APEC/ASEAN:ロヒンギャ危機を最優先で

ベトナム、フィリピン、カンボジアの人権状況悪化にも対処を
Security officers gather before a ceremony for the Association of Southeast Asian Nations (ASEAN) summit in Manila, Philippines, November 5, 2017. © 2017 Reuters
Security officers gather before a ceremony for the Association of Southeast Asian Nations (ASEAN) summit in Manila, Philippines, November 5, 2017. © 2017 Reuters
ヒューマン・ライツ・ウォッチ

(ニューヨーク)— アジア太平洋地域の首脳が2017年11月10日~14日の日程で会談を行う。この場において、ビルマのロヒンギャ危機、およびベトナム、フィリピン、カンボジア各国の人権状況悪化への対処がなされるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは9日に述べた。

APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議は、ベトナムのダナンで2017年11月10日に行われた(APECは米国、中国、日本、ロシア、カナダ、オーストラリア、メキシコなどを含む21の国と地域で構成)。

またASEAN(東南アジア諸国連合)首脳は、フィリピンのマニラで11月12日に会談を行う予定であり、あわせて米国、欧州連合(EU)、日本、韓国などとの関連首脳会議が開かれる。

その後、大半の国がマニラの北にあるアンヘレスで11月13日~14日に開催される東アジア首脳会議(EAS)に出席の予定だ。

ビルマ国軍は2017年8月25日以来、ラカイン州北部でのロヒンギャ・ムスリムへの民族浄化作戦を行っている。治安部隊は虐殺、レイプ、略奪、家屋や財産への大規模放火などを行い、60万人以上が難民となってバングラデシュに逃れた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、一連の残虐行為が人道に対する罪にあたると判断している。今回の作戦行動を受けて、複数の国がビルマとの軍事面での協力を凍結し、国軍幹部への対象限定型制裁や旅券発給規制を発動している。

さらに強い措置をとり、人権侵害の停止、広範な人権侵害の認知、国内避難民の安全確保、独立した事実調査団の立ち入りを実現するよう、ビルマに圧力をかけることが求められている。

「ロヒンギャ危機は、近年アジアで起きた最悪級の人道危機であり、国際社会の一致した行動が必要だ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。

「各国首脳は帰国までの間に、ビルマ政府に圧力をかけ、人権侵害の停止と独立したモニタリング機関及び援助団体の立ち入り許可を実現するよう、対象限定型制裁の実施でしっかり合意すべきだ。」

国連安全保障理事会は、武器禁輸のほか、残虐行為に関与した軍人への対象限定型制裁と、ビザ発給制限の措置をとるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

安保理は人権侵害行為の非難決議をまだ採択していないが、11月6日に議長声明を出して暴力行為への懸念を表明。ビルマに対し、人権侵害行為の調査を担当する国連機関への協力を呼びかけた。

安保理はより実質的な行動を取る責務があるが、当面の対応として関係国、なかでもアジア諸国は、足並みをそろえた二国間または多国間の措置を実施し、対象限定型制裁とビザ発給制限を行うことができる。

APECとASEANの首脳会議に集まった各国首脳は、ビルマ政府に対し、国連人権理事会が2016年に設立した国連事実調査団と、その他の人権および人道支援分野で働く国連要員について、ラカイン州北部への立ち入りを認めるよう、一致して要求すべきだ。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、フィリピンでのASEAN首脳会議および関連首脳会議に参加する予定だ。国連総会では、ビルマに関する今年の決議をめぐる協議が進行中である。

アジアに集まる各国指導者は、ビルマの人権侵害実行者の法的責任を問う司法メカニズムの創設を、(総会や人権理事会なども含めて)議論すべきである。安保理はビルマの状況を国際刑事裁判所 (ICC) に付託すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「国際刑事裁判所は、今回ビルマで起きているような人道に対する罪を扱うためにこそ創設された」と前出のアダムズ局長は指摘した。「アジアでの首脳会合に参加する安保理理事国は、ビルマの現状の国際刑事裁判所への付託について協議すべきなのだ。」

