テックワールドにおける「GENDER格差」とは?

テックワールドの女性の役割の底上げを試みるならば、意識的に女性主体のビジネス育成プログラムや企業内の女性比率引き上げの法規制などをしていくのが、初めの一歩としては正しいのかもしれない。

6/8-6/12にかけて開催されたAppleの「Worldwide Developers Conference」では、アプリのアップデイト以上に、キーノートで女性がプレゼンテーションに立ったことが注目された。WWDCのステージにキーノートとして「Apple Pay」のVPのJennifer Baileyと、アプリの説明を行ったSusan Prescottという、2人の女性が立つのは、2010年以来5年ぶりということで、地元のSF Chronicleは、Googleも含めて、シリコンバレーのテックジャイアント達も、社員の男女数の格差に、何らかのアジャストメントをしようとしていると報じていた。

米国では、カンファレンス会場の男女のトイレの長蛇の列の有無によって、業界の男女格差を判断するが(笑)、マーケティング関連のカンファレンスではテック業界とは反対に、女性用トイレに長蛇の列ができる。米国のマーケティングやPublic Relationsの業界はとにかく女性ばかりで、うちの義理の娘たち(アメリカ人)は、私の日本でのマーケティング関連のコンファレンスの写真やスピーカーのリストを見て、女性が異常に少ないことに驚愕している。

いまさら言うまでも、シリコンバレーにおけるテック業務従事者数の男女格差は非常に大きい。テック以外の業務にはもちろん女性は多く勤務しているが、全体の印象も含めて、シリコンバレーでは男女格差が目立つ。以下はテックジャイアントのテック業務とリーダーシップポジションにおける女性従事者の比率である。

•Apple:テック業務に従事する女性20%

•Google:テック業務に重視する女性18%

•Microsoft:テック業務に従事する女性17%

•Apple:リーダーシップのポジションに従事する女性28%

•Google:リーダーシップのポジションに従事する女性22%

•Microsoft:リーダーシップのポジションに従事する女性18%

要は全体の2割以下しか女性がテック業務についていないというのが現時点でのリアリティである。これは、シリコンバレーの元締めともいうべきSand HillのVCたち(Caucasianの男性がマジョリティ)の無意識あるいは意識下の「自分達とは異なるグループに投資することへのためらい」といったことに起因するように思える。彼らが投資するスタートアップや企業を見れば、彼らが何を重視しているかがよく見える。はっきり言えば、マイノリティ(アジア系を除いた非白人グループや女性)と、さらにシニア層にはお金を出さない。女性を含むマイノリティグループがテック業界でスタートアップとしてビジネスしにくい大きな理由は、Capitalへのアクセスが難しいという点である。いろいろな記事でも取り上げられていた1つの事例だが、ベイエリアのVCたちに、50代のアフリカ系アメリカ人女性が、ヘルスケアに関するビジネスプランをピッチした際、VCたちはその容姿(彼女の身体は非常に大きい)を見ただけで、最初から聞く耳を持たず、彼女は非常に失望したとインタビューに応えていた。

こうした中で、Intelは2020年までに、自社内のDiversityの課題解決のために、マイノリティの就労比率改善(24%の女性比率を米国就労女性比率の47%に、ヒスパニックとアフリカ系アメリカ人比率も12%を26%に引き上げる)に、3億ドルを使うと宣言した。また6/8、Intelは、シリコンバレーのカルチャーにチャレンジするかのように、女性とマイノリティによるテクノロジースタートアップのための投資ファンドとして1億2500万ドルを供出することを発表した。

