【インタビュー】『ミモザの島に消えた母』主演のローラン・ラフィットが語る役者としてのDNA

「原作は事前に読んでません。出演が決まった後も読んでいません。監督がストーリーを語るのであり、監督にビジョンに近づけたいと思っているからです」

今年のフランス映画祭でも上映された「ミモザの島に消えた母」が7月23日に公開される。本作は「サラの鍵」で知られるフランスの小説家タチアナ・ド・ロネの「ブーメラン」を原作とする、家族の秘密を題材にしたミステリードラマだ。

ミモザの島と呼ばれるノアールムーティエ島で30年前に謎の死を遂げた女性。その息子であるアントワーヌ(ローラン・ラフィット)と妹のアガット(メラニー・ロラン)は母の死の真相を知ろうとするが、父も祖母も頑なに口を閉ざす。家族を崩壊の危機にさらしながらも真相を知ろうとするアントワーヌは、やがて母の死の背景に家族の重大な秘密が隠されていることを知る・・・

このミステリアスかつ美しい家族のドラマの主役を演じるのは人気上昇中のローラン・ラフィットだ。コメディアンとしてフランス本国で絶大な人気を誇る彼は、2016年のカンヌ国際映画祭のセレモニーの司会を務め、同年のコンペ出品作「Elle(ポール・バーホーベン監督」でも重要な役どころを演じている。

6月にフランス映画祭のため、来日したローラン・ラフィットにインタビューする機会を得た。コメディアンとして名を馳せているが、本作ではシリアスな役にチャレンジしているラフィット氏に語ってもらった。

アントワーヌと私は随分違う

ーー今回主役で演じることになったアントワーヌというキャラについて聞かせてください。神経質で意志が強いキャラですが、ご自身との共通点はあるんでしょうか。

ローラン・ラフィット(以下ラフィット):アントワーヌと私は結構違いますね。共通点があるとすれば言外の意味、言わないことが私もアントワーヌも好きではないというところでしょうか。特に問題が合った時ははっきり伝えた方がいいと思います。でもアントワーヌは家族を傷つけても隠された秘密に迫ろうとしますが、真実を明かすことはいつも正しいというわけではないと思いますので、全てを隠さず言ってしまうのがいいは思わないですね。

ーーフランソワ・ファブラ監督はアントワーヌというキャラクターをラフィットさん自身をイメージして脚本を書かれたそうですが、俳優冥利につきますね。監督とは12年ぶりに一緒に仕事をしたそうですが、いかがでしたか。

ラフィット:監督から脚本をもらった時に、自分のことを考えて書いてくれたということは聞いていたので、気にいるといいな、逆に気に入らなかったらどうしよう、と考えてしまいましたね。もし自分が第3候補や第4候補だったら、気にしなくて読めたんでしょうけど。実際読んでみて、自分でもすごく気に入りましたし、上手く役のイメージにはまることができると思いました。

監督とはお互いにこの12年、どんな仕事をしてきたのか気にしていました。彼の最初の長編映画に出演させてもらったんですが、ストーリーを中心にシンプルに演出する彼のスタイルがとても気に入っています。(本作はフランソワ・ファブラ監督の長編3作目にあたる)

ーー原作を読み込んで役作りを行ったんでしょうか。監督がラフィットさんをイメージして書かれた作品ですが、どのように役に近づけていったのでしょうか。

ローラン・ラフィット:原作は事前に読んでません。出演が決まった後も読んでいません。監督がストーリーを語るのであり、監督にビジョンに近づけたいと思っているからです。監督が語りたいストーリーに私が乗っかるという必要があるので、あえて原作は読んでいません。

今回は特に役作りという役作りはやっていないのですが、すごく気をつけた点は、なんというか、順撮りではないので、各シーンでどういう状況にあったか、記憶をたどって継続性を持たせなければいけないので、今どういう状況だったか思い出すことですね。理想を言えば順撮りでやりたいのですが。なので脚本を何度も読み返して取り違えのないように撮影にのぞみました。

ーー共演者についてお伺いします。初共演の妹役のメラニー・ロランとすごく自然に兄妹に見えましたね。

ラフィット:彼女については、撮影前から多少は知っていたのですが、知り合ったのは撮影に入ってからです。とても大好きな女優さんで、繊細で、自発的でナチュナルというか、もろいようでいて実は芯の強い感じのそのバランスが絶妙ですね。テクニカルな女優という感じではなくて、自然体が魅力の女優ですね。またとても面白い人なんです、彼女は。すごくよく笑わせてくれましたよ。

あまりにも仲が良すぎて恋人に見えたらどうしようと二人で言っていたんですよ(笑)

自分のDNAはコメディにある

ーー今回かなりシリアスな映画で、アントワーヌも神経質な役どころですが、こういうタイプの役とコミカルな役とご本人としてはどちらがやりやすいのでしょうか。本国ではコメディアンとしてとても有名でらっしゃいますが。

ラフィット:どちらも簡単に演じられればいんですけども、私は天才ではありませんのそれぞれの苦労があります。ただ自分の元々のDNAはコメディの方にあると思っています。面白くなろうと思って意識してしまうと、コメディはうまくいかないことがあるので、そこは気をつけなければいけないし、実際にシリアスな作品も感動させようと思ってしまうと上手くいかないことがあります。

その辺りのさじ加減というか恥じらいというか、少し控えめな方が感動してもらえたりしますね。あまり感情を出し過ぎない、ということに気をつけています。

舞台が映画のテーマの重要な要素になっている本作の魅力

ーー映画の舞台となるノアールムーティエ島がとても美しく、作品の世界観とマッチしていますね。本土と島をつなぐ道が潮の満ち干きで見え隠れするなど、絶妙なメタファーになっています。

ラフィット:まさにおっしゃるとおりで、島もあの道も作品の立派な登場人物と言えると思います。私は場所やロケーションが重要性を持つというのはすごく好きなんです。登場人物が崩れていくと同時に環境や場所も崩れていくような、そういう関係性があったりするのがこの作品の魅力でもあると思います。島の魅力としてはとてもミステリアスで危険だけれどもとても美しい場所という感じですね。

風光明媚な島も魅力の1つだが、本作は家族メンバーそれぞれの葛藤をきっちりと描き分けて、観客に安易な敵を作らせない構成が巧みだ。父親や祖母のそれぞれの事情に、アントワーヌの娘の「秘密」も交わり世代間の価値観の違いも織り交ぜ、その価値観の違いゆえの愛のすれ違いを哀愁に満ちた眼差しで描いている。

ローラン・ラフィットは粗野にも繊細にも見える絶妙な芝居を披露しており、コメディだけでない芸達者なところを見せている。今後の活躍が楽しみな俳優の一人だ。

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