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歴史の証人として凄まじい価値のある「チリの闘い」

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パトリシオ・グスマンの「チリの闘い」はとてつもない作品だった。

単なる傑作ではなく、作品自体が歴史の1ページの証人だ。

20世紀は映像の世紀と言われるが、この作品が捉えたものも20世紀を振り返る上で最重要の映像として扱われるような、そんなレベルのものだった。

本作は、1973年9月11日に勃発したチリ・クーデターが起きる過程を、与党(左派)・野党(右派)の政治家たちとそれぞれを支持する民衆の4つの勢力の動きを通して丹念にとらえている。

当時の世界で初めて自由選挙によって誕生した社会主義政権をアメリカの息がかかった右派と軍部が軍事クーデターで覆したこの歴史的大事件がいかにして引き起こされたのがよくわかる内容になっており、その暴動の最中にもカメラを持って撮影し、衝撃的なシーンも数多く記録されている。

このチリのクーデターは、一度ケン・ローチの手によって映画化されている。

2002年に、アメリカの同時多発テロ(9.11)をテーマにしたオムニバス短編集「11'09''01/セプテンバー11」でケン・ローチが担当したエピソードがこのクーデターに関するものだった。

同じ9月11日の大事件であるが、アメリカの立場が180度違うこの2つを対置させることで、被害者としてのアメリカというイメージから見る人を自由にし、忘れてはならない悲劇はアメリカの9.11だけではないというメッセージを込めた作品だった。

その他、コスタ・ガヴラス監督の『ミッシング』などもこのクーデター時代を背景にしている。現在公開中の『コロニア』も、このクーデター後のピノチェト軍事政権下のチリの拷問施設の物語だ。

本作ではそのクーデターが起こる数年前からの与野党の動きや民衆の反応などをつぶさにとらえて、悲劇へ至った道程を描き出している。単なる衝撃映像の連続ではない、平和革命を志した左派のアジェンデ政権がいかにしてクーデターの犠牲となるのか、その悲劇が引き起こされた「力学」を理解するのに大変有用な作品となっている。



本作は3部構成になっており、第1部は「ブルジョワジーの叛乱」、第2部を「クーデター」、第3部は「民衆の力」とそれぞれ名付けられている。第1部と第2部はアジェンデ政権が誕生し、巻き返しを図る右派勢力の工作とそれに対抗する左派与党と民衆、右派の煽動に利用される資産家の4勢力の動きを時系列で冷静な視点で観察している。

第3部はうってかわって、アジェンデ政権下での民衆の動きのみに焦点をあてて、労働者の団結やアジェンデ政権に対する期待や信頼、現実と理想の間で揺れる民衆を映し出す。第3部は叙情的な風景カットや音楽も挿入されていて演出スタイルもやや異なっており、監督が本当に描きたかったのはこの第3部なのではと思わせる

右派は左派政権を引きずり下ろすために様々な工作をするのだが、それがなかなか上手く行かず、追い詰められた末に武力行使に出るのだが、映画ではアジェンデ政権の失政や、譲歩案を出した際の支持する労働者との考えの相違など、左派側も一枚岩でない点も描いているのが興味深いところだ。

右派の工作や資本家のストライキも、労働者側の対抗策(トラックのストライキに対して労働者が団結して輸送の車をかき集めたりなど)で上手くいかず、双方ともに疲弊していく中で、工作ではアジェンデ政権を転覆させられないと踏んだアメリカと反アジェンデ勢力は、武力行使に及ぶことになる。軍部はほぼ反アジェンデ勢力だったために、クーデターは成功し、アジェンデは死ぬ。

本作の興味深い点は、ある勢力がこう動いた時に別の勢力がこうリアクションし、こういう力の均衡状態になった、そしてそこからさらにこのグループはこう考えるようになり、こんな行動を起こしたという、一連の経緯がわかりやすく描かれている点で、どういう力関係が働いてこのような悲劇が起きたのかの理解がしやすい。

クーデター最中の映像などは衝撃的であるが、むしろ本質はクーデターが起きるまでの「力学」の変化をつぶさに追いかけている点ではないか。

冷戦時代のアメリカの矛盾が噴出した事件でもあり(社会主義は暴力的な革命からしか生まれないとしていたアメリカが、暴力によって社会主義を妥当した)、その事件が引き起こされた経緯を映像によって記録している点は、映像の世紀と言われる20世紀の歴史の1ページとしてふさわしいものであるし、20世紀の大部分を覆った冷戦の矛盾を一身に描き出した作品としても、歴史的価値が大変に高い作品だ。

単に傑作というだけでなく、歴史的映像資料としも大変の価値作品だ。この映画はまさに歴史の証人と言っていい。

Film Goes with Net: 歴史の証人として凄まじい価値のある「チリの闘い」より転載