ナイジェリア:今年1月以来 1,000人超死亡 速やかな避難民の支援が求められる

イスラム過激派ボコ・ハラムによる攻撃で、今年に入ってから1,000人超の一般市民が犠牲になったと、目撃者証言や報道分析をもとにヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。

くる週もくる週も、ボコ・ハラムの人権侵害は凶悪さを増している。ナイジェリア政府は、ボコ・ハラムに対する軍事作戦の優先課題に、一般市民の保護をすえるべきだ。

(アブジャ)― イスラム過激派ボコ・ハラムによる攻撃で、今年に入ってから1,000人超の一般市民が犠牲になったと、目撃者証言や報道分析をもとにヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ボコ・ハラム戦闘員は意図的に村落を襲撃して、大量殺人や拉致を行っており、2月以来、被害はナイジェリア北東部からカメルーンやチャド、ニジェールにまで拡大している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは1月下旬、北東部のヨベ、アダマワ、ボルノ各州から避難してきた人びとに聞き取り取材を行い、残忍きわまりない恐怖の実態を明らかにした。2014年半ばからボコ・ハラムは、ナイジェリア北東部3州17の自治体にある数々の町や村落を支配下に置いてきた。今年3月に入ってからは、ナイジェリア軍とチャド軍がその一部を奪還している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのナイジェリア担当調査員マウシ・セグンは、「くる週もくる週も、ボコ・ハラムの人権侵害は凶悪さを増している」と述べる。「ナイジェリア政府は、ボコ・ハラムに対する軍事作戦の優先課題に、一般市民の保護をすえるべきだ。」

調査結果から、ナイジェリア政府軍およびカメルーン、チャド、ニジェール軍と、ボコ・ハラム間の紛争における人的被害の大きさが浮き彫りになった。ナイジェリアのNational Emergency Management Agencyによると、2009年7月にこのイスラム過激派の反体制派勢力の武装蜂起以降、100万人近くが避難を余儀なくされている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ボコ・ハラムによる攻撃の犠牲となった一般市民の数は、2014年中に少なくとも3,750人にのぼると推定している。2015年の1―3月の間の攻撃の数は、2014年同時期に比べて増加しており、女性や子どもが利用されたと見られる自爆テロ7件もある。

またボコ・ハラムは、何百人もの成人女性や少女を拉致。多くが強制改宗や強制結婚、レイプなどの人権侵害を受けた。成人男性や少年がボコ・ハラムへの参加を強制されるか、さもなければ死に直面したことも、ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は明らかにしている。数十万人規模の人びとが家を離れたが、これはボコ・ハラム戦闘員にそう命じられたか、身の危険を感じてのことだった。

避難した人びとは口々に、ボコ・ハラムによる殺人や、自宅およびコミュニティ焼き討ちを目撃したのち、脱出した際に持ち出せたのは衣類のみだったと証言する。こうした被害をナイジェリア治安部隊によって受けたケースも1件あった。

「ボコ・ハラムが投げつけてきた爆弾が丘にいた私たちの周りで爆発し始めた時、人間の体がバラバラになって、あちこちに飛び散るのをみました」と、ボルノ州グオザの丘で遭遇した攻撃について、1月下旬にある住民が証言した。「飢餓と乾きですでに弱っていた人びとは、爆発による煙で何度もむせて、気絶してしまいました[中略]。私はあの夜脱出しました。」

避難民たちはまた、ボコ・ハラムが学校を狙って焼き討ちにしていた様を詳述。一部の学校は政府軍に接収されていた。軍事利用されていない学校などの民間施設(民用物)に対する意図的な攻撃は、戦争犯罪に該当する。ボコ・ハラムによる学校襲撃、村落への攻撃の結果余儀なくされる避難、ナイジェリア軍による学校の軍事利用は学校に損害を与えるだけではない。北東部に住む何千人もの子供たちが教育機会を奪われている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査で、ナイジェリア政府治安部隊がボコ・ハラムに対する軍事作戦を展開した際に、一般市民を保護するために実行可能なすべての措置をとる責任を果たさなかったことも明らかになった。

