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クストリッツァの溢れ出る生のエネルギーが充満した『オン・ザ・ミルキー・ロード』

クストリッツァの魅力がぎっしりと詰まった、ファンの期待を裏切らない傑作だ。

2017年09月09日 09時52分 JST | 更新 2017年09月09日 09時52分 JST

LOVE AND WAR LLC

(C)2016 LOVE AND WAR LLC

スラップスティックなコメディ狂想曲かと思えば、牧歌的な愛の物語で、そればかりか戦争の愚かさ、虚しさを痛切に訴えてくる。宗教画のような厳粛さを備えながらも、ドタバタコメディのように騒々しい。

『アンダーグラウンド』や『黒猫・白猫』のエミール・クストリッツァ監督の新作『オン・ザ・ミルキー・ロード』はクストリッツァ監督の魅力がぎっしりと詰まった作品だ。

とある時代(おそらく90年代)の架空の村。多国籍軍と戦争中のこの村では砲弾や銃弾が飛び交う中で食事の用意をするような、戦闘と日常行為が隣り合わせだ。

その村のミルク運びのコスタは銃弾飛び交う山道を通り、兵士たちにミルクを届けている。コスタは牛飼いの家の娘、ミレナと恋仲だが、ある日その家に嫁いできた花嫁(モニカ・ベルッチ)と恋に落ちる。

多国籍軍の将軍に追われる身でもある花嫁を追って、軍の特殊部隊が村を襲い、2人は決死の逃避行をするはめになる。

あらすじを読むと、シリアスな愛の逃避行のように感じられるが、軽快なウンザウンザミュージックとともに、壊れた大きな古時計に巻き込まれる人物、狂騒的な結婚式やナイトパーティ、蛇やアヒル、馬や牛の家畜、ハヤブサなどの動物を使ったユニークなシチュエーションなど、とてつもなくエネルギッシュかつハイテンションで味付けする。

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旧ユーゴスラヴィアに起きた内戦の悲劇を幻想的な手法で描いた『アンダーグラウンド』を監督した際、クストリッツァは「セルビア寄りなのではないか」と批判されたことに辟易したと言う。

特定の勢力に肩入れしたような作品では決してない作品だが、この作品以降のクストリッツァの作品は無国籍感を増していく。今作の舞台は特定の場所ではなく、架空の村を舞台にしている。

しかし、作品に込められたものは変わっておらず、相変わらず人間の生きるエネルギーと、戦争の虚しさや愚かしさだ。無国籍感が増したぶん、かえって観る者に普遍的な感覚を与えることに成功しているかもしれない。

加えて今回は「終わったはずなのに、終わらない戦争」を描いている点も物語の寓意性と普遍性に説得力を与えている。

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今回の映画には、主要登場人物たちと同じくらいの存在感で動物たちが活躍するのも見どころだ。

CGで作った蛇以外は全て本物だそうだが、100キロ以上はあるだろう、大きな熊ともクストリッツァ自身が共演している。

地雷原を歩く羊の群れ、血の風呂に飛び込むアヒル、音楽に合わせてリズムを取るハヤブサなど、動物を用いた非常にシュールなイメージが頻出する。中でもミルクを飲む蛇のイメージはこの映画全体を貫く聖なるものの象徴だ。

笑いと涙、悲劇と喜劇、クストリッツァの魅力がぎっしりと詰まった、ファンの期待を裏切らない傑作だ。