このファンドの要件は、スタートアップ企業は、女性かマイノリティが創設者またはCEO、あるいはトップ経営陣に少なくとも3人の女性かマイノリティがいることが必須条件となっている。すでに Venafi(cybersecurity firm)、CareCloud(Internet software for the health industry)、Brit + Co.,(provides classes and an online market for selling do-it-yourself products)、Mark One(makes a "smart" cup that analyzes the nutritional content of beverages)といった企業がファンドを得ている。Intel CapitalのVPのLisa Lambertは、「これは単なるソーシャルプログラムではなく、ビジネス機会として、お互いに成長するためにしっかりファンドを見極めていく」と、明解に趣旨を語っている。Intel 以外では、AOLが女性によるスタートアップに1000万ドル、ComcastはマイノリティのスタートアップへのSeedファンディングとして2000万ドルといったファンドがあるが、NPOではなく、For Profitのマイノリティによるスタートアップへの投資ファンドは、稀である。

テックワールドに従事する、あるいはリーダーシップポジションに、女性も含めたマイノリティが少ないという現実には、社会構造およびカルチャーも含めた複雑な要素が絡み合っていて、一刀両断に切れる問題ではない。また、一口にマイノリティといっても、女性問題と人種的な問題を同じ俎板で料理することは出来ない。ただし、ここにきてGeneration Y & Zといった若年層は、Genderや人種的な抵抗感はかなり少なくなってきており、今後こうした格差は縮まっていく可能性があると思う。彼らには、ステレオタイプな既成概念、あるいは固定概念はなく、様々なことに「Authenticity & Transparency」を求めており、企業もこうしたこれからの中心世代への対応を確実に迫られている。

以下は、米国の女性のCEOのトップ10のサラリーのリストである。調査では340社を対象とし、女性のCEOは17人しかリストには入っていないが、2014年のCEOのサラリーの中間値は、男性が1040万ドル(0.8%減)、女性は1590万ドル(21%増)と、女性CEOのサラリーは男性より大幅に上昇中である( Equilar & The Associated Pressによる)。人数的には女性CEOは5%しかいないが、金額は決して悪くはない。実績をたたき出すと、男女差は関係なくなるということを証明している。

No. 1: Marissa Mayer, Yahoo:4210万ドル(69%増)

No. 2: Carol Meyrowitz, TJX Cos., :2330万ドル(13%増)

No. 3: Margaret "Meg" Whitman, Hewlett-Packard:1960万ドル(11%増)

No. 4: Indra Nooyi, PepsiCo:1910万ドル(45%増)

No. 5: Phebe Novakovic, General Dynamics:1900万ドル(15%増)

No. 6: Virginia Rometty, IBM:1790万ドル(28%増)

No. 7: Marillyn Hewson, Lockheed Martin:1790万ドル(13%増)

No. 8: Patricia Woertz, Archer Daniels Midland:1630万ドル(138%増)

No. 9: Irene Rosenfeld, Mondelez International:1590万ドル(14%増)

No. 10: Ellen Kullman, DuPont:131万ドル(1%減)

自らを振り返ってみても、過去35年間のキャリアは、当初女性を守る法的規制もなく(男女雇用平等法の前だったので、現代のように女性差別を差別と感じることすらなかった時代)、常に道なき道のき密林を、手刀だけで切り開いてきたような感があり、自分が通ってきた道を他の女性に薦める気はさらさらない。また、そうする必要もないほど、社会的にも文化的にも、Genderはほとんど意識する必要がなくなり、多くの女性のキャリアの問題は、「育児と仕事の両立」に焦点が移っている。財政的にも大きな負担を抱えながら育児と仕事を両立させている女性達は、上述のYahooのMayerのような高額所得の女性CEO(多くのサポートを抱えられる財力のある)の発言や行動への見方は厳しい。

テックワールドの女性の役割の底上げを試みるならば、Intelのファンドのような取り組みも含めて、意識的に女性主体のビジネス育成プログラムや企業内の女性比率引き上げの法規制などをしていくのが、初めの一歩としては正しいのかもしれない。数を増やさない限り、「玉石混交」のように、「玉」が生まれてこないのは世の常で、早くより多くの「玉」を増やすために、「石」の絶対数が必要だと思う。

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