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バングラデシュ:児童婚で傷つけられた少女たち

2015年06月20日 23時05分 JST | 更新 2015年06月20日 23時06分 JST
© 2015 Omi for Human Rights Watch

(ダッカ)— バングラデシュ政府はその公約にもかかわらず、児童婚廃絶に向けた措置を未だ十分にとらずにいる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。それどころか、シェイク・ハシナ首相は2014年7月に2041年までに児童婚を廃絶する、と誓ったのとは反対の方向に舵を切り、婚姻適齢(結婚が法的に可能な年齢)を18歳から16歳に下げようとしており、公約が反故にされるのではないかという重大な懸念が深まっている。

ユニセフの研究によると、バングラデシュは15歳未満の少女の児童婚率が世界でもっとも高く、少女の29%が15歳になる前に結婚するという。11歳になる前に結婚する少女も2%いる。中央政府の不作為に地方政府が相乗るかたちで、幼い少女たちを含む児童婚が、制止されることもなく続いている。自然災害に対して著しくぜい弱な同国では、被害を受けて貧困状態に陥った家庭のなかで、娘を結婚させるという決定に拍車がかかることも多々ある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ女性の権利局の上級調査員ヘザー・バーは、「バングラデシュにおける児童婚は疫病であり、自然災害でその流行が更に悪化してしまう」と述べる。「政府はこれまでいくつか正しい見解も示してきた。しかし、女性の婚姻適齢を引き下げる法案は正反対のメッセージを送るだけだ。政府は、次世代の少女たちの人生が台なしになってしまう前に手を打つべきだ。」

報告書「家が流される前に結婚してしまいなさい:バングラデシュの児童婚」(全134ページ)は、バングラデシュ全土で100人超に対し実施した聞き取り調査を基にしたもの。その大半は既婚の少女たちで、中には10歳という若さの少女もいた。本報告書では、同国で児童婚が盛んな要因を調査・検証。貧困や自然災害、教育へのアクセスの欠乏、社会的圧力、嫌がらせ、花嫁持参金などに焦点を当てた。また、児童婚が少女およびその家族の人生に及ぼす悪影響についても、中等教育の断念や早期妊娠による死といった重大な健康被害、扶養放棄、夫および義理家族による家庭内暴力などに注目し、詳述している。

バングラデシュでは1929年から児童婚を法律で禁じており、80年代に婚姻最低年齢は女性が18歳以上、男性が21歳以上と定められた。にもかかわらず、同国はニジェール、中央アフリカ共和国、チャドに続き世界で4番目に18歳未満の児童婚率が高い国で、実に少女の65%が18歳未満で結婚している。

政府が児童婚を禁ずる現行法を執行せず、その要因への対応を怠っている結果、児童婚がしばしば貧困への対処メカニズムとなってしまっている:

  • 子どもを扶養できない、または教育費を捻出できない親は、娘が食べていけるようにという単純な理由で結婚先を探すことがある。
  • 教育自体は無償でも、試験の費用や制服、学用品ほかの費用を払えないことから、貧困家庭の少女は教育へのアクセスを持てないでいる。
  • 学業を断念した少女たちの多くは親によって結婚させられている。
  • 未婚の少女に対する性的嫌がらせと、それを阻止しない警察の不作為もまた、児童婚のまん延に繋がっている。
  • 広く一般的である持参金の慣例(若い少女の持参金は少なくてすむ)を含む社会的圧力および伝統により、児童婚は一部のコミュニティで容認されているだけではなく、期待すらされている。

本報告書により、自然災害も児童婚問題の一環であることが明らかになった。バングラデシュは、世界でもっとも自然災害および気候変動の影響をうけている国のひとつだ。そのため多くの家庭が更なる貧困に追いやられ、まだ子どもである娘が結婚させられるリスクも伴って高まる。災害をきっかけに、あるいはそれを見越して、年若い娘を早く見合い結婚させねばならない圧力を感じる、と話す家庭も多い。この傾向は特に、河川の侵食からじわじわと起こる家や土地の喪失に直面している家庭に顕著だ。

バングラデシュ政府は実効的な児童婚廃絶の対策を講じないでいる。2014年にロンドンで開催された国際会議「ガール・サミット」で、ハシナ首相が児童婚廃絶を誓い、2014年末を期限とする児童婚関連法の改正や国家行動計画の策定など、一連の措置を打ち出した。が、現在に至るまでいずれも達成されていない。それどころか、政府は女性の婚姻適齢を18歳から16歳に引き下げるという、誤った方向に舵をきってしまった。

地方政府関係者の多くもまた、当該危機に直面する少女たちを裏切っている。バングラデシュ国内法で18歳未満の少女の結婚は違法であるとの認識は広まりつつある。しかし、地方政府関係者が児童婚の促進に力をかしてしまっており、この認識が台無しになっているのが現状だ。今回の報告書で調査対象となった人びとは口々に、政府関係者が少女の年齢を18歳以上とする偽の出生証明書を、時にわずか1.30米ドルほどの賄賂で発行していると証言した。万が一、地元政府が児童婚を阻止した場合でも、別の管轄区で容易に結婚できてしまう。

前出のバー上級調査員は、「バングラデシュ政府は、首相が公約した児童婚廃絶の誓いに、積極的かつ迅速に従うべきだ」と述べる。「その第一歩は、女性の婚姻適齢を16歳まで引き下げる法案の速やかな撤回であるべきだろう。」

