界中からアクセスが殺到する様は不気味でもある。ネットの中の名声は長くは続かない。彼女らの賞味期限はなんと3か月そこそこなのだ。代わりはいくらでもいる。少しでも長く続けたければ、要求されるプレイはよりハードになっていく・・・ネットの中で消費され尽くす若い女性の儚い夢をカメラが残酷に切り取る。

こんなドキュメンタリー、日本のテレビ局が作れるだろうか。そもそもめちゃくちゃ金と時間がかかる。テーマがテーマだけに地上波では企画が通らない可能性が高い。今のテレビ、物議を醸しそうなものは徹底的に排除だ。すぐに視聴者からクレームがくる。BPOに訴えるぞ、と言ってくる。(実際、訴えるケースは多い)テレビ局はそんな冒険は犯したくない。だから無難なテーマになる。そもそもドキュメンタリーの枠は縮小傾向で、放送する時間も深夜か休日の昼間だったりする。作る気などとっくに失せているのだ。

ネットフリックスら海外勢は違う。面白いコンテンツを作ってくれる製作者には金を惜しみなく出すと明言している。テレビ局の為に良質の作品を作っていた制作会社や個人が、海外勢の為に作品を作り始めたらどうなるのだろう?考えただけでも恐ろしい。何もネットフリックスだけではない。ライバルのHuluや、まもなくサービスが開始される「Amazon プライム ビデオ」も同様だろう。

視聴するための月額料金はどのサービスを選ぶかの大きな要因となりうる。先行するHuluは月額933円(税抜き)だが、ネットフリックスは月額650円(税抜き)の低価格コースで殴り込みをかけた。(高解像度複数端末視聴可の950円コース、4K対応の1450円コースもある)。Amazonプライムビデオに至っては、プライム会員(税込み年3,900円、月325円)なら追加料金なしでコンテンツが視聴できる。日本勢のドコモ系dTVは月額500円(税抜き)だ。

価格競争は熾烈を極めている。複数のサービスを同時契約するようなヘビーユーザーはそうそういないだろうから、こうなってくるとオリジナルコンテンツがどのくらいあるかが勝敗を分けるだろう。視聴者にとって魅力的な作品が増えることは大歓迎だがテレビ局にとっては脅威以外の何物でもない。個々のテレビ局の製作費では、豊富な資金力を誇るネットフリックスらに対抗できない。このままでは海外勢の軍門に下ることになってしまう。在京民放5社は共同で、10月から番組の無料動画配信を開始するが、そんなものでは太刀打ちできない。他の企業と提携して大量の資金を調達するなどして、海外勢に対抗できるキラーコンテンツを作ることが生き残りのための唯一の策であろう。横並び一線で来たキー局のネット戦略は今分かれ道に来ている。

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