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私的録音録画補償金の議論はどこから始めるべきか

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先週11/14に音楽や映像の85もの関連団体で構成されるCulture Firstが、著作物の複製に対する補償金制度である「私的録音録画補償金」に関する新たな提言を行いました。

私的録音録画補償金は、デジタル技術の発展により著作物の複製が容易になったことから、複製物が氾濫し、著作権者の権利を損なう恐れがあるので、録音・録画機器やCD-Rなどのメディアに一定の補償金をかけて徴収するというもの。メーカーが協力の名目で販売時に料金に上乗せして、それを各メーカーが私的録画補償金管理協会(SARVH)に支払い、そこから関連団体に分配されます。

この制度は1993年に始まりました。成立の背景はデジタル技術の発展によって複製が容易になったからですが、私的複製というものは著作権法30条に明記されている通り、私的な利用に限れば自由に無料で行うことができます。この制度が新設されたのは、コピー作品の氾濫で権利者が不利益を被らないようにする配慮です。

92年12月の著作権法改正によって、デジタル録音・録画機器と記録媒体で録画などを行う場合は著作権者に補償金を支払うように明記されました。こうして録画機やDVD-Rなどの記録メディアを購入する消費者から、メーカーが「協力(義務ではないんですね)」という形で徴収する形式となりました。該当の条文はここ。

条文に明記されている通り、補償金を払うのは厳密には記録機器とメディアで録画を実際に行う人ですが、この特定は容易ではありません。DVD-Rは映像・音楽以外のデータも記録可能ですから、著作物を録画するとは限りません。記録メディアに録画用(補償金あり)やデータ用(補償金なし)と記載が分かれたものが販売されているのはここに理由があります。現在はCPRM対応のメディアでないとデジタル放送を録画できないのですが、アナログ放送時代にはそうした制限もなかったので、データ用のメディアでも普通に録画できました。アナログ放送が主流の時代はこの補償金の徴収もメディアを購入するユーザーの「良心(?)」に任せていた状態でした。

そもそも録音・録画した人を特定して、きっちり徴収できるようなシステムでもなかったわけですが、ここにきて、Culture Firstが複製機能のあるもの全て補償金徴収の対象にしたいと言い出して、それは更なる混乱を生むのではと危惧しています。

現在の著作権法では「録音又は録画を行うもの」が補償金を支払うとなっていますが、録音・録画機能は、ストレージさえあれば何でも機能自体は持っています。スマホでもタブレットでも可能ですし、Dropboxやレンタルサーバーでも複製可能です。スマートデバイスが普及し、スマート家電なんて概念が出てきたので、もしかしたら、家庭のあらゆるものにストレージがつくのかもしれません。そうしたらなんでも補償金の対象になってしまいそうです。どうやって線引きをするつもりなのでしょうか。

DVD時代には録画用と明記させる方法を取ったわけですが、例えば録画用レンタルサーバとかサーバ事業者は明記すればいいのでしょうか。スマホにも録画用と非録画用とかできるんでしょうか。

しかし、「機能」ということで言えば、著作権者の権利を損なわない機能がすでに実現しています。放送でいえばダビング10のようなコピー制限機能ですね。アナログ放送時代にはこれがありませんでしたが、全てデジタル放送に切り替わった今なら録画に補償金をかける必要はそもそもあるのでしょうか。

日経新聞によると、JASRACの菅原会長がネット上の違法コンテンツの自動削除機能に関して「効率は上がっている」と語っているとのこと。コピーガード機能を設定し、違法コンテンツ削除もスムーズに実行可能であれば、権利者が著しく損害を被ることはないと考えるのが妥当ではないでしょうか。その上さらに補償金の徴収が必要な理由があるなら、Culture Firstさんはきちんと説明すべきです。

配布資料を見ても、その点については触れられておらず、補償金がスムーズに徴収できていないことのみを問題にしています。

どうも議論の前提が、いかにして補償金を徴収するかということになってしまっていて、補償金の是非に関する議論をすっ飛ばしているように見えます。

これでは一般やメーカー・事業者の理解を得ることは難しいでしょうし、行政も首を縦にふりづらいのではないかと思います(配布資料では対象機器や媒体を定めるのが内閣の政令によるという点も問題視しています。対象をCulture Firstの一存でいたずらに広げられることの方がよほど問題では)。

上述の配布資料の中で、補償金の意義についても言及されています。

「ユーザー」、「複製手段を提供する者」、「権利者」の三者の利益のバランスを考えることが必要です。

であれば、今回機能全てを対象にするという方針は複製手段を提供する者に対して厳しすぎるので、三者のバランスを補償金制度の是非の観点から議論し直す必要があるのではないでしょうか。