たとえば昨年12月に、ナイジェリア政府治安部隊がバウチ州にあるボコ・ハラムの拠点に近い村落ムンドゥを襲撃し、焼き払った。この攻撃に関する複数の目撃証言によると、一般市民5人が死亡し、70世帯が家を失ったという。村の住人たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに、攻撃時にボコ・ハラムは村にいなかったと話した。

「兵士は英語らしき言葉で叫んでいましたが、私たちのほとんどは理解できませんでした」と村の指導者はいう。「兵士が発砲して、家や建物に放火し始めてから、みな逃げ出し始めたのです。2日後に戻ってみると、5人の遺体がありました。」犠牲者は、自宅で焼殺された80歳の盲目の男性や、精神障がいをもつホームレスの女性、結婚式に出席するために村を訪れていた2人、そして20歳の男性で、全員に銃痕があった。

首都アブジャの陸軍当局は、ヒューマン・ライツ・ウォッチが3月11日に調査結果を提示した際に、当該事件については知らないが、申立てについて軍事警察に捜査命令を出したと述べた。

メディアの報道によると、昨年9月〜今年3月の間に、ナイジェリア軍当局が北部での軍事作戦に参加した307人の兵士を「臆病」・反逆ほかの軍事犯罪で訴追し、うち70人に死刑判決が下されたという。これに対しヒューマン・ライツ・ウォッチは、その残忍性ゆえにいかなる状況下での死刑にも反対する立場をとる。一方で、北東部における一般市民に対する人権侵害ゆえに訴追された軍関係者はいない。

前出のセグン調査員は、「北東部の一般市民は、ボコ・ハラムによる攻撃からの保護を必死の思いで求めている。そんな人びとが、守ってくれるはずの政府軍兵士から標的にされるようなことがあってはならない」と指摘する。「しかるにムンドゥでの人権侵害疑惑について捜査を行うという軍の決断は、アカウンタビリティ(真相究明・責任追及)の確保と被害者への賠償にむけた、重要な第1歩といえる。」

アフリカ連合(AU)は今年1月、ナイジェリア、チャド、カメルーン、ニジェール軍からなる対ボコ・ハラム多国籍部隊の投入を正式承認。派遣決定はカメルーン、ニジェール、チャドに越境する武装勢力が増加したことを受けたため。この決定前に、ナイジェリア北東部にある無数の村落や町が攻撃されていた。

アフリカ連合は、国連安保理決議がこの多国籍部隊を正式承認する方向を模索している。カメルーン、チャド、ニジェール軍の支援を受けたナイジェリア治安部隊は3月初旬以来、北東部の一部地域からボコ・ハラムを掃討した。

国際刑事裁判所(ICC)の検察官がナイジェリアの事態を現在予備審査中だ。予備審査の結果、ICCによる捜査が開始されることも、されないこともある。ICC検察官は2015年2月2日、ICCの管轄権内でナイジェリアにおける暴力行為を扇動または実行した個人は、ナイジェリア国内法廷またはICCによる訴追の対象となる旨を警告した。ICCは、国内法廷が国際法に違反する重大犯罪を捜査・訴追できない、またはその意思がない場合にのみ介入する最終措置である。

ナイジェリア政府当局は、ムンドゥで12月6日に起きた事件をしっかり捜査し、人権侵害および戦争犯罪に関与した指揮官など、あらゆる軍関係者の責任をしっかり問うべきだ。また、ボコ・ハラムによる戦争犯罪を適切に捜査し、加害者を公正な裁判で裁かなければならない。

前出のセグン調査員は、「軍事行動は強化されたものの、ナイジェリア北東部の一般市民が置かれている悲惨な状況を、これまで少しも改善できていない」と指摘する。「一般市民を保護するとともに軍による人権侵害の責任を問うために、一層の努力をしなければ、事態は今後も悪くなるばかりだ。」

(2015年3月26日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)

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