バングラデシュは、女性の権利も含め、開発の成功物語として語られることもあった。国連はバングラデシュが1991〜92年には56.7%だった貧困率を2010年には31.5%に減少させたことを「素晴らしい」と評している。また、初等および中等教育における在校率も男女差がなくなった。妊産婦の死亡率も2001年からの10年間に40%減少。こうして、開発上のゴール達成において一定の成功をおさめている国だからこそ、なぜ児童婚率が世界最悪レベルのままなのか、なおさら疑問が残る。

経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、女子差別撤廃条約、そして子どもの権利条約の加盟国として、バングラデシュは少女と女性の権利を保障する義務を負っている。そのなかには、差別からの自由の権利、得られるもっとも高い水準の保健・教育への権利、自由かつ全面的な同意のもとの結婚への権利、配偶者を選ぶ権利、そして肉体的・精神的・性的暴力からの自由の権利などが含まれる。バングラデシュにおける児童婚は、これら権利の不十分な履行・保護の原因となる可能性がある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが実施した村単位の調査では、児童婚を禁ずる法律が執行されないでいる現状や、児童婚のリスク上にある少女を支援するための保健・教育・社会プログラムに大きなギャップがあることが浮き彫りになった。政府は初等教育を無償にすることで、教育へのアクセス促進において重要な前進を果たしている。しかし、特に中等教育レベルでは就学にまつわる諸費用が原因で、実際は学校に通えない子どもがかなり多くおり、特に少女にとってはそれが児童婚へ直結することもしばしばあるのだ。貧困家庭や災害被害家庭への支援を担当する政府機関が、児童婚阻止のためにもっと活用されるべきだろう。リプロダクティブヘルスについての情報や避妊用具へのアクセスも、それらをもっとも必要とする多くの少女たちに届いていない。暴力や虐待に直面している少女たちは、多くの場合助けをどこにも求めることができなかった。児童婚に関する国内法改正の必要性はもちろんだが、更に重要なのは、それが完全に執行されることだ。

前出のバー上級調査員は、「政府の児童婚に対する不作為は、バングラデシュのもっとも貴重な宝のひとつである若き女性たちに、大変な危害を及ぼしている」と指摘する。「政府そしてドナー国・機関は、就学の継続や、児童婚のリスク上にある少女の支援、性的嫌がらせとの闘い、リプロダクティブヘルス情報および避妊用具へのアクセス提供といった分野で、まだなすべきことがたくさんある。そして何よりも、政府は児童婚を禁止する自らの法律を施行すべきだ。」

抜粋証言

「私には娘たちを食べさせていくだけのお金がありません。だから結婚させるしかないと決めたんです」— ファティマ.A(5人の子どもを持つ母親)

「私の父が所有していた土地や家は、河川の侵食で水のなかよ。だから両親は私をお嫁にやったの」— スルタナ.M(14歳で結婚、16歳の現在は妊娠7カ月)

「学校を辞めてしまったので、結婚したのよ」—マリアム.A(15歳で結婚した少女。6年生になると就学関連の費用が高くなり、通学も往復で7キロ長くなることから、5年生で自主退学した)

「この辺の長老たち(地域の男性指導者たち)は、あなたのところの娘も歳をとってきたね、というかもしれない。誰も何も言わなかったけれど、(私の両親は)恐れていた。それで先手を打って私たちを結婚させたのよ」—レッカ.H(12歳で結婚した少女。姉や妹も11歳で結婚したが、その理由を上記のように説明した)

「今なら妹は若くてかわいいから、持参金なしに結婚させることもできる。あなたが警察を連れてきてしまったら、歳をとった妹を嫁に行かせるのはもっと大変になってしまう」—ルハナ.Mの兄(おじが結婚阻止をちらつかせたのち、なぜルハナが12歳で結婚すべきなのかを力説して。結婚は遂行された)

「義理の両親が『勉強したいならしてもいい』っていってくれた。でも結婚した途端、『そんなの無理だ』って」— ラビヤ.A(13歳の時に30歳の夫と結婚した少女。現在は14歳だが、夫と義理の両親はラビヤがまだ妊娠しないため失望していると話した)

「義理の両親は孫を欲しがっていませんでした。でも私は避妊薬の飲み方がわからなかった。若かったし、すぐに妊娠してしまいました」—ラクシュミ.S(12歳で結婚し、現在18歳の少女。6歳の息子と乳児の娘を持つ)

「(夫は)無理やり挿入してきて、私は涙で周りのすべてを濡らすほど泣いた。すごくつらくて痛かったから。翌日、私は動けないほど痛かったのに、入浴させられたわ」—ラシーダ.L(10歳か11歳の時に結婚した少女)

「カジ(イスラム教の婚姻登録係)が私の娘の出生証明書に14歳と書いてあるのをみて、婚姻届を拒否しました。そして(地元政府の)議長のところに持って行って年齢を変更した後、受理したのです」—ファーハナ.B(議長は出生証明書の変更に100タカ(1.30米ドル)を要求した)

「ここは河川の侵食を受けた土地。家を川に取られたら結婚が難しくなってしまうから、今してしまったほうがいいんだ」—アジマ.B(アジマがなぜ13歳で結婚しなければならなかったのか、両親が説明して)

(2015年6月9日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)