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モロッコ:人生の終末期に必要のない痛みに耐える幾千もの人びと

2016年03月15日 16時26分 JST | 更新 2016年03月15日 16時26分 JST

(ニューヨーク)— モロッコでは数万人規模の終末期にある患者が、衰弱するほどの痛みなどの症状に不必要に苦しんでいる、と本日(編注:2016年2月4日)ヒューマン・ライツ・ウォッチは、世界がんデーにあわせて発表した報告書内で述べた。

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Patients and their relatives waiting outside Morocco’s National Institute of Oncology in Rabat, Morocco.

© 2014 Matt Simon/Human Rights Watch

報告書「私を切り裂く痛み:モロッコにおける緩和ケアへの権利保障の課題と前進」(全77ページ)は、毎年6万2,000人超のモロッコ人が緩和ケアを必要としていると推定。

緩和ケアとは、痛みなどの症状を治療することで、終末期にある人びとの生活の質の向上に重点をおくものだ。モロッコ政府は終末期ケアを改善するために数々の重要な手段を講じてきた。

しかし本報告書の調査で、必要不可欠なこの医療サービスを提供する特別病棟をもつ医療施設は、カサブランカと首都ラバトにあるわずかふたつの公立病院にとどまり、その対象もがん患者に限られていることが明らかになった。

これらの都市以外の場所で激しい痛みに苦しむ患者は、これらの医療施設に大変な思いをして通院するか、効果的な疼痛治療薬なしの治療を続けるよりほかない。

Each year, more than 62,000 Moroccans need palliative care and needlessly suffer from debilitating pain and other symptoms.

ヒューマン・ライツ・ウォッチ保健と人権プログラムのアソシエート・ディレクター、ディデリク・ローマンは、「モロッコ政府は早急に緩和ケアサービスを拡大する必要がある」と述べる。 「現在モロッコでは、がんやその他の深刻な健康状態にある何千人もの人びとが、治療可能な症状で不必要に苦しめられている。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれまで、不治の病を患った人びとに対し国がどのような医療サービスを提供しているかについて、一連の報告書を発表しており、本報告書は9番目となる。これまで報告してきたのは、アルメニア、インド、ケニア、メキシコ、セネガル、およびウクライナだ。

モロッコでは2014年9月から2015年1月の間に、5つの地域で計85人の患者および医療従事者に対して綿密な聞き取り調査を実施。加えて、緩和ケアに関連する国内法、規制、政策の広範に及ぶ分析を行った。

調査結果からみえてきたのは、症状が進んだ心臓・肺・腎疾患など、がん以外の病気のために緩和ケアを必要としている人びとが特に悲惨な状況にあり、その数は毎年4万人にのぼるという実態だった。モロッコではこうした患者を対象にした緩和ケアサービスがまったく存在しないためだ。

緩和ケアサービス不足の結果、実に多くの患者が適切な治療を受けられないまま、激しい痛みに苦しんでいる。わずか50人に1人ほどの医師しか、外来患者のためのモルヒネを処方できない。

モルヒネは人生の終末期の激しい痛みに対する主力治療薬だが、モロッコではこれを必要とする5人のうち4人が処方されていないと推定される。 カサブランカと首都ラバトの外にでてしまえば、在宅の緩和ケアは皆無である。

足と腹部に腫瘍ができていたが、緩和ケアへのアクセスがなかったある29歳の男性は、「痛みで眠ることも友達と話すこともできなかった」と話す。「頭を壁に打ちつけたいと思ったほどです。」

一方で、近年モロッコ政府が緩和ケアサービスを発展させるために、意味のある前進を果たしてきたことも調査結果から分かっている。 2010年と2012年に、緩和ケアに関するしっかりとした条項を含む国民健康政策を採択。

2013年には、問題となっていたモルヒネのアクセス制限を、薬物法から削除した。そして2015年、モロッコは医学部のカリキュラムに疼痛緩和ケアを履修単位として盛り込んだ、中東・北アフリカで最初の国のひとつとなった。

しかしながら、その実行は遅れている。

政府が2013年にモルヒネを処方するための規制を簡素化した一方で、様々な法的・教育的障害がその実用を妨げているのである。政府は2011年から2013年の間にフェズとマラケシュで緩和ケア病棟の開設を予定していたが、まだ実現していない。

強力な鎮痛剤のストックがある薬局や病院はごく一部で、それらを処方する医師も限られている。加えて、医療サービス提供者のための継続的な医学教育プログラムも限定的なままだ。

世界保健機関(WHO)は、緩和ケアを医療の一部をなす不可欠のものと考えており、国の医療制度に統合するよう勧告している。

モロッコが1979年に批准した経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)の第12条は、政府には緩和ケアの可用性、モルヒネなど緩和ケアに必要不可欠な医薬品へのアクセス、および医療従事者の適切な訓練を保障する義務があると定めている。

これを怠れば健康への権利の侵害につながるかもしれず、かつ特定の事例では、残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱いの禁止に抵触する可能性も出てくる。

モロッコの緩和ケアにおける先駆者であるマティ・ネジミ(Mati Nejmi)博士は、「モロッコは、フランス語圏のアフリカ地域において緩和ケアの分野でリーダーになるチャンスを与えられている」と指摘する。

「しかし、これらの医療サービスを確実に利用可能なものにするために、努力を大幅に増す必要があるだろう。」

(2016年2月4日 「Human Rights Watch」より転載)