小田急電鉄30000形リニューアル車EXEα

車両愛称のEXEは、快適な通勤、楽しい旅行を支援する「素敵で優秀な特急列車」という意味が込められている。

30000形EXEαも岡部憲明アーキテクチャーネットワークが手掛けた。

小田急電鉄(以下、小田急)は登場から20年経過した、特急ロマンスカー30000形EXE(エクセ)のリニューアル車が登場。デザインや機能を一新したことによる、プラスアルファの要素が加わったことから、車両の愛称も「EXEα」に変わった。

■30000形EXEの軌跡

30000形EXE。

30000形EXEは、30年以上第一線で活躍してきた3100形NSEの置き換え用として、1996年1月に登場。観光とビジネスの双方に対応することや、運行方法の多様化を図るため、車体を通勤形電車と同じ20メートル車にして定員を増やし、6両車(1~6号車)と4両車(7~10号車)の2つをつないだ10両編成とした。

車両愛称のEXEは、快適な通勤、楽しい旅行を支援する「素敵で優秀な特急列車」という意味が込められている。

同年3月23日のダイヤ改正にデビュー。野中俊昭運転車両部課長によると、当初は分割併合作業を容易に行なうための自動幌(6・7号車)やコンプレッサーの不具合が度々発生し、徹夜で直していたという。

新しい発想の車両は思いのほか厳しい船出だったが、手塩にかけて育て上げた苦労は、利用客増加(特急ロマンスカーの年間利用客数は約1,300万人)のほか、1996年度にグッドデザイン賞、2007年度にはロングライフデザイン賞をそれぞれ受賞したことで、実を結んだ。

デビューから20年を迎えた2016年春、第1編成が日本車両(愛知県豊川市)に"里帰り"し、半年間にわたるリニューアル工事を受けた。デザインや機能を一新することで、プラスアルファの要素が加わる「EXEα」として、鉄路に新風を吹かせる。

■「渋い」から「強烈」へ

エクステリアでもっとも注目されるのはカラーリングであろう。30000形EXEは光線によって微妙に変化するハーモニック・パールブロンズを基調に、アッパーレッドをアクセントカラーに用いられていた。

力強さを印象づける30000形EXEαのカラーリング。

一方、30000形EXEαはムーンライトシルバーを基調に、それを引き立てるインクメタリックグレーの組み合わせとなり、迫力とスピード感を強調し、強烈なインパクトを与えている。また、アクセントカラーとして、赤味の増したバーミリオンオレンジとホワイトが用いられた。運転車両部によると、ビジネス特急向けの車両なので、シャープなデザインにしたという。

前面はヘッドライト(前部標識灯)をシールドビームからLEDに更新されたほか、列車愛称などを表示するヘッドマーク(3色LED式)の撤去に踏み切った。50000形VSEは当初からヘッドマークがないことや、手入れや検修の手間を省いたそうだ。

■乗務員の意見を採り入れた貫通形先頭車

乗降用扉の脇に号車数字が大きく描かれている。

車体側面へまわってみると、60000形MSEと同様に、号車数字が大きく表示され見やすい。1号車を「01」、2号車を「02」などしているのは、50000形VSEから続く"新しい伝統"といってよい。ただ、全車指定席とはいえ、号車数字の個性が強いせいか、車椅子のピクトグラムが控えめに映る。多くの鉄道車両や路線バスで見慣れた、青地に白いピクトグラムのステッカーにしたほうがわかりやすい。

一部の車体側面にはEXEαのロゴが貼付されたが、画像のタイプは誤植。30000形の車両愛称に「Super Express」はつかないからで、後日改修するそうだ。

行先表示器の列車名と行先は白で表示。

行先表示器は列車名と行先を一括表示する3色LEDから、60000形MSEと同じ、列車名と行先を交互で表示するフルカラーLEDに更新された。

貫通形先頭車は、運転席(進行方向左側)に側窓を新設。

エクステリアで目立つのはカラーリングのほか、貫通形先頭車の6・7号車は乗務員の要望により、運転席部分の進行方向左側に側窓が設けられた(進行方向右側はない)。今まで安全確認などの目的で、後方を眺める場合、1度席を外さなければならなかったが、側窓の設置により、すぐに状況を確認できるようになった。

冷房装置は冷媒をフロン系からノンフロン系に変えたほか、低騒音タイプの機器を搭載。能力については従来と同じ1台あたり13.37kWh(1両につき3台搭載)である。

列車の駆動力を作るVVVFインバータ制御は、素子をIGBT(Insulated Gate Bipolor Transistor)から有料特急車両初のフルSiC(シリコンカーバイト)に換装され、消費電力の低減を図っている。また、6両車の3号車を付随車から電動車へ、4両車の9号車新宿寄りの台車にモーターが搭載されたことで、前者は2M4T(Mは電動車、Tは付随車)から3M3T、後者は実力1.5M2.5Tから純粋な2M2Tに変更された。

