特急〈くろしお〉381系フォーエヴァー

毎日新聞によると、JR西日本和歌山支社は、特急〈くろしお〉用381系の運転を2015年秋の予定で終了するという。2015年最初の記事は、特急〈くろしお〉の歴史を振り返ってみよう。

2013年3月2・3日に運転された381系団体列車〈なつかしのくろしお〉。

毎日新聞によると、JR西日本和歌山支社は、特急〈くろしお〉用381系の運転を2015年秋の予定で終了するという。

2015年最初の記事は、特急〈くろしお〉の歴史を振り返ってみよう。

■準急列車として廃止されたあと、特急列車として復活

和歌山県にお住まいの方々にとって、〈くろしお〉は愛着がある列車だと思う。

この列車が産声をあげたのは、国鉄時代の1950年10月1日で、当時は白浜口(現・白浜)―天王寺間を結ぶ準急〈黒潮〉だった。1956年11月19日から列車愛称をひらがなの〈くろしお〉に改称され、1964年10月1日のダイヤ改正をもって、いったん廃止された。

先頭車キハ81形は、1972年秋より特急〈くろしお〉に使われ、6年後に引退した。

1965年3月1日より、名古屋―天王寺間の特急(キハ80系使用)として復活し、紀伊半島を縦断した。当初は1往復のみ運転だったが、1967年10月1日のダイヤ改正で新宮―天王寺間、1968年10月1日のダイヤ改正で白浜―天王寺間の列車をそれぞれ新設し、大阪方面から南紀へ訪れる観光客のサービス向上を図った。

■直流電化開業前から電車の営業運転を開始

国鉄は1978年10月2日のダイヤ改正で、紀勢本線新宮―和歌山間200.7キロの直流電化開業と、同区間を走行する381系特急形電車、113系近郊形電車の投入もそれぞれ決定した。

381系という特急形電車は、カーブの通過速度を大幅に向上できる振子車両で、地上設備の改良工事を施した区間のみ本領を発揮できる。1973年7月10日に特急〈しなの〉(おもに名古屋―長野間を結ぶ)にてデビューし、気動車時代に比べ、大幅なスピードアップが実現した。紀勢本線もカーブが大変多く、381系にとっては、"うってつけの仕事場"である。

本来ならば、電化開業日に電車の営業運転を開始させるものだが、ダイヤ改正を待たず、同年9月5日から普通列車の一部を113系化。同年9月15日から特急〈くろしお〉の381系運転も始まり、わずか1週間で気動車の運転は、名古屋―天王寺間と週末運転列車の各1往復のみとなった。

同年10月1日、名古屋発天王寺行きの特急〈くろしお1号〉は、途中の新宮でキハ80系(気動車)から381系(電車)に乗り換える変則運転となり、翌日の電化開業に備えた。

この電化開業により、特急〈くろしお〉のエル特急化及び、名古屋―新宮間を廃止。代替列車として、名古屋―紀伊勝浦間に特急〈南紀〉を新設した(ダイヤ改正前の〈南紀〉は、3段式B寝台車つきの普通列車だった)。

■振子区間は白浜―和歌山間のみ

同年10月2日のダイヤ改正で、エル特急〈くろしお〉全列車が381系の運転となり、白浜―天王寺間166.8キロを最速2時間06分(表定速度79.4km/h)で結び、気動車時代に比べ大幅スピードアップが図られた。特に紀勢本線紀伊田辺―和歌山間及び阪和線和歌山―天王寺間は複線なので、381系の性能をいかんなく発揮できる。

しかし、新宮―白浜間は急カーブの多い区間が存在した。国鉄は「振子車両によるスピードアップが期待できない」と判断し、振子運転をしない方針としたので、同区間95.2キロの最速列車は1時間44分(表定速度54.9km/h)を要した。阪和線も直線区間が多く、スピードを出しやすいので、振子運転をしていない。

381系化当初は9往復(定期7往復、臨時2往復)だったが、1980年10月1日のダイヤ改正で3往復増発。白浜―天王寺間1往復については、途中停車駅を和歌山に絞り、同区間を1時間59分(表定速度84.1km/h)で結んだ。

"最速〈くろしお〉"は、乗車率がふるわず、1984年2月1日のダイヤ改正で停車駅を増やした。また、381系化後は全列車9両編成で運転されていたが、季節によって乗車率に差があるため、同日より閑散期に2両減車となった。

さて、同年9月1日より、天王寺―日根野間で〈ホームライナーいずみ〉の運転を開始(ヘッドマークは白幕を使用)。エル特急〈くろしお17・21号〉天王寺行きの回送列車を旅客列車化したもので、乗車整理券300円を払うと空いている席に坐れる。同じ料金でグリーン車も利用できるので、乗客から好評を博した。

〈ホームライナーいずみ〉は、1986年11月1日のダイヤ改正で、運転区間を天王寺―和歌山間に変更するとともに、列車愛称を〈はんわライナー〉に改称。2011年3月12日のダイヤ改正まで、25年にわたり運転された。

