中国:試されるオリンピック委員会、原則守れるか 表現・報道の自由への制約、蔓延する差別

国際オリンピック委員会(IOC)は開催都市に人権状況改善を新たに義務づけた。その実効性が2015年3月24日~28日のIOC評価委員会の中国訪問時に試されることになるだろうと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
BEIJING, CHINA - MARCH 24: Alexander Zhukov, head of the 2022 Evaluation Commission for the International Olympic Committee (IOC), third from right, shakes hands with representatives of Beijing's 2022 Winter Olympics bid committee outside of the Beijing National Aquatics Center, also known as the Water Cube, on March 24, 2015 in Beijing, China. (Photo by Mark Schiefelbein-Pool/Getty Images)
BEIJING, CHINA - MARCH 24: Alexander Zhukov, head of the 2022 Evaluation Commission for the International Olympic Committee (IOC), third from right, shakes hands with representatives of Beijing's 2022 Winter Olympics bid committee outside of the Beijing National Aquatics Center, also known as the Water Cube, on March 24, 2015 in Beijing, China. (Photo by Mark Schiefelbein-Pool/Getty Images)
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中国政府は憲法と国際条約・国際人権基準で人権の擁護と保護を約束している。しかし人権状況の悪化を止めるのにほとんど役立っていない。2008年夏季五輪では改善が約束されたが、実際に起きたのは弾圧だった。7年後の現在、市民社会は実に激しい攻撃に再びさらされている。IOCが新基準を中国の人権状況に適合すると見なすのは難しいだろう。

(ニューヨーク)国際オリンピック委員会(IOC)は開催都市に人権状況改善を新たに義務づけた。その実効性が2015年3月24日~28日のIOC評価委員会の中国訪問時に試されることになるだろうと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。中国は2022年の冬季五輪に立候補している。

オリンピック憲章には人間の尊厳を保ち、報道の自由を擁護する内容が長年含まれてきた。しかしIOCは、2008年の北京五輪と2014年のソチ五輪でこれらの公約を擁護しなかったとして批判を受けた。両大会とも広範な人権侵害でその価値が傷ついたことから、IOCは一連の公約を発表した。その1つが2014年12月の「オリンピック・アジェンダ2020」だ。公約に基づき、開催国は明確な差別禁止条項を含む契約書にサインするとともに、人権・労働・環境を保護することになる。

「中国政府は憲法と国際条約・国際人権基準で人権の擁護と保護を約束している。しかし人権状況の悪化を止めるのにほとんど役立っていない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのソフィー・リチャードソン中国部長は述べた。「2008年夏季五輪では改善が約束されたが、実際に起きたのは弾圧だった。7年後の現在、市民社会は実に激しい攻撃に再びさらされている。IOCが新基準を中国の人権状況に適合すると見なすのは難しいだろう。」

習近平政権下の中国政府と共産党はこの10年間、政治的動機に基づいた刑事捜査、拘禁、判決をかつてない厳しさで行っている。政権批判に対する攻撃性は高まるばかりだ。政府はメディア大学への規制をいっそう強めている。浦志強弁護士ら著名な非暴力活動家を複数訴追し、国内治安機関による締め付けを強化している。政府は今年1月下旬に大半のVPN(仮想プライベートネットワーク)へのアクセスをブロックした。多くの中国在住ジャーナリストなどは、中国のインターネット検閲システム(通称グレート・ファイアウォール)を回避するためにVPNを用いている。

中国が開催した2008年夏季五輪では数々の人権侵害が起きた。インターネットへのアクセス制限と検閲建設業の出稼ぎ労働者への人権侵害、強制立ち退き、市民活動家の発言封殺などだ。聖火リレーは世界各地で反対や抗議の声に遭った。とくにチベットのラサ通過時には、この街が2008年3月にかつてない規模の抗議行動で沸騰した直後だっただけに、とくに批判が高まった。政府が抗議活動ゾーンとして定めたエリアでさえ抗議行動は一切認められなかった。少なくとも1人が許可を得ようとして投獄された

オリンピック憲章の根本原則の第6条は、開催国に対し「いかなる形の差別もなしに」、憲章で記された「権利と自由」を保障することを求めている。この条文は「オリンピック・アジェンダ2020」の第14勧告に沿って最近改正され、「性的指向」が追加された。しかし、性別、ジェンダー、民族、障がい、セクシュアリティなどに基づく差別は中国全土で依然根強い。

  • 国連女子差別撤廃委員会は2014年の中国に関する審査で「家族と社会での女性と男性の役割・責任分担をめぐって持続的に存在する根深いステレオタイプ」に懸念を示した。

  • 国連人種差別撤廃委員会は2009年の中国に関する審査で、民族的少数者が医療、行政サービス、教育、雇用を利用する際に直面する障害を詳述している。

  • 政府統計によれば中国には8,300万人の障がい者がおり、教育と雇用で共に大きな壁を経験している。障がい児の4人に1人以上が初等教育を終えずに退学している。

  • 性的指向やジェンダー・アイデンティティ(性自認)の差別から市民を保護する法律は今のところない。同性パートナーシップへの法的認知もない。

差別は雇用面で顕著だ。求人広告は性別を指定する場合が多く、社会の構造的な性規範を反映、強化している。観光や事務、販売が典型だ。女性募集と明記され、若く長身で見た目がよいことが条件とされていることも多い。

2008年北京五輪での求人広告にはこうした表現が用いられたものもあった。北華大学による旗手募集広告は男性限定だった。中国共産主義青年団は北京上海の複数の大学で、選手と来賓の付き添い係「エチケット・ボランティア」を募集した。その掲示は応募者を「1983年7月1日から1990年6月30日に生まれた身長168cmから178cm」の女性に限るとした。さらに「容姿端麗」であるとともに「上品で魅力的」であることを条件とした。

このほか、国内出稼ぎ労働者の尊厳、報道の自由、環境保護も依然として問題だ。大規模なインフラ工事で雇用されることが多い出稼ぎ労働者については、戸籍制度改革が徐々に進んでいるものの、しっかりと契約を結び、医療や子どもの教育など社会サービスを利用することはいまだに難しい。中国は内外の報道機関への厳しい規制を続けており、現在もジャーナリスト44人を投獄している。新しい環境法が施行され、政府は対処を公約している。だが至るところで環境が汚染されている。最近、国内の深刻な環境汚染を扱ったドキュメンタリーが政府による検閲に遭ったところだ。

IOCの要求事項を満たすため、各国政府には、とくに公務員に関する差別禁止法を強力に実施することが求められる。しかしまた民間部門での差別禁止に向け、理にかなった対応を取ることも義務づけられている。中国は憲法をはじめ、様々な法律で差別を禁じてはいる。ただし差別の定義はなく、差別を行った公的または民間の団体への罰則もない。中国の場合、IOCの要求事項を満たすためには、現行法の見直しと改正を行い、それらを強力に実施する必要があろう。

「派手な建物の建設や華々しい開会式の実施を約束すれば、開催国として選定されるという時代ではもはやない。基本的人権の尊重が義務づけられるべきだ」と前出のリチャードソンは述べた。「IOCが自ら定めた基準を曲げずに適用することができるかが、注目されている。」

(2015年3月23日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)

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