主電動機も開放式から全密閉式に変更され、風切音を低減したほか、編成全体でブレーキ力を最適にするよう、ブレーキネットワークを新設し、回生ブレーキの効率をあげている。

機器の更新や新設により、快適性と環境面が向上された。

なお、30000形EXEαの2次車以降は電動車(デハ)にも滑走防止装置が搭載される予定だ(クハとサハは搭載済み)。

■座席にコンセントはなし

車内に入ってみると、50000形VSEや60000形MSEと同じく木目調を採り入れられており、直接と間接を組み合わせたLED照明も相まって、気品と落ち着き感を醸し出している。純粋な新型車両と見間違えそうだ。

客室は旅客情報案内装置を3色LED1段表示から、60000形MSEと同じフルカラーLED2段表示に更新されたほか、通路のカーペットも50センチから75センチに広げて歩きやすくなった。そして、客室とデッキに防犯カメラが設置された。

2種類のラゲージスペース。

近年の"日本ブーム"により訪日外国人が増加しているので、一部車両の客室及びデッキには、ラゲージスペース(大型荷物置き場)を設置。スーツケースやゴルフバッグ(客室側のみ)などが置ける。このため、10両編成時の定員は588人から578人に減った。

リクライニングシートの形状は従来通り。

リクライニングシートはシートモケット、詰め物、ひじ掛け、インアームテーブル(1人掛けを除く)を一新。背面も60000形MSEに準拠し、ゴム製の傘入れと、コートや杖などがかけられるフックが設置された。また、座席の頭部側面にグリップが取りつけられ、くぼんだ部分に座席番号の点字シールを貼付し、目の不自由な乗客に対応する。

私が注目したのは、シートモケットだ。背面はブルーのみに対し、背もたれと座面はブルーとアイボリーのツートンカラーである。運転車両部によると、アイボリーは汚れの怖さがあるので、メンテナンスをしっかりやっていくという。

意外と言えばいいのか、客室にモバイル用のコンセントは備えられていない。車内で用いる電力を作り出す補助電源装置(4・6両車とも各2両の床下に搭載)は、劣化した部品の取り換えにとどめたため、定格出力も4両車140kVA(キロボルトアンペア)、6両車200kVAのままだからだ。

なお、30000形EXEαの2次車以降は窓側席に限り、コンセントを設置する予定だという。その際、車内で作り出せるコンセント電源の容量も決まっているので、"従来通りの定格出力で充分対応できるのか"については今後検討するそうだ。結論によっては、補助電源装置の換装も考えられる。

■使いやすくなったトイレ

ゆったりトイレと男子用トイレ。

5・8号車の洗面台はレール方向に配置。

デッキ部分も大幅に変わり、トイレは和式を廃止し、洋式のウォシュレット(温水洗浄機能つき便座)に統一された。

2号車は共用と女子用、2・5・8号車は男子用、5・8号車は身障者に対応した「ゆったりトイレ」がそれぞれ備えられている。

車販準備室は冷蔵庫などが設置される予定。

多目的室は折りたたみ式の座席が設置される予定。

3・9号車の売店は廃止され、車販準備室、多目的室、先述したラゲージスペースに変更された。多目的室はJR東日本の特急車両に比べると狭く、今後の整備に注目したい。

■乗務員室もリニューアル

乗務員室もホワイトを基調に、運転台とフロントガラスのピラーをブルーにして機能美を強調していたが、30000形EXEαでは60000形MSEに準じたインテリアとなった。

30000形EXEα非貫通車の運転台。

運転台のワンマスコンハンドル(力行とブレーキを一体化したもの)は、当初右手操作式だったが、2002年に登場した2代目3000形(通勤形電車)から左手操作式に変更されており、30000形EXEαもそれに合わせた。また、今後は防犯カメラのモニターを搭載するという(報道公開時点では未搭載)。

意外な点として、半自動ドア機能が当初から装備されている。運転車両部によると、新宿などの終着駅で車内の整備・清掃作業をする際、乗客が入ってこないようにするためだという。新幹線などでは一部の乗降用ドアを開けて、清掃中の札をかけているが、小田急では完全に締め切っている。

30000形EXEα貫通形先頭車の前面。

報道公開された30000形EXEαは一部の手直しや、機器の換装などで試運転に充分な時間が必要なため、営業運転開始は2017年3月の予定である。

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