数字に強い営業マンもつい誤解しがちな4つの会計センス

数字には強い、数字は上げている、と自負する営業マンでも必ずしも経営層から良い評価をされているとは限りません。それはなぜでしょうか?
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数字には強い、数字は上げている、と自負する営業マンでも必ずしも経営層から良い評価をされているとは限りません。それはなぜでしょうか?経営層の気にしているポイントは別のところにあるからです。ここではそのような「誤解しがちな4つの会計センス」をご紹介します。

誤解その1:営業成績は売上で決まる

原価4200円の商品を5000円で売ったA君と

原価200円の商品を1000円で売ったB君とではどちらが会社に貢献したといえるでしょう?

売上は圧倒的にA君の方が多いですから、A君と考える方も多いでしょう。しかし、2人は同じ800円の利益を会社にもたらします。しかも、その800円を獲得するのに掛けたコストは圧倒的にB君の方が少ないのです。経営ではより少ない労力で多くの利益を得ることが必要です。これを効率と言い、このケースではA君よりB君の方が効率がよい商売をしたと言えるのです。また、B君の扱った商品の方が利益率が良いという言い方をします。会社は1件の取引だけでなく、取引を継続的に行いますから、会社は利益率のよい商品に注力すべきです。

会社への貢献は、単純に売り上げの多寡ではなく、どれだけ利益をもたらしたか、そしてその利益をどれだけ効率的にもたらしたかで測るべきなのです。

→正解:営業成績は利益(利益率)で決まる

誤解その2:売掛金の回収まで考える必要はない

次のうち評価が高いのはどちらでしょうか?

A君 利益50万円の商品を売ったが、2か月たった今も代金を回収できていない。

B君 利益500円の商品を売って、約束通り1か月後に代金を回収した。

営業成績を利益で測るとはいっても、利益を上げるだけでよいと考えるのは早計です。顧客に利益率の良い製品を売っても、また、大きな利益を上げても回収できなければ絵に描いた餅です。なぜなら、仕入れ先や従業員には売掛金で支払いをすることはできないからです。そして、支払いが遅延すれば、信用を失います。企業の存続にもかかわります。支払いは現金でしかできません。会社にはとにかく現金が必要なのです。

そこまで考える営業マンが評価されるのです。

B君は500円の現金収入をもたらしましたが、A君は1円の現金収入ももたらしていません。「回収するまで売り上げではなく、利益もない」ということを肝に銘じるべきです。会社としても、利益だけでなく、回収率も営業マンの評価基準に含めることをお勧めします。

会計や簿記を学ぶとつい発生主義会計が身についてしまいますが、会社内部では常に現金収支で物事を見るようにしたいものです。

→正解 : 回収して初めて売上、利益が実現できたと心得る

誤解その3:売り逃しを心配してつい在庫を多く持とうとする

営業マンのいちばんの心配は、手元の商品が売れないことで、次が、売れるのに売る商品が手元にないことではないでしょうか?そのため、売れると判断した商品は製造部門や調達部門に対してついつい多めに要求することになります。

しかし、在庫というのは、商品への投資です。すぐに売れればいいのですが、見通しが甘く売れ残るとそこに資金を眠らせるということになります。

在庫は時間が経つと劣化や流行遅れ(陳腐化)により、最初の販売価格では売れなくなります。

また、管理コストもかかります。倉庫のスペースを借りていれば賃借料が発生しますし、上記の劣化などを起こさせないため管理のための人件費がかかります。とくに、日本では土地が一番の希少資源です。売れない商品(死に在庫)を置いておくスペースは非常にもったいないと言えます。

全ての商品の在庫を常にゼロに保つことはできないにしても、在庫がこのように「金食い虫」であることはいつも念頭に置いておきたいものです。

→正解 : 在庫は会社の金食い虫であることを理解して在庫低減に協力する

誤解その4:売り切って万々歳

在庫は金食い虫だからと言って、売り切れたら「ノルマ達成、万々歳!」で褒められるのでしょうか?

なかなかそうもいかないところが営業マンの辛いところです。

売り切れても、まだ買いたい人がいる状態、つまり売り逃し、欠品を起こしている状態を、「機会損失」と言います。その損失は、売るものがあれば得られたであろう利益として計算されます。たとえば、A社の製品とB社の製品が性能に特に大きな違いがない場合、A社の製品が売り切れで店頭になければ、A社の製品を買いに来た人もB社製品を買って帰ることでしょう。本来なら得られたそのA社製品の粗利益が、A社にとっての機会損失です。

特に今は、製品を実際に使った人がその製品の価値を自らのメディアで評価してくれる時代で、1人の消費者の背後に100人くらい消費者がいると考えてもよいわけですから、これは会社にとって非常に大きな損失です。

ですから、機会損失を発生させた営業マンの評価はそのぶんだけ低くなると考えましょう。逆に言うと、この目に見えない機会損失をしっかり把握できる会社が強くなっていくはずです。

在庫は多すぎても少なすぎてもダメで、絶妙なコントロールが必要なのです。

→正解 : 売り逃しによる損失を考え、常に市場と在庫の状況を的確に把握する

営業マンなら、利益率、資金回収、在庫の無駄、機会損失という会社全体の資金や利益に貢献する4つの会計センスを身につけてこそ、数字に強いといえるのです。

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