強制的に家や住む場所を追われたロヒンギャの境遇はきわめて悲惨であり、アジア首脳会議で対策が取られるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

各国首脳は、中核的国際基準を満たさないロヒンギャ避難民の強制送還、およびさらなる人権侵害を生むであろう送還に関する計画については、政府として反対するとの立場を明確にすべきだ。

主要事項についての検討は、ヒューマン・ライツ・ウォッチが作成した「ビルマのロヒンギャ危機から生じた難民および国内避難民の保護に向けた10原則」を参照のこと。

ベトナム

11月10日にベトナムで開催されたAPEC首脳会議で、参加する指導者たちはベトナム政府が反体制派と人権活動家への取締りをエスカレートさせていることに懸念を表明すべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは近ごろ、ベトナムの政治囚105人の名簿を作成し、釈放を求めるキャンペーンで、うち15人のケースに焦点を当てた。ほか何十人もの反体制派の人びとが恣意的に拘禁され、裁判を待っている。

アダムズ局長は、「人権侵害的な一党制国家のベトナムが重要な首脳会談を主催しているかたわらで、100人超の政治囚が刑務所で衰弱しつつある」と述べる。「人権問題を憂慮している指導者たちは、ベトナム政府に対し、これらの政治囚を解放して、平和的な批判者を訴追しないよう強く求める必要がある。」

ベトナムの刑法では、政府やベトナム共産党を批判することは、国家の安全保障上の脅威とされうる。

政府は共産党以外の独立した政党や労働組合、人権団体を承認していない。いかなる一般集会にも許可が必要であり、政治的、または政府や共産党を批判する会議・行進・抗議集会には決して許可が出ない。

ベトナムの宗教団体は、政府の監督下でのみ活動している。当局は、公的な支配の外で活動する宗教団体を定期的に監視し、解散させるために嫌がらせや、時には暴力も用いる。

近年ベトナム当局は、政府批判や政治活動を抑えようとして新たな手法を用い出した。

たとえば平服姿のならず者による肉体的・心理的な嫌がらせ、警察による厳しい監視、超法規的な自宅軟禁、活動家の雇用主・大家・家族に対する圧力などだ。

移動の自由の制限は、ブロガーや活動家が一般行事に参加したり、反体制派の裁判の傍聴を防ぐために使われている。政府批判者に対する容赦ない暴力も依然として頻繁におこっている。

ベトナムの人権問題を訴えれば、APEC首脳会議に参加している中国やロシアなど、人権問題を抱える他の政府にも注意が向けられることになるだろう。

アダムズ局長は、「なぜ政府批判が犯罪であるべきなのか? これこそベトナムが主催するAPEC首脳会議で問われなければならない疑問だ」と述べる。「そして、その他の出席国首脳も同様に不快にする問いでもあろう。」

フィリピン

11月12日〜14日のASEAN首脳会議と関連サミットに出席する各国首脳は、ロドリゴ・ドゥテルテ比大統領の血塗られた「麻薬撲滅戦争」への懸念を表明するべきでもある。

違法薬物密売業者および使用者に対する超法規的殺人キャンペーンで犠牲になっているのは、主に都市部の子どもも含む貧困層出身者だ。このキャンペーンはまた、フィリピンの言論の自由と、政治的空間にも深刻な悪影響を及ぼしている。

フィリピン政府は2月に、「麻薬撲滅戦争」批判の急先鋒に立っていたレイラ・デリマ(Leila de Lima)上院議員を、政治的動機に基づいた虚偽罪状で拘束。ドゥテルテ大統領は再三にわたって、人権活動家や弁護士を威嚇し、全国に戒厳令を発動すると威嚇している。

アダムズ局長は、「これらサミットに集う世界指導者20人のうちの誰かが、恐ろしくかつ前例のない『麻薬撲滅戦争』の殺害について、比大統領に問いただせるはずだ」と述べる。「違法薬物関連容疑者を広く略式処刑する手法は、違法なだけではなく、効果的でなくかつ残酷なものだ。」

