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二重のファインダー越しに見るフリーダ・カーロの姿。『フリーダ・カーロの遺品 -石内都、織るように』

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フリーダ・カーロはメキシコの現代絵画を代表する画家だ。その絵はどれ生々しさに加えてパワフルで、強烈なインパクトを与える。カーロは数多くの自画像を残しているが、どれも穏やかな顔をしていない。挑みかかるような険しい表情のものがほとんどである。
その所以を彼女の壮絶な生き様に見て取るのは容易だろう。幼いころに病にかかり片足が短くなり、通学バスの事故に巻き込まれて生死の境をさまよい生涯にわたって後遺症に苦しむことになった。有名画家のディエゴ・リベラと結婚したが、夫は妹とも関係を結ぶなど平穏とは言いがたい結婚生活を送ってもいる。政治活動にも熱心だったことでも知られる。その半生は2002年にサルマ・ハエック主演で映画化もされているが、その壮絶な半生をその情熱的な愛を中心に描かれている。

そんな彼女の遺品が死後50年経って公開された。その遺品の撮影プロジェクトに指名されたのが写真家石内都氏。本作はその石内氏のカーロの遺品撮影の過程を追ったドキュメンタリー作品である。

ドキュメンタリーは今そこに起きている事物を切り取ることができる。本物であることの迫力や現前性がドキュメンタリーの強みである。しかし本作で題材となるのは、すでに過去の人となった人物である。フィクションで再現するほうが得手かもしれない。サルマ・ハエックが実際にフリーダ・カーロを演じているが、いくらかのアレンジをしているものの(幼少期の病の影響で左右の足の長さが違うことなどは、映画では採用されていなかった)、あのような情熱的な人物だったのだろうというイメージに沿ったものだった。
ドキュメンタリーで過去の人物を描く場合は、縁故のあった人への証言や、史料にあたるのを中心にしていくが、本作でクローズアップされるのは、遺品である。

本作はカーロの遺品を撮る石内氏がもう一人の主人公となる。カーロの衣服やコルセットなどの遺品が大量に発見され、その撮影プロジェクトに招かれた石内氏はメキシコに飛び、彼女の遺品に接していく姿を映画は映し出す。石内氏は自らのカメラで遺品を写し、その様子を小谷監督はまたカメラで移しだす。この作品は二重のフィルターによってフリーダ・カーロを見つめる作品とも言える。
石内氏は映画の冒頭で、フリーダ・カーロにあまり興味がなかったと語っている。しかし遺品と向き合い、カーロが好んで着ていた民族衣装に日本の着物との共通点を見出し、服用していた薬から彼女の病気の苦しみに思いを馳せていくうちに、徐々に共感できる部分を見出していく。石内氏のその心の変遷は間違いなく、現前性がある。その意味で本作は過去ばかりを描こうとしているわけではない。この作品はカーロの知られざる半生に迫る、というような構えで作られておらず、石内氏が変わっていく過程を追った作品と言うべきかもしれない。
さて、実際に石内氏はカーロの遺品に何を見出したのか。死者は語る言葉を持たないが、画家であった彼女は残した作品によって内面を雄弁に語っていたであろう。アーティストは死後もその作品によって語り、また語られる。しかし、彼女残したものは作品だけでなく、大量の民族衣装や生活用具も遺品として残していた。その遺品、とりわけ普段着として愛用されていた民族衣装の細やかな修繕の跡などから、フリーダ・カーロの穏やかさや繊細さを見て取っている。
実際に石内氏が撮った遺品の写真にもそれが現れている。自然光を利用して撮影された遺品の数々は、穏やかな陽光
の影響を受けて清廉な印象を与える。常時コルセットを身につけていたカーロはかゆみ防止のために穴を開けていた。その穴は彼女の苦しみの象徴でもあろうが、石内氏はその穴から青空を覗きこませた。青色はメキシコでは青色は幸運を招き入れる色と言われているそうだ。現在美術館になっているカーロの生家の壁も鮮やかな青だ。そんな穏やかさを石内氏は遺品から見出した。

そうしたフリーダ・カーロ像が正しいかどうかは本作は問題にしていない。本作のテーマはカーロの真実ではない。石内都とフリーダ・カーロという二人の稀有なアーティストが時を超えて共鳴しあうことを描いている。

2015年8月8日シアター・イメージフォーラム他にて公開
ドキュメンタリー映画『フリーダ・カーロの遺品 - 石内都、織るように』公式サイト

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