カンボジア:死に瀕する民主主義

裁判所が野党解散を命じれば、外交官とドナー国政府は行動を起こすべき
カンボジアのフン・セン首相
カンボジアのフン・セン首相
© 2017 Reuters/Samrang Pring

(ニューヨーク)― カンボジア最高裁判所は、最大野党の解散命令を求める政治的圧力に屈してはならないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。カンボジアのドナー国と支援国は、カンボジア救国党(CNRP)が解散されれば、2018年に予定される国政選挙に正当性はなくなると明確に発言すべきだ。

2017年11月16日、カンボジア最高裁は、フン・セン首相が10月に行った救国党解散要求に基づく訴訟について判断を示す見通し。カンボジア政府は救国党が「カラー・レボリューション」(世界各地での民衆蜂起のこと)を試みようとしたと非難するが、提訴にあたり違法性を示す証拠は一切提出されなかった。

「フン・セン首相は2018年国政選挙での敗北を恐れているようだ。それで野党の非合法化という究極の手に訴えている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは指摘した。「最高裁は実質的に与党機関の1つというのが現状だが、独立性と法の支配を示す歴史的チャンスを生かすべきだ。」

フン・セン首相は、救国党が解散されれば、同党の議席を他党に配分すると宣言している。

また2017年6月の地方議会選挙で当選した救国党議員に対し、カンボジア人民党(CPP)に移るよう迫っており、移籍しない救国党員の議席はすべて与党の人民党に移ると述べた。

救国党は、2013年国政選挙と2017年地方議会選挙でともに大きく躍進している。

30年以上も国のトップの座にあるフン・セン首相、ティア・バン副首相兼国防相など、政府と軍の首脳は、救国党解散に抗議するカンボジア国民に実力行使を行うとの脅迫を公的場面で何度も行ってきた。

救国党所属の国会議員の半数以上が、逮捕や暴力を恐れ、この数週間に国外脱出している。

救国党解散命令を裁判所に求めるにあたり、現政権は次回国政選挙の勝利を目指す野党側の行動や計画を、国家反逆罪として扱っている。

2017年9月3日、当局は首都プノンペンの自宅で救国党のケム・ソカ党首を恣意的に逮捕し、ベトナム国境近くの僻地の刑務所に移送。弁護士との連絡も十分につかない状態での身柄拘束が続いている。

ケム・ソカ氏は反逆罪で起訴されたが、米国政府が資金拠出する複数の団体から救国党が受けた、民主主義と党の組織化に関する研修について議論したことが容疑にあたるとされた。しかしこれらの団体は、人民党に対して長年にわたり似たような研修を行ってきた。

ケム・ソカ氏の逮捕後、救国党創設者で元党首のサム・ランシー氏に対する刑事事件や有罪判決がいくつもねつ造された。氏は、最高裁が政府の言いなりに下す可能性のある有罪判決による長期刑を避けるため、2015年11月から亡命を余儀なくされている。

今回の救国党解散計画は、フン・セン首相と人民党が行う、あらゆる非暴力の現政権批判活動を標的とした大規模で広範な弾圧の一環であると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

この数カ月、政府はカンボジア・デイリー紙に廃刊を命じたほか、独立系の地元ラジオ局、およびラジオ・フリー・アジア(RFA)とボイス・オブ・アメリカ(VOA)のクメール語放送を再放送するFM局を強制的に閉鎖させた。

2015年5月以降に恣意的に逮捕された野党および民間の活動家36人のうち、少なくとも20人が現在も獄中にある。多くは、国際基準を到底満たさない簡易裁判を受けている。

「フン・セン首相は複数政党制や言論の自由をはじめ、1991年のカンボジア和平パリ協定の締結で獲得されたあらゆる人権を破壊する途上にある」と、前出のアダムズ局長は述べた。

「ドナー国政府と外交官は選択を迫られている。民主主義の可能性が潰えるのを座視するのか。それとも、フン・セン首相がカンボジアを事実上の一党独裁国家に戻せば、重大な政治的、経済的、外交的代償を払うことになるとのメッセージを発するか。その二つに一つだ。」

(2017年11月15日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)

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