性暴力被害報道の在り方、見直しを 

性に関わる犯罪に関しては、これまで被害者への配慮が十分といえないことも多く、それがSNSによってさらに無秩序に広がる危険性が年々増している。

<シンポジウム「性暴力被害に対する第三者の向き合い方--報道やネットによる二次被害防止を考える--」©Japan In-depth 編集部>

「自分の中で何らかの形でアウトプットしたいと思って作品にしたんです。」

11月20日、東京都内で「女性とアディクション研究会」が主催したシンポジウム「性暴力被害に対する第三者の向き合い方―報道やネットによる二次被害防止を考える―」が開催された。

シンポジウムに先立ち、性暴力被害を題材にした映画『【ら】』が上映され、監督水井真希さんは上映後、そう語った。映画は、実際にあった少女に対する連れ去りや強姦、傷害事件を題材にしている。

映画の冒頭に登場する被害者まゆかの体験は、水井監督自身が受けた被害をもとに描かれている。まゆかはアルバイトの帰り道に見知らぬ男に無理矢理車に乗せられ、連れ去られる。ガムテープで目隠しと手足を縛られ恐怖の一夜を過ごすが、何とか翌朝解放される。

加害者の男は、その後凶行をエスカレートさせ、性的暴行や傷害事件に発展する...。まゆかは「自分が訴えなかった」ことで、加害者が野放しになり、その後の一連の被害を生んだと自らを責め苦しむ描写も含め、水井監督の体験がこれでもか、とスクリーンに晒され、観る者は自分のことのように疑似体験させられる。

上映後には、加害者の男を演じた俳優の小場賢さんが水井さんと並んで登壇し、トークを披露。小場さんは性犯罪を扱う映画への出演前は「被害者の方にも理由があるのではないかと思っていた」と率直な思いを語る。しかし被害者の感情に迫る映画の描写に触れ、「性暴力に関する本などを読んだ」と心境の変化を明かし、女性への暴力をなくすために男性が主体となって取り組む「ホワイトリボンキャンペーン」への関心などについても話した。

<水井真希監督と主演男優 小場賢氏 ©Japan In-depth 編集部>

今年は有名大学の学生による集団わいせつ事件や、2年に渡り女子中学生が監禁されていた事件、そして2世タレントの女性への暴行事件など、女性に対する性的暴行に関するニュースがセンセーショナルにメディアを賑わせた印象がある。

映画上映後に開かれたシンポジウムには、水井監督をはじめ、ジェンダー研究の牧野雅子氏、弁護士の白木麗弥氏、女性とアディクション研究会の田中紀子氏、そして筆者が参加した。

シンポジウムでは、性被害を扱った事件のニュースの中で、「被害女性はこんな部屋に監禁されました。実際に同じタイプの部屋に入ってみると、壁はこのように、(何かあれば)声が隣に聞こえるくらいの薄さです。」とか、「(酩酊した)女性たちは路上に座り込み、中には失禁している人も・・・・」などと興味本位の報道が後を絶たないことが指摘された。特にワイドショーでは、被害状況を必要以上に詳細に伝え、被害者への配慮を欠いているものが少なくないと問題視する声が上がった。

牧野氏は、「1980年代から性犯罪をポルノとして楽しむ報道は批判されてきた。」と指摘。しかし近年、人々の興味を煽るタイトルをつけた記事がSNSで急速に拡散するなど、ネット上で事件自体を楽しむような傾向が高まっており、被害者が適切な支援や保護が受けることができていないと話した。

テレビや新聞はタブロイド紙や写真週刊誌などと比べある程度配慮をしているが、ワイドショーは制作会社に取材やVTR作成が「丸投げ」されており、視聴率重視で興味本位の内容になる危険性が高い。だからこそ、発注元であるテレビ局のチェック機能の強化と、外部スタッフの教育が必要だ。

またネット上で人気の「まとめサイト」は、事件に関する情報を詳細に集め拡散するため、被害者は2次被害に遭う。こうしたサイトを運営する企業に自主規制を求めていく必要もあるだろう。

こうした環境の中、再犯防止に向けては、加害者の「同意があればいい、とか、こんな女は被害に遭ってもいい。」といった間違った思い込みを正す教育が必要だ。さらに性の問題についてタブー視せず、家庭や学校できちんとした教育をすることも大事だとの議論もあった。

<水井真希監督 ©Japan In-depth 編集部>

被害の経験を持つ水井監督は、被害者にならないための教育プログラムについては、どれだけ気をつけても被害に遭うことがあるし、自分が強くなっても別の人に対象が移るだけで「あまり意味がない」と話す。その上で「加害者になりうる人に予防教育」をすることが性犯罪を無くす一番いい方法だと力を込めた。

下着泥棒逮捕のニュースで、被害者の盗難にあった下着が警察署の床にずらっと並べられている映像をニュースで見たことがあるだろうか?盗まれた下着をすべて社会に晒されることで被害者は二重の苦しみを味わうことになる。

性に関わる犯罪に関しては、これまで被害者への配慮が十分といえないことも多く、それがSNSによってさらに無秩序に広がる危険性が年々増している。報じる側、そして情報を受け取る側も何が性犯罪の予防につながるのかという視点で今一度考えてみることが必要なのではないか。

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