恐怖で人は動機づけられない。「TOMORROW パーマネントライフを探して」シリル・ディオン監督インタビュー

僕自身も小さな子どもがいて、何かしなければいけないという衝動を覚えたんです。それで映画を作ろうということになりました。

©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINÉMA - MELY PRODUCTIONS

「2012年、ネイチャーに21人の科学者グループが、人類が現在のライフスタイルを続けていくと、気候変動と人口増加により、人類が滅亡すると論文を発表した」

この衝撃的な発表から映画は始まる。なんとも恐ろしい話だ。このような見る人に、漠然とした未来への不安を煽るようなニュースやドキュメンタリーは過去にいくつも発表されてきた。

フランスで、ドキュメンタリー映画としては異例の大ヒットを記録した「TOMORROW パーマネントライフを探して」は、そうした作品群とは一味ちがう。ネイチャーの衝撃的な論文内容から映画は始まるが、決して見る人の恐怖を煽らず、むしろ世の中を変えていこうとするポジティブな空気に包まれている。

人を恐怖で動機づけるのではなく、前向きなパワーで変えていきたい。そんな思いが込められている本作。女優のメラニー・ロランと共同監督を努めたシリル・ディオン氏に話を聞いた。

恐怖を煽るのは、動機づけとして機能しない

―― 今回の映画の制作のきっかけはネイチャーの研究論文だったそうですが、論文を読んだ時の率直な感想をお聞かせください。

シリル・ディオン(以下ディオン):読んだ時は本当に不安でした。これが本当に事実なのか信じられませんでしたから、様々な科学雑誌を読んで、検証に時間を費やしました。その後、メラリー(・ロラン)にその話をした時に、その時彼女は妊娠していましたんですね。お腹に子を宿している状態で、彼女にそんな不安になるような話して、彼女は僕が頭がおかしくなったんじゃないかと思ったようです。彼女はとても強い人なんですけどね。僕自身も小さな子どもがいて、何かしなければいけないという衝動を覚えたんです。それで映画を作ろうということになりました。

本作の共同監督のメラニー・ロラン ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINÉMA - MELY PRODUCTIONS

―― 論文の内容はすごく恐怖を覚えたということですが、それとは逆に映画にはポジティブなメッセージに溢れているように感じました。例えば、映画も見る人の恐怖を煽るような方向で作ることもできたのではないかと思いますが、なぜこういうポジティブな映画にしたのでしょうか。

ディオン:たしかにそういう選択肢もあり得ましたね。実際に僕も、地球環境についてホラーとも言えるような警句を伝えるドキュメンタリーを見てきました。でも観客にとっては、それらは上手く機能していなかったように思うんです。ジョージ・マーシャルの「Don't Even Think About It: Why Our Brains Are Wired to Ignore Climate Change」という本には、我々がなぜ気候変動について、気づかないフリをしてしまい、考えないようになってしまうかについて書かれています。

本は脳に関する論文なのですが、あるカタストロフィに直面した時に、人は何が問題なのかわかっているのに、まるで問題などないかのように行動する心理的メカニズムがあるということを指摘しています。ですので、我々はネイチャーの論文が示す問題を指摘したいと思いながら、同時にソリューションとなり得るビジョンを提示したかったんです。

ドキュメンタリーでも娯楽作品を作るような感覚で

―― 今回映画に出てきたエピソードも人々も魅力的でしたが、どんな基準で登場人物を選ばれたのでしょうか。

ディオン:エコロジーに関心のない人でも、信じざるをえないほどの成功を収めている人であることが前提でした。そしてユニークなキャラクターを持った人物、しゃべるのが上手かったり、カリスマ性のある人などを選びました。劇映画を作る時には役者のキャスティングを行いますし、ロケーションも選びます。ドキュメンタリーでも同じようにやってるんです。

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―― 映画に登場しないたくさんの活動家にも会われているんでしょうか。

ディオン:ええ、たくさん会っています。僕はNGOを10年間運営していますが、その間にたくさんの人達に会ってきました。その中で、誰が映像の中で映えるかを考えて選んでいます。素晴らしい活動をしている人でも、カメラの前で上手く語ることができない人はいますしね。より多くの観客に見てもらうためには、より魅力的な人達に出てもらう必要があるんです。

―― 娯楽映画と同じような考えで作られているんですね。

ディオン:まさにそれを求めていたんです。これはロードムービーであり、ポップムービーなんです。アクティビスト的な視点で描くのではなくて、観客が映画的な体験を楽しめるようにしたかったんです。まずは楽しめなくてはいけないと思うし、楽しんでいる間に学ぶことができて、インスパイアされるような映画にしようと思っていたんです。

行動する観客たち

―― そのエンターテインメントとして作ったこの映画は、フランスでは110万人動員の大ヒットになりましたが、フランスの観客はどんな反応を示したのでしょうか。

ディオン:まず大ヒットしたことが信じられないことでした。フランスで110万人を動員して、さらに30カ国で上映されましたが、これはドキュメンタリー映画としては大きな成功と言えると思います。観客の多くは、この映画が希望を与えてくれたと言ってくれています。そして多くの観客が、映画を見た後に自分たちもいろんなことをやってみたいと思うようになったと言ってくれています。多くの人が、我々と同じような懸念を抱いていることに改めて気付かされましたね。

―― 懸念というのは、この地球の環境という意味でしょうか。

ディオン:それだけではなく、世界中には様々な問題が危機的な状況になっていることに気付かされたということですね。気候変動以外にも、多様性が失われていること、移民の問題やテロなど。そして政治のリーダーたちが、未来の指針を示すことがもはやできないことに、みんなが絶望していて、新しいビジョンを求めているんだと思います。

―― 具体的に観客からこういう取り組みを始めたと聞いたエピソードはありますか。

ディオン:フランスで1年前に映画が公開されてから、何百というそうしたプロジェクトの話をもらいました。なので映画のウェブサイトにそれらを紹介するコーナーを新たに設けたんです。(サイトはこちら。英語と仏語のみ)映画の中で取り上げたような試みを自分達もやっているんだという報告のほか、身近なところでは、車の代わりに自転車で通勤するようになったとか、リサイクルに取り組み始めたとか、いろいろ聞かせてもらいました。

―― 最後にこれから映画を見る日本の観客にメッセージをお願いします。

ディオン:誰にでも、世界に変化を与えることはできるというのが、この映画のメッセージです。何かしたいという情熱があるのなら、今すぐ行動すべきだと思います。

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