カナダやEUを含む世界各地の国々の多くで、対違法薬物政策と中毒治療は、地域社会に根ざした自発的治療に重きを置く、公衆衛生寄りのアプローチに移行している。

米国ではオピオイド危機への連邦政府の対応で、強制的措置よりも薬物依存治療を強調。ドナルド・トランプ米大統領は近ごろ、オピオイド危機について公衆衛生の緊急事態を宣言したが、政権が公衆衛生寄りのアプローチを実施するのに十分な行動を取っているとはいえない。

カンボジア

ASEAN首脳会議に出席する指導者たちは、カンボジアのフン・セン首相に対し、主要野党に対する根拠のない法的攻撃をやめ、でっち上げの罪で訴追されている野党政治家たちを釈放するよう要求すべきだ。

フン・セン首相はほぼ33年間にわたり権力の座についており、アジアで最長の期間権力の座にある人物で、世界レベルでも最上位クラスにいる。与党カンボジア人民党(CPP)は、カンボジアで長期にわたって政治を掌握しており、警察や軍隊、裁判所を支配しながら、偽りの訴追や威嚇、賄賂、容赦ない暴力などで体制を維持してきた。

ここ数カ月の間に、人民党は主要新聞を強制的に廃刊し、独立系ラジオ放送を停止、人権団体に嫌がらせを行ってきた。また主要野党カンボジア救国党(CNRP)の解散を狙っているとみられる。

政府は、救国党が議席の43%を獲得した今年6月の地方選挙からわずか3カ月後に、救国党の指導者の1人であるケム・ソカ氏を根拠のない反逆罪で逮捕した。 同党元党首のサム・ランシー氏は、根拠のない罪で訴追されたことが原因で、いまだ帰国できないでいる。

フン・セン首相はまた、その他の救国党議員にも訴追をちらつかせて威嚇。人民党支配下にあるカンボジア最高裁が、11月16日に救国党を永久に解散させるかについて、政治的動機に基づく事案の決定を下す予定だ。

「ASEAN首脳会議が行われているなか、カンボジアでは民主主義が崩れつつある」とアダムズ局長は指摘する。「カンボジアの友人たちは、一党支配の復活に努めるフン・セン首相の動きに異を唱え、野党および野党指導者に対する偽りの訴追を取り下げよと主張すべきだ。」

タイ

タイのプラユット・チャンオチャ首相は、2014年5月、民主的に選出された政府を転覆する軍事クーデターを率いた。

それでも責任を取らされることなく、プラユット首相の軍事政権は同国を治政。政治的活動や平和的な集会を禁じ、政府や軍隊、王制を批判した人びとが数千人規模で(パロディや風刺であっても)恣意的に拘禁されている。

現在1400人超の一般市民が軍事法廷での裁判を待つ。 Lese majeste (不敬罪)や教唆ほかの立件で、日々言論の自由が抑圧され、反体制派が脅しを受けている。

民主的な文民統治を回復させる、という軍事政権の公約は何度も破られており、その期限までの時間が何の進展もないまま過ぎている。たとえ選挙日が決定しても、実質的な改革がなければ、その手続きが自由かつ公正な選挙に繋がる可能性は低い。

深刻な欠陥を抱えた国民投票で採択された2016年8月の憲法の下、軍事政権が指名した上院(議会の最大政治勢力で首相選出に直接的な役割をもつ)と共に、軍事政権が権力を掌握し続ける可能性がある。

アダムズ局長は、「タイはかつてアジアの主要な民主主義国家のひとつだったが、今や軍事支配の下で停滞している」と指摘する。「タイの友好国はアジア首脳会議を利用して、よりよい関係はタイが『管理された民主主義』を放棄し、民主的な文民統治と政治的自由を回復することにかかっていると主張すべきだ。」

(2017年11月9日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)

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