■エル特急〈くろしお〉に485系を投入

エル特急〈くろしお〉は、1985年3月14日のダイヤ改正で4往復増発された。車両は381系を増備せず、4つの車両基地から485系をまわした。振子車両ではないので、紀勢本線内では飛ばせず、停車駅を急行なみに増やした。このダイヤ改正で廃止された"急行〈きのくに〉の代替列車"という意味合いが強い。

485系使用列車は4両編成で、グリーン車は連結されていない。多くの列車は白浜―天王寺間を8両編成で運転されるため、4号車と5号車の通り抜けが容易にできるよう、中間車の先頭車化改造を行ない、クハ480形が登場した。

1986年11月1日のダイヤ改正で、同じ381系を使用するエル特急〈やくも〉の短編成化に伴い、一部の車両がエル特急〈くろしお〉にコンバート。485系はお役御免となり、エル特急〈北近畿〉などに転用された。

1987年4月1日、国鉄が分割民営化され、エル特急〈くろしお〉はJR西日本の列車となった。

■特急〈スーパーくろしお〉登場

国鉄分割民営化から2年後の1989年7月22日、阪和線と関西本線をつなぐ連絡線の完成により、エル特急〈くろしお〉に大きな変化が訪れる。

1つ目は、京都・新大阪発着列車が登場し、11年ぶりに新幹線接続列車となった。

2つ目は、紀勢本線和歌山―新宮間の列車番号を「和歌山から新宮方面が奇数」、「新宮から和歌山方面が偶数」に変更した。市販の時刻表も通常は「下り」「上り」の順だが、JR西日本紀勢本線に関しては逆となった。

特急〈スーパーくろしお〉は、のちに381系リニューアル車と同じ塗装に変更された。

3つ目は、381系のグレードアップ改造車による特急〈スーパーくろしお〉の登場。新宮方先頭車をパノラマグリーン車にして、紀州路の海岸美をより一層楽しめる。塗装も国鉄色からホワイトをベースに、クロームイエローとトリコロールレッドを組み合わせ、明るい感じに仕上がった。

特急〈スーパーくろしお〉用増結車(右側)。7号車は白浜寄りの貫通路をふさいでいる。

特急〈スーパーくろしお〉は6両編成で登場したが、のちに増結用の3両も用意され、京都・新大阪―白浜間は多客期9両編成の運転とした(6号車と7号車のあいだは、車内の通り抜けができない)。

■283系が登場するも、1度も増備されず

283系。パノラマグリーン車の前面は、イルカっぽく見える。

JR西日本では、紀勢本線用の新型特急形車両283系を投入し、1996年7月31日に特急〈スーパーくろしお・オーシャンアロー〉としてデビューした。"特急〈スーパーくろしお〉のグレードアップバージョン"といったところで、381系の自然振子を改良した制御つき自然振子の採用により、乗り心地が向上し、併せて最高速度も130km/hとなった。

紀勢本線和歌山―新宮間の改良工事完成に伴い、1997年3月6日にダイヤ改正を実施。白浜―新宮間も振子区間となり、最高速度の向上も相まって、所要時間の短縮を図った。併せて、特急〈スーパーくろしお・オーシャンアロー〉は、「特急〈オーシャンアロー〉」に改称された。

パノラマグリーン車なしの〈くろしお〉用381系は、2012年で勇退。

283系は1度も増備されず、1998年11月から2年かけて、エル特急〈くろしお〉用の381系が一部を除きリニューアルされた。特急〈スーパーくろしお〉用もグリーン車の座席更新などの改造や塗装変更を受けた。

■287系の投入で、381系の一部は転属及び廃車

JR西日本は2010年3月13日のダイヤ改正より、〈しらさぎ〉を除き「エル特急」の呼称をとりやめ、「特急」に統一された。ただし、ヘッドマークと行先表示幕の「L」マークは残った。

287系は、北近畿ビッグXネットワーク特急用にも投入されている。

2012年3月17日のダイヤ改正より、特急〈くろしお〉の一部に287系(振子車両ではない)が投入される。併せて列車愛称の整理も行ない、紀勢本線の電車特急を〈くろしお〉に統一。市販の時刻表では、287系を「新型車両」、283系を「オーシャンアロー車両で運転・パノラマ型グリーン車」、381系の旧〈スーパーくろしお〉編成のみ「パノラマ型グリーン車」と案内した。

同年6月1日より、"白浜〈くろしお〉"(京都・新大阪―白浜間運転)は287系に統一された。現在も287系は、白浜以南には乗り入れていない。余剰となった381系は、廃車もしくは、北近畿ビッグXネットワーク特急にコンバートされた(参考までに、381系は2011年3月12日からしばらくのあいだ、287系投入までの"つなぎ役"として、北近畿ビッグXネットワーク特急に1度起用されている)。

283系と287系の種別幕。〈くろしお〉の書体は381系絵入りヘッドマークを踏襲。

特急〈くろしお〉の381系は、2015年秋で37年の歴史に幕を閉じる予定だ。車両の絵入りヘッドマークは見納めとなるが、列車愛称幕に表示される〈くろしお〉の書体は残る。381系の存在感が大きいという表れで、JR西日本和歌山支社の思い入れも強いことがうかがえる。

Yahoo!ニュース個人より転